四条大宮の飲み屋街は、全体として一軒の店のような雰囲気があり、それがいいところなのだけれども、理由はほとんどの店が、チャージを設定していないからなのだ。
普通ならレストランはもちろん、バーでも、居酒屋でも、安くても300円、高ければ1000円くらいのチャージがあり、飲み物と食べ物の料金の他に、それを取られることになるが、四条大宮にはそれがないから、1軒のお店で3杯飲んでも、3軒のお店で1杯ずつ飲んでも、払うお金は変わらないことになる。
だから四条大宮では、ほとんどのお客さんがお店をハシゴして飲む。
多くのお店でお客さんが重なっているから、何となくどの店へ行っても、いつも顔なじみがいて、同じ店にいるかのような気がしてしまうのである。
ぼくもよく、四条大宮をハシゴして飲むのだけれど、昨日はそんなつもりなどサラサラなく、晩酌の買い物もしてあって、スピナーズへは晩酌前にほんの1~2杯、引っかけようと思って行ったのだ。
実際スピナーズでは、生ビールを1杯と芋焼酎水割り氷抜き1杯だけ飲み、マスターのキム君とあれこれ近況報告をして、さっくりと店を出たのである。
それがなぜ6軒もハシゴしてしまったのかといえば、もちろんまずは、ぼくがアホだからなのだが、ここ2~3日、アテにしていたお金がなかなか入らず、飲みに行きたくても行けなかったということもあったかもしれない。
久しぶり、といってもたった3日ぶりという話だが、の外飲みだったため、羽目を外しやすくなっていたのだと思う。
タバコが切れていたので、スピナーズを出てまっすぐ家に帰らず、コンビニに向けて大宮通を下っていたら、イタリアンバル「ピッコロ・ジャルディーノ」の前を通りがかった時、お店にいたマスターのハルオさんと、店員の若くて元気な女の子と、開け放した窓を通して目が合ってしまった。
いつもなら会釈して通りすぎるところ、昨日はどういうわけだか、吸い込まれるように中に入って行ってしまったわけである。
一杯飲みの赤ワインは320円、それにオリーブ350円を注文した。
このオリーブがねっとりと味が濃く、大変おいしかったので、どうやって作ったのか聞いたら、缶詰のオリーブを、ニンニクやハーブを入れたオリーブオイルで漬け直したそうである。
お店は町家を改装したもので、奥には小さな庭もある。
そこへ出て上を見ると、屋根の合間に、十五夜のきれいなお月様が顔を覗かせていた。
ハルオさんと店員の女の子とは、ぼくが近々、放浪の旅へ出ようと考えていると話をした。
「行き倒れたりしないでくださいよ・・・」
店員の女の子は心配する。
ハルオさんは羨ましがり、「ぼくも放浪したい」と言うが、女の子に
「精神だけで、体を置いていってくれるなら、5時間くらいならいいですよ」
と言われ、
「幽体離脱しないといけないのか・・・。しかも5時間だけ・・・」
と悲しそうな顔をしていた。
放浪の旅の話をしていたら、このことをまだ、よく行くバー「Kaju」のマスターカジュさんに、話していなかったことに思い当たった。
「カジュさんには報告しておかなくてはいけない・・・」
酒を飲む、格好の口実ができてしまったわけである。
2杯めの赤ワインを飲み干したぼくはピッコロジャルディーノを出て、そこから1分ほどの所にあるKajuへ向かった。
Kajuでは芋水氷抜きと、チャンジャをたのんだ。
ここのチャンジャは、どっさりと量があるのに400円とお値打ちで、しかも青ねぎとゴマ油もかかってとてもうまい。
カジュさんに放浪の旅についての計画を話すと、
「いいと思いますよ、今しかできないこともあるし・・・」
と言いながら、カジュさんはさらに言葉を継いだ。
「これは餞別がわりと受け取ってほしいんですが、高野さんは固定観念や思い込みが強いほうだと思うけれど、被災地に行った時は、そういう調子でブログを書いてはダメですよ。
一人に聞いたことを、全てに当てはまると思ったりなど、絶対してはいけません・・・」
これはまさに的確で、こうして意見してくれる人が身近にいるということは、何ともありがたいと強く思った。
カジュさんに放浪の旅について報告しながら、もう一人、報告しておかないといけない人がいるのに気が付いてしまったのである。
スナック「都」のエミちゃんだ。
エミちゃんはぼくとほぼ同年代で、四条大宮界隈にあるスナックのママの中では比較的若く、都へは、最近でこそ時々行くきりになってはいるが、ぼくは京都へ来てすぐの頃から3年以上の付き合いがある。
節目節目で報告は入れているから、今回も話しておこうと、Kajuからすぐ近くにある新宿会館の2階へ向かった。
都はスナックだから、バーや居酒屋よりは高いが、それでもセット料金3千円と、スナックにしては安い料金になっている。
それをさらに、ぼくは「一杯しか飲まないから」といつも値切り、「恥ずかしいからブログに書くな」と言われているから書かないが、ぼくがいつも行く他の店と同じような値段で飲んでいる。
放浪の旅の話をすると、エミちゃんは、
「そんな、お金もないのにやめときなさいよ」
と言う。
「インターネットとパソコンで、仕事しながら旅をする」ということが、いまいちピンと来ないようだ。
居合わせた、60歳くらいの男性のお客さんは、
「ぼくはいいと思いますよ、ぜひ行ってらっしゃい」
と言いながら、
「でも被災地に、物珍しそうに行ったらダメですよ」
と、これもまたありがたい言葉をもらった。
都を出て、時計を見たら、11時。
この時まではまだ、家で晩酌しようかとも思ってはいたのだが、さすがにこの時間から、この泥酔した状態で、晩酌の支度は無理だ。
そこで少し何か食べようと、同じ建物の1階にある立ち飲み屋「てら」へ向かった。
てらは四条大宮界隈では、居酒屋としては最も安く、しかもうまい。
たのんだのは、まずはスパサラ。
100円。
けっこうな量がある。
ちくわ天。
やはり100円。
衣はさっくりと歯ごたえがいい。
豚天。
250円。
ジューシーである。
焼酎が1杯350円だから、お勘定は800円という考えられない値段だ。
さらにまだ、少し腹が減っていたから、餃子の王将へ行った。
四条大宮の餃子の王将は1号店で、王将発祥の場所である。
餃子の王将では、やはり餃子。
こだわって作っているから味はいいし、しかもけっこう大ぶりなのに、値段は一皿210円。
味噌ラーメンも食べようかと思っていたが、餃子でお腹が一杯になったので、もう注文しなかった。
以上、四条大宮で6軒をハシゴして、たっぷりと酒を飲み、お腹いっぱい食事をし、料金は総額約6千円。
これだから、四条大宮のハシゴはやめられないのである。
「でもまっすぐ家に帰っていれば、そのお金はかからなかったわけだからね。」
そうなんだよな。
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