鶏の手羽元と大根の煮物は定番中の定番だから、いろんな作り方がある。まず醤油だけで煮るのがあるし、オイスターソースを入れるのもある。最近は「さっぱり煮」といって、酢を入れるのもあるらしい。
もちろん、どれもそれなりにおいしいはずで、否定する気はないのだが、やはり王道は、「昆布と削り節のだし」を使うことである。
肉の煮物が、なぜ色んなやり方が編み出されるのかといえば、「肉と醤油が合わないから」だ。
ブリ大根など魚の煮物の場合なら、酒と砂糖、みりんに醤油だけ入れて煮れば、十分おいしく出来上がる。これに昆布を敷いておいたりすれば、完璧だ。
だからブリ大根は、それ以外のやり方が編み出されることはない。
ところが肉を、魚と同じく醤油だけで煮てしまうと、どうも間の抜けた、田舎臭い味になる。これはトンカツに醤油だけかけて食べるとどんな味になるか想像すれば、分かるのではないかと思う。
間が抜けてしまうから、醤油に何かを足さないといけなくなる。その足し方が、色々あるというわけだ。
しかしその色々ある中でも「王道」は、昆布と削り節のだしなのだ。
結局のところなぜ肉と醤油が合わないのかといえば、
「醤油は魚に合うように開発され、発展してきたものだから」
なのである。
酸味をつけたり、ショウガを加えたりすることでも、醤油の味を補うことはある程度はできるのだが、魚に合うものなのだから、魚のだしを使うのが一番いいに決まっている。
カキのうま味であるオイスターソースを使うのは、その簡略版になるわけだが、それよりは、昆布と削り節でちゃんとだしを取った方が、言うまでもなく、やはりうまい。
ただ「だしと取るのが面倒だ」と、思う人もいるだろう。昆布と削り節のだしを取るには、そこそこ丁寧にやれば20分くらいかかる。
仕事の一種として料理をする主婦などなら、「その20分がもったいない」と思うのも分かる。仕事は効率が大事だから、「20分を省略してもそこそこの味になるのなら、それでいい」と考えるのはもっともだ。
でも自分のために料理する場合には、それは当てはまらない。丁寧にやればやるほど、充実感と満足感が増すからだ。
自分のための料理は、仕事ではない。どんなに時間をかけたとしても、その時間が自分にとって居心地のいいものならば、決して損したことにはならない。
だしを丁寧に取りながら、鍋の匂いを嗅いだりして、鍋の中身が少しずつおいしくなっていくのを見るのはワクワクする。
その時間が20分などというのは、むしろ短か過ぎるくらいである。
だしを取るには、まず4カップの水と10センチくらいのだし昆布を鍋に入れて、火にかける。
鍋底が沸いてきたら弱火にし、ほんの小さく沸き立つくらいの火加減で、15分くらい、昆布がビロンと伸びるまで煮出す。
続いて鍋にザルを入れ、削り節1つかみ(ミニパック6袋分くらい)を入れ、5分くらい煮出す。
5分たったら削り節はしぼって捨てる。昆布はそのまま入れておけば、食べられる。
だしを取っている間に、大根を下ゆでする。
2センチ大くらいに切った大根を水から入れて火にかけて、そこそこきちんと沸騰する火加減を保ちながら、串がスッと刺さるくらいまで、15分ほどゆでる。
大根の皮は、よっぽど汚れている場合は別として、剥く必要がない。
取れた3カップのだしに、
- 酒 大さじ3
- みりん 大さじ3
- 淡口醤油 大さじ3
で味をつけ、下ゆでした大根と、サッと洗った手羽元を入れる。
落としブタをし、小さく煮立つくらいの火加減で30分煮、火を止めてさらに30分置いて味をしみさせる。
皿に盛り、青ねぎと一味をかける。
まさに王道。死ぬほどうまい。
それからこれは、うどんを入れて煮込むと、またうまいのだ。
あとは、わさび醤油の冷奴と、
冷やしトマト。
酒は、冷や酒。
丁寧に作った料理を食べるからこそ、幸せな気持ちになるのである。
それが20分で手に入るなら、安上がりなものだろう。
「ほんとに自分が好きだよね。」
まったくな。
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