これからいよいよ、ブリがおいしい季節になってくる。
ブリあらを使ったブリ大根は、安くできるしとてもうまくて、しかも煮物の基本を学べるのである。
本題にはいる前に、昨日もらったコメントについて、ちょっと触れておきたいとおもう。
「新米主婦」の人からで、
「レシピから離れられず、調味料の配合、分量の意味がよくわからない」
のだそうだ。
「これは作って経験を積むしかないでしょうか」とのことである。
調味料の配合と分量にはすべて意味があり、個々の調味料の役割と、さらに他の調味料とのバランスから決まってくるものだ。
それぞれの意味がわからないと、「自分で料理を構想する」といっても、たしかに難しいことになる。
さらに主婦は、ご主人の手前、まだ何もわからなくても、それなりにおいしい料理を出さなければいけなくなる。
レシピ通りに作ればおいしくは出来るから、ますます「レシピから離れられなく」なるわけだ。
一番手っ取り早いのは、「実験してみる」ことである。
まずはレシピ通りに料理を作り、次に同じ料理の、意味がわからない調味料を、一つだけ抜いてみる。
元の料理と、調味料を抜いた料理の味のちがいが、その調味料の「一つの意味」である。
一つの調味料を抜くだけならば、味はそれほど不味くはならないから、これはご主人に食べさせる場合でもオススメだ。
さらに料理を、「意味がわかる調味料だけ」使い、作ってみるという手もある。
これはかなり不味くなる可能性があるから、ご主人がいないときにやる必要がある。
砂糖や醤油、酢や唐辛子の意味はわかるだろうから、まずはそれだけで作ってみて、次に同じ料理を、意味のわからない調味料を1つだけ加えて作ってみる。
このときの味のちがいが、その調味料の「もう一つの意味」である。
それからもう一つだけ、オススメの方法がある。
レシピ通りに料理するとき、レシピを見ながらやらないで、「レシピを覚えてやる」ことだ。
覚えようとすることで、レシピに書いてある内容が、自分なりに整理される。
様々な料理で調味料が使われる、その使われ方のちがいを見ていくことも、調味料の意味を知るための効果的な方法だ。
さて本題なのだが、「ブリ」である。
いよいよ、ブリの季節になってきた。
ブリは冬の魚で、これからどんどん脂が乗っておいしくなり、正月あたりにピークを迎える。
まずはもちろん、刺身がうまいし、刺身をしゃぶしゃぶにするのなども贅沢だ。
ただブリを安い値段で楽しむなら、圧倒的に「あら」である。
スーパーなどにもブリのあらはたくさん出るが、刺身以外で食べるなら、切り身より、脂が乗ったあらのほうが絶対にうまい。
実際の話、昨日作ったブリ大根は、先日居酒屋で食べたものよりうまかった。
居酒屋ではブリの切り身が使われていたのだけれど、切り身は煮ると、どうしてもパサついてしまうのだ。
しかしこれはおそらく、ブリあらは切り身に比べて一尾あたりの量が少ないわけだから、居酒屋などでは十分な量、仕入れられないからだろう。
「あらの方がうまい」のは、大将も知っているはずだから、「もしかして、常連さんだけにはあらを出すのか」などと、ちょっと想像してみたりもした。
しかしもちろん、自分でブリを買うのなら、遠慮なくあらを買うのがいいのである。
カマの部分は、それでもかなりの値段がするが、それ以外なら、安い値段で食べきれないほど、買えるとおもう。
ブリあらは、まずは簡単に食べるのなら、塩をふって焼けばいい。
大根おろしを添えて食べれば、脂が乗ってまさに絶品なのである。
それからやはり、ブリ大根。
ブリやサンマ、サバなどの冬の魚は、冬野菜である大根と相性がとてもいいのだ。
ブリ大根は、作るのに多少の手間はかかるけれど、作り方はまさに「煮物の基本」である。
煮物の作り方を学びたいなら、これから何度もブリ大根を作ってみるのがオススメだ。
というわけで、ブリ大根を作ることにするのである。
もちろんぼくは、酒を飲みながらのんびりやる。
まずは大根を下ゆでする。
大根は、多くのレシピで下ゆでしないようになっているが、そうなると煮時間が長くなり、ブリがパサつきがちになるから、多少手間でも下ゆでしたほうがいいのである。
大根は2センチ厚さ、写真はいちょう切りになっているのもあるけれど、半月切りで問題ない。
ゆで時間は、大根によってちがうことがあり、15分くらいだと思うけれど、30分かかることもあるから、かならず竹串か箸をさし、「スッ」と通るのをたしかめる。
ブリあらは、一口大に切り、熱湯にひたして「シャブっ」とし、そのあと水でよく洗う。
ブリあらは骨があるから、一口大に切るときに、ケガをしないよう注意する必要がある。
また熱湯は、ぼくは給湯器の最高温度をそのまま使うようにしている。
80度くらいの温度があれば、魚を湯通しするのには問題ない。
フライパンにだし昆布を敷き、大根とブリを平らにならべる。
ここに酒2分の1カップ、ブリがちょうどひたるくらいの水、砂糖とみりんを大さじ4ずつ入れ、火にかける。
沸騰したら中火にし、アクをていねいに取る。
酒はうま味をつけるためと魚の臭みを抜くためで、これは多ければ多いほどうまく、水をまったく入れないで酒だけで煮るのが一番うまい。
ただ酒は料理酒ではなく、安くてもいいから、塩分の入っていない清酒を買う必要がある。
またみりんは甘みと、出来上がりにテリをつけるために入れる。
それから初めに醤油を入れずに煮るのは、味をよくしみ込ませるためだ。
醤油より砂糖のほうが分子が大きく、先に醤油を入れてしまうと、砂糖がしみずに醤油ばかりがしみてしまって、塩辛くなるのである。
この状態で、アクが出てきたら取りながら、落としブタをして10分煮る。
さらに醤油大さじ3を入れ、20分煮る。
計30分で、煮汁が3分の1ほどまで煮詰まるよう、火加減を調整する。
だんだん煮汁が下がっていくので、終盤になるにつれ火を強くすると、煮汁がきちんと上からかぶる状態をたもてる。
30分たったら、小さじ1の醤油を入れて火を止める。
この醤油を入れることで、醤油の風味が増すのである。
煮物は火を止めたあと、かならずしばらく煮汁にひたしておくようにする。
煮汁は温度が下がるにつれ、よりしみ込むようになっていくのだ。
皿に盛り、青味の青ねぎやカイワレをのせ、好みでゆでたそうめんを添える。
ブリあらはホクホクで、パサつきは全くない。
大根もよく味がしみている。
そうめんが、またうまいのである。
ブリ大根は残ったら、冷蔵庫に入れておくと煮凝りになる。
翌日のほうが味もしみるし、煮物は翌日がうまいのである。
あとはたたきキュウリとみょうがの酢の物。
キュウリはスリコギでたたき、指でちぎって一つまみの塩で揉み、10分ほど置いたあと水で洗って、ペーパータオルで水気を拭きとる。
ミョウガはうす切りにする。
ちりめんじゃこ少々を加え、おろしショウガと酢醤油で和える。
長芋千切り。
わさび醤油で。
酒は、いつも月桂冠の上撰を飲んでいる。
はんなりとしていて大変うまい。
「おっさんも、初めは色々実験したの?」
不味くても、誰に気兼ねもないからな。