鯛はやはり何といってもうまいわけで、それを手頃に味わうなら鯛あらだ。鯛あらは吸物にするのが定石の一つだが、ここにそうめんを入れると、また死ねる。
世にうまいものは色々あるが、一つを選ぶなら、やはり鯛だ。鯛のうまさは格別で、あのやわらか過ぎもせず硬過ぎもしない食べ応えといい、一見淡白でありながら実は深いうま味がある味といい、「うまいもの」の条件を、単体ですべて兼ね備えていると思える。
他の具材と合わせ、味を補う必要もなく、味つけも、塩とほんの少しの醤油だけでいい。鯛は他の国では、とんでもない下魚として扱われることが多いそうで、鯛を食べるたびに、「日本人に生まれてよかった」とつくづく思うのだ。
鯛は養殖されているから、一応は高級魚とはいえ、値段もそれほどではないのも嬉しいところだ。特にあらは、「マジ?」と思うような安値で売られていることも多い。
きのうも魚屋で買った鯛あら、350円。
でっかいやつで、カマと、さらに普通なら切り身で出すようなところまで入っていて、これで一日分の、極上の料理ができるのだから、「激安」と言うべきだ。
鯛はそれ自体でうまいから、料理するのも手軽なのが特徴で、代表料理は塩を振って焼くだけの塩焼きだ。それからその塩焼きした鯛を、豆腐と一緒に酒蒸しにしたり、ご飯に炊き込んだりするのがまたうまい。
そしてやはり何といっても、鯛はあら汁。酒と塩、それに少しの醤油だけで、足りないところも余分なところも全くない、完璧な味になる。
そしてこの鯛あら汁に、そうめんを入れるとまた死ねる。
「のけぞるうまさ」とは、まさにこのことなのである。
鯛あらは、煮付けにする場合を除き、塩焼きしてしまうのが下処理として一番ラクだ。ウロコが多少残っても、焼かれてあまり気にならなくなる上に、臭みもなくなり、さらに香ばしい味が付くのもいい。
水洗いして、指でできる限りのウロコを取り去り、水気をよくふき取った鯛に、まんべんなく塩を振る。
これをグリルなら、強火で7~8分、軽く焦げ目が付くくらいに焼く。
下処理として焼く場合、中まで火が通る必要はない。焼き過ぎるとうまみが抜けてしまうから、強い火でさっと焼くのがポイントだ。
鍋に、
- 10センチくらいのだし昆布
- 焼いた鯛
- 水 4カップ(煮詰まって3カップの汁ができる)
- 酒 大さじ3
を入れ、中火にかける。
湧いていたら弱火にし、フタをせず、鍋の底で小さく泡が立つくらい、ほとんど煮立てないようにしながら20分くらい煮る。
アクは出たら取るが、こうして煮れば、アクもほとんど出ないと思う。
20分煮たら、大さじ1くらいだと思うけれど、味を見ながら淡口醤油で味つけする。
器によそい、ほんの30秒ほどゆで、水をかけて粗熱を取ったそうめんを添える。
薬味は、本当なら三つ葉かゆずがいいのだが、なければ硬いことは言わなくてもいいのである。
これは、うまい。
鯛のおいしい汁が絡んだそうめん、本当にたまらない。
それからこれは、キンキンに冷やし、冷たいそうめんにかけてもうまいのは、言うまでもないことだ。
あとは、万願寺とうがらしの炊いたん。
鍋に、
- 洗った万願寺とうがらし 5~6本
- ちりめんじゃこ 大さじ1
- 水 1カップ
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1
を入れて火にかけ、煮立ってきたら落としブタをし、弱めの中火くらいで15分煮て、煮汁はほぼ完全に煮詰めてしまう。
ナスの塩もみ。
3ミリ幅くらいに切り、1つまみの塩でもんで5分くらい置き、水洗いして水気を絞ったナスを、からし酢醤油(淡口醤油を使うと色がつかない)で和え、削りぶしをかける。
それに、わさび醤油の冷奴。
酒は、冷や酒。
きのうは飯を作る前に飲みすぎて、作り始める時点でフルに泥酔。おかげでいつものことではあるが、食べている途中から記憶がない。
しかしおれは、酒を飲むために飯を作り、食べるのだから、それも仕方がないのである。
「本末転倒とはこのことだね。」
そうだよな。
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