普通は火を通すことになっているゴーヤチャンプルーの卵を、生で落とすと、超絶にウマイのである。これは卵は生が、火を通したものと比べて醤油との相性がいいからだ。
肉と醤油の関係を卵がとり持ってくれるから、削り節はかけなくていい。実に濃厚な、しかもスッキリとした味になるのである。
奈良時代に禁止された肉食が文明開化で再開して以来、日本人は「肉・醤油問題」に悩まされつづけている。肉・醤油問題とはひとことで言えば、
「相性のよくない肉と醤油をどのように合わせるか」
ということだ。
魚には、煮るにせよ焼くにせよ抜群の相性をみせる醤油だが、肉にはからしきダメなのだ。これは例えばとんかつに、醤油だけかけて食べるのを想像してみたら分かると思う。
ところが日本人は、やはり肉も、醤油の味で食べたいわけだ。そこで肉と醤油をどのようにして合わせるかに、先人は頭を絞ってきた。
この解決は、まずとんかつについては「ウスターソース」を編み出すことで図られた。ウスターソースは、元々はイギリス・ウスター州で生まれたものだが、イギリスでは料理の隠し味などに使われるだけとのこと。日本のウスターソースは、これを料理にかけて食べることができるよう、独自の発展をしたようだ。
味は要は、醤油に酸味とスパイスを加えたものだといえるだろう。とんかつをおろしポン酢で食べたり、餃子を酢醤油にラー油で食べたりすることからも分かる通り、酸味と辛味を加えることは、肉・醤油問題を解決するための一般的な方法だ。
それから戦後になって、ラーメンも肉・醤油問題に直面することとなった。ラーメンは、元々は中国で生まれたものだが、中国の汁そばは塩味のものが多いし、醤油を使う場合は、八角などのスパイスを使う。ところが八角は、日本人にはなかなか受け入れられないから、独自の工夫が必要になったわけだ。
そこで使われることになったのが、味の素。味の素は要は魚介由来の成分で、魚介だしを加えることも、肉・醤油問題の解決法としてやはり一般的なものの一つである。
ゴーヤチャンプルーの場合、通常は、肉・醤油問題を解決するのにこの後者のやり方を採用している。「削り節」をかけるのだ。
それでたしかに肉・醤油問題は解決はされるのだが、削り節は、油とはそれほど相性がよくないというのが、おれの考え。
これは決して、悪口を言うつもりではないのだが、醤油味の炒め物に削り節をかけると、ちょっとお好み焼きっぽい、ベタな味になるのである。
ところがこのベタ感をぬぐい去り、一気にスッキリさせる方法があるのである。そのヒントは「すき焼き」にある。
すき焼きは、文明開化して最初に現れた肉料理だといえるだろう。醤油と砂糖で、超日本的な味つけがされながら、肉によく合う。
その理由は、「生卵をつけて食べるから」である。
関東では、割下に魚介だしを加えるが、関西では入れないわけで、それでも問題なくおいしいのは生卵のおかげなのだ。
すなわち生卵は、肉・醤油問題を解決するのに、日本で最初に登場したやり方なのである。
ゴーヤチャンプルーの場合、卵は入れるが、その卵には通常、火を通す。ところが火を通した卵は、あまり醤油に合わなくなる。これは卵かけご飯なら、問題なく醤油でいいが、目玉焼きだと醤油は微妙になることからも分かるはずだ。
そこでゴーヤチャンプルーに入れる卵を火を通さずに、生のまま落としてしまう。
するとこれが、超絶にウマイのだ。
削り節を使わないから、ベタ感は一切なくスッキリしている。しかも卵のトロリとした濃厚な味がつき、本当にたまらない。
ゴーヤチャンプルーの卵抜きを作って、あとから生卵を落とすだけの話だから、作るのも簡単だ。
ぜひ試してみてもらいたい。
さてゴーヤチャンプルーを作るのに、普通は全部いっしょに炒めてしまうわけなのだが、それよりも豆腐だけは、別に炒めた方がうまい。炒めることで水が抜け、味をよく吸うようになるからだ。
木綿豆腐2分の1丁を1~2センチ厚さに切り、サラダ油・大さじ1を引き、中火にかけたフライパンで、軽く焼き色がつくまで表裏をじっくり焼く。
くっ付きやすいから、フライパンを動かしながら焼くのがコツだ。
豆腐は皿にあけておき、改めてフライパンにサラダ油・大さじ1を引いて中火にかけ、5ミリ厚さくらいの拍子木に切った減塩スパム・170グラム(340グラム入り2分の1缶)を、やはり表裏をじっくり焼く。
スパムに焼き色がついてきたら、半分に割り、スプーンでワタを取って3ミリ幅くらいに切ったゴーヤ・2分の1本を加え、サッと炒める。
豆腐をもどし、ひと混ぜして豆腐に脂をなじませたところで、合わせておいた調味料を加える。
調味料は、
- 酒 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1
- 砂糖 小さじ1
- おろしたショウガ 1~2センチ大
全体を混ぜながら、さらに2~3分炒めて材料に味を吸わせる。
汁気がほぼなくなったところで、火を止める。
皿に盛り、生卵を落とす。
まちがいなく、必殺の味なのだ。
あとは、とろろ昆布の吸物・梅干し入り。
野菜サラダ。
キムチ。
酒は、冷や酒。
きのうもゴーヤチャンプルーがあまりにうまくて、また飲み過ぎるわけなのだ。
しかしこれだけうまいものを前にして、酒も飲まないようでは、男が廃るというものだ。
「飲み過ぎないのも男らしいよ。」
そうだよな。
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