鯛の旬は、ネットで見ると1月から、春先の子を持つ前となっている。鯛の子が出まわるようになっている今ごろは、もう旬は終わっているのかと思い、魚屋のおばさんに聞いてみると、
「鯛は5月がおいしくて、今もまだおいしいよ」
とのこと。
「どちらが正しいのか」と思わなくはないのだが、どちらでもいいのである。鯛は元がうまいのだから、旬を外れていたとしても、ほかの魚よりよっぽどうまいのだ。
鯛が並外れてうまいのは、日本人なら同意する人が多いと思う。塩焼きにしただけで、ほかには何も添えなくても、足りないところが全くない、完璧な味になる。
しかし鯛をここまでありがたがるのは、日本人だけのようだ。日本以外では「信じられない下魚として扱われることが多い」そうで、中国では「死者の肉を食う魚」として忌み嫌われているそうだし、アメリカでは食用にされず、肥料に使われるのだそうだ。
それを聞くと、やはり鯛は「日本の味なのだ」と思う。日本人は縄文時代から鯛を食べ、今でもなお食べ続けている。
鯛は日本の味覚の「ルーツ」とも言えるだろう。
それをこれからも大事にし、保ち続けていくことは、やはり必要ではないかと思う。
さて鯛の食べ方として、「鯛めし」は最もうまいものの一つである。鯛のうま味がたっぷりとご飯にしみ込むわけで、これはほんとにたまらない。
その鯛めし、土鍋で炊くのがおすすめだ。
土鍋だと、まずは食卓にそのまま出すことができる。鯛の姿がそのままご飯の上に乗っているのは、豪勢に見えることこの上ない。
それから土鍋で炊いた方が、炊飯器で炊くよりうまい。
米炊き専用の鍋肌が分厚い土鍋は、それこそ信じられないほどおいしく炊けるが、べつにスーパーで売っている1,000円くらいの土鍋でも、十分うまいのが炊ける。
土鍋は遠赤外線を発するから火が米の芯まで通るのと、鍋肌に湿気を吸い込み、米がベチャッとならないからなのだそうだ。
鍋でご飯を炊くのは、大してむずかしい話ではない。初めの2~3回は、水加減や火加減に多少失敗もするだろうが、それも慣れれば問題なくなる。
何よりせっかくの主食の米を、「炊飯器がなければ炊けない」では恥ずかしい。「自分で米を炊けること」は、日本人として必要な、最低限の素養ともいえると思う。
鯛は、きのうはあらを使った。
小鯛でも、尾頭つきで豪華に見えるから、もちろんいい。
ただし小鯛は、スーパーなどで下処理せずに売り場に出ていることがある。自分で下処理できない人は、鮮魚コーナーに頼むのを忘れないようにしないといけない。
まずサッと水洗いして水気をふき取り、表と裏に塩を振る。
塩はまあ、普通に塩焼きするのと同じくらいの量である。
塩を振ったら、グリルで焼く。火加減は、一番の強火にする。
鯛めしに入れる鯛を焼くのは、中まで火を通すためではなく、臭みを取り、残ったウロコを柔らかくすることが目的だ。表面に軽く焦げめができるくらいで火を止める。
土鍋は、一人分なら、一人用の土鍋がちょうどいい。
まず5センチくらいのだし昆布を敷き、研いで30分くらいザルに上げておいた米1カップ(200cc)を入れる。
そこに焼き上げた鯛を置いたら、
- 水 1カップ(200cc)
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1
を上からかける。
大さじ1は15ccだから、水分の量は米の約1.2倍になっている。
具は、鯛めしの場合は、ほかには何も入れないのがいい。鯛のうま味だけで完璧な味になるわけで、下手なものを入れてしまうと邪魔になるだけなのだ。
フタを閉め、中火にかける。
そのうち湯気が勢いよく吹き出してくるから、そうしたら弱火にして10分炊く。この「10分」は、おこげができるまでの時間で、おこげを作らないなら8分だ。
ただしこれは、鍋によって多少違うし、さらに2合、3合と炊く場合にも変わってくるから、湯気の匂いをかぎ、「おこげの香りがしてきたら火を止める」とするのがいい。
10分蒸らして、フタを開ける。
わさびをチョンと盛って食べる。
それから鯛めしは、お湯や氷水を入れて食べると、また死ぬかと思うほどうまいのである。
きのうは、「万願寺とうがらしの炊いたん」も作った。
これは京都・家庭料理の定番中の定番だが、比較的クッタリとさせるのがポイントだ。万願寺とうがらしは肉厚で繊維が硬く、長く煮ても、クッタリとしながらもモッチリとした食べ応えを失わないのが特徴だ。
万願寺とうがらし5~6個をサッと洗って鍋に入れ、
- ちりめんじゃこ 1つまみ
- 水 1カップ
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1
を加え、落としブタをして火にかける。
煮立ってきたら、弱めの中火くらいにし、15~20分煮る。
あとは、とろろ昆布の温く奴。
豆腐を水で温め、とろろ昆布と削りぶしを入れたお椀にお湯ごと入れて、淡口醤油で味付けし、青ねぎをかける。
それに、冷やしトマト。
酒は、冷や酒。
鯛はつくづくおいしくて、食べるたびに深い幸せに包まれる。
「日本に生まれてよかった」と、しみじみ思うのだ。
「飲み過ぎても怒られないしね。」
そうだよな。
◎米炊き専用土鍋
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