自炊がいかに「パラダイス」かということは、経験してみないとわからない。
これが、自炊を思い留まらせる大きな原因になっているのだとしたら、残念なことである。
自炊は、一般に「侘しい」と思う人が多いだろう。
「独りで食事する」ことすら、「侘しい」と受け取る人が多いと思う。その食事を、さらに自分で作るとなれば、侘びしさに輪をかけることになるだろう。
特に男性に、その傾向が強いのではないか。
多くの男性は、食事を作ったことがない。だからその楽しみも、知らないわけだ。
これら「独りの食事は侘しいと思う」と「男が食事を作らない」の2つは、日本における「最大のまちがい」のであるとすら、言えるのではないかとぼくは思う。
「男子厨房に入らず」は、「江戸時代に入ってから言われるようになったようだ」と、歴史小説家・池波正太郎は書いている。階級や身分を固定する必要上、そのように決められたものらしい。
戦国武将は、厨房には、ずいぶん入っていたそうだ。お客を招くときなどは、自分が手を下さないまでも、メニューを事細かく、厨房で料理人に指示していたという。
また「独りの食事は侘しい」のも、これは戦後になってから、言われるようになったのではないだろうか。それが証拠に、昔の武将は、自室で独りで、食事をしていたものだろう。
また戦前でも、家長は家人とは別に、床の間などで、食べるものまで家人とは別にして、独りで食事をすることも多かったと聞く。
「独りの食事」は、昔はむしろ、「贅沢」なものだったのではないだろうか。
戦後になり、「平等主義」が行きわたり、家長が特別扱いされることはなくなった。
その影響で、「独りの食事」まで、「よくないもの」とされるようになったと、ぼくは見ている。
しかも食事の最中は、「気の利いた会話」をしないといけないことになった。これはアメリカや、ヨーロッパの影響だろう。
ぼくも以前つき合っていた女から、「食事中にしゃべらない」と、糾弾されたことがある。
しかしニンニクや油をたっぷり使った欧米の料理ならともかくとして、日本の料理は、しゃべると味がしなくなる。
もちろんぼくも、気の合った女や家族と食事をするのが、いかに楽しいかは知っている。
しかし多くの場合、食事は独りでした方が、気を遣わなくて済むのはたしかだ。
さらに独りの食事を自分で作ると、まさに「パラダイス」とでも言いたくなる、とてつもない幸せ感に襲われる。
「幸せ」とは、思い描き、待ち望んでいたものが、「実現」したときに感じるものではないかと、ぼくは思う。貧乏な人が、努力に努力を重ねた上、金持ちになったとしたら、それはもちろん幸せだろう。
でも逆に、どんなに高級な料理でも、それを「食べたい」と思っていたのでない限り、おいしくはあっても、別に幸せではないだろう。
独りの食事を作る際には、人に気を遣うことなく、純粋に、「自分の食べたいもの」を思い描き、その通りに作ることで、何の文句も言われない。
自分が思い描いた通りの料理が完成したときの、その達成感と満足感。そして実際に食べてみて、思った通りの味だったときの喜び、、、
この幸せを、自炊している人は、毎日のように味わうことができるのである。
もちろん、自分の思い通りに食事を作れるようになるには、1ヶ月くらいはかかるだろう。
たぶんやり始めると、あまりにもわからないことが多く、悲しくなったり、癇癪を起こしたくなったりこともあると思う。
でもそれは、少しだけの辛抱だ。
それから独りだと、「はげみ」がなく、モチベーションが続かないこともあるかもしれない。
そのために、「自炊隊」をスタートした。
ここに自炊写真を投稿すれば、かなり大きなはげみになるし、人の料理を見るのは参考にもなる。
さてきのうは、おととい買った小鯛がまだ一つ余っていたから、酒蒸しにした。
酒蒸しは、鯛の最もおいしい食べ方の一つだろう。
酒蒸しは、切り身なら、サッと洗って使えばいい。アラの場合は、湯通しする。
しかし小鯛は、湯通しだけでは、体内部の臭みまでは取れにくい。
なので鯛めし同様、サッと塩焼きしてから使う。
水洗いし、ウロコなどが残っていたらザッと取り、普通に塩焼きするくらいに塩を振り、軽く焼き色が付くくらいにサッと焼く。
あとでさらに蒸すわけだから、火を通し過ぎないことが肝心だ。
フライパンに、水2カップほどを入れ、深めの皿を置く。
豆腐とえのき、焼いた小鯛を並べたら、フタを閉め、中火にかける。
水が煮立ち始めてから、そのまま中火で10分蒸す。
すだちを絞って食べる。
豆腐にしみた鯛のうまみが、また「たまらない」という話である。
それからカブの吸物。
とうとうカブの季節になった。
カブは、やはり煮るのがうまい。大根と比べてやわらかいから、じんわりと汁を吸ったのが、口の中でとろけるのがたまらない。
ただしカブは、皮が硬く、筋張っているから、皮を厚く剥く必要がある。
3ミリくらいは、剥いてしまってかまわない。
剥いた皮は、別に捨ててしまってもいいのだが、ゴマ油とちりめんじゃこで炒め、しょうゆで味を付けるとうまい。
きのうはだし殻の昆布と削りぶしと一緒にこれを作り、食事の支度をしているあいだに酒の肴で食べてしまった。
それからカブは、煮過ぎると溶けてしまう。
竹串などで刺しながら煮加減を確認し、くれぐれも煮過ぎないのがポイントだ。
カブの茎と葉はざく切りにし、あらかじめサッと塩ゆでして水に取り、よく絞っておく。
鍋に5センチ角くらいのだし昆布を敷き、水2カップ半を入れて中火にかけ、煮立ったら弱火にしてしばらく煮出し、削りぶし・ミニパック4袋分を入れてさらに少し煮、出来ただしをザルで漉す。
だしに酒と淡口しょうゆ・大さじ1ずつで味を付け、細く刻んだ油あげ・2分の1枚と、厚く皮を剥き、6等分のくし切りにしたカブ・1個を煮る。
カブが煮えてきたら、ばらしたシメジを加えて少し煮て、下ゆでした茎と葉を入れ、一煮立ちさせて火を止める。
薬味は、柚子の皮を浮かべると、「料亭の味」になる。
柚子がなければ、何も入れなくてもいいし、おろしたショウガをほんのちょっと、天盛にしてもいい。
ツナとジャガイモの炊き込みご飯。
炊き込みご飯にツナを入れると、実においしい。
鍋に、
- 研いで水を切った米 1カップ
- 水 1カップ
- ツナ 2分の1缶(べつに1缶でもいい)を油ごと
- 1cm角くらいのサイの目に切ったジャガイモ小 1個分
- 酒 大さじ1
- 淡口しょうゆ 小さじ1
を入れ、フタを閉めて中火にかける。
湯気が勢いよく吹き出してきたら弱火にし、10分炊く。
土鍋なら、そのまま火を止めていいが、金属製の鍋の場合、一旦中火にし、20~30秒おいて水気を飛ばしてから火を止める。
10分蒸らして茶碗によそい、わさびを薬味にして食べる。
あとは、ほうれん草のおひたし。
削りぶしに、味ぽん酢。
おとといの高野豆腐とインゲンの煮物。
一味または粉山椒をかける。
酒は、鯛には圧倒的に、熱燗が合う。
「堪えられない」とは、このことだ。
「ほんとは少し寂しいくせに。」
そうなんだよな。
ちなみにネコは、相変わらず毎日来ている。
エサを食べ終わって立ち去るとき、前は呼びかけても知らんぷりだったのに、最近は立ち止まり、振り向くようになっている。
◎関連記事