食べ物の王者の一つ鯛は、あらを買えば大変安い。鯛あらは、煮付けにするのが王道だ。
鯛あら煮には、ごぼうと素麺を入れる。これがまた、たまらなくウマイのである。
きのうは魚が食べたい日だった。年のせいだろう、若い頃は魚など見向きもしなかったおれも、肉と魚が交互に食べたくなるようになっている。
さらにきのうは、鯛が食べたいと思ったのだ。それで魚屋へ行ってみたら、首尾よくうまそうな鯛あらが売っていたから、それを買った。
鯛あらは、うまくてボリュームも十分なのに、値段が安い。年中あるし、料理の仕方も幅広いから、ついついお世話になることが多いわけだ。
さてこの鯛あらを、どうやって料理しようか考えた。
鯛は、まずは「塩焼き」にするのが一番うまい。これはほんとに、塩を振って焼くだけでいい。
醤油やおろしポン酢をかけたりせず、そのまま食べるのが最もよく、それで何の不足もない、完璧な味になる。
鯛の骨は、縄文時代の遺跡からも出土するそうだ。縄文時代の人達も、おそらくそうやって鯛を食べていたことだろう。
それから次に、塩焼きした鯛を酒蒸しにしたり、ご飯に炊き込んだりするのがまたウマイ。たぶんこれらの食べ方も昔からされていたはずで、塩焼き、酒蒸し、それに鯛めしは、鯛料理の「3強」といっていいと思う。
しかしきのうは、醤油の味が欲しかったのだ。
となれば「煮付け」となるわけだ。
鯛あらの煮付けも、言うまでもなく、鯛料理の王道の一つである。
煮付けは日本で編み出された、天才的な魚の料理法だと思う。
まず甘辛い、コッテリとした醤油味が、魚にはこの上なく合うわけだ。この「てりやき味」は、日本のみならず海外でも、ハンバーガーやチキンの味つけとして人気だそうだ。
それから落としブタをし、強い火で一気に煮詰めることにより、魚にきちんと火を通すとともに、調味料をそれほどたくさん使わなくてもコッテリした汁が残るという料理法。
煮物と蒸し焼きの中間のようなやり方であるわけで、このような料理法は、世界でも例がないのではないか。
煮付けの歴史は、たぶんわりと新しいだろう。濃口醤油が作られ出したのが江戸時代の中期だし、みりんや砂糖が普及したのは江戸後期だったとのことだから、やはりその頃なのではないか。
それまで薄めの醤油味が主流だったところに、コッテリと甘辛いてりやき味は、一世を風靡したことだろう。
てりやき味は、焼き鳥やすき焼きなど、肉にも応用が効くことから、それ以降、日本の味の主流に一気に踊り出ることになったわけだ。
煮付けは、実際には魚を煮るだけだけの簡単な話だし、調理時間も大してかからないにも関わらず、「むずかしい」という印象を持っている人が多いのではないだろうか。
それは、煮付けの料理法が、「レシピに書き下しにくい」ことが理由だと思う。
レシピは基本的に、時系列にそって1つずつ、やることを羅列していく。何かをやれば、その結果こうなって、ということの連鎖なわけで、レシピの時間は過去から未来へ向かって流れている。
ところが煮付けを作る場合には、
「最後にどの程度の濃さの煮汁を、どの程度の量残すのか」
が問題となるのである。
そこへ至る道は一つではなく、たとえば水の量が多かったとしても、火を強くしたり、煮時間を長くしたりすれば、最後の結果は同じになる。
つまり全ての作業が、未来を想定しながら行われることになるわけで、それはレシピには書くことができない。
現代は、「レシピが簡単なこと」が重視される時代だから、それに収まらない内容を持った煮付けを、「むずかしい」と感じてしまうのだと思うのである。
しかし、多少現代の考え方とは違ったところで、実際には簡単なのだ。煮付けができるようになると、料理の世界は一気に広がるから、まだやったことがない人は、ぜひ挑戦してみるのがおすすめだ。
鯛あらを煮付けるには、ごぼうを加えるのが定番となっている。さらに煮汁で素麺を煮たのを添えると、最高においしくなる。
鯛あらはサッと水洗いし、まず湯通しする。
鍋に沸騰させた水を30秒ほど置いてちょっとだけ冷まし、鯛あらを一瞬入れたら、すぐ湯を捨てる。
鯛の皮は弱いから、あまりお湯が熱すぎたり浸す時間が長すぎたりすると、剥がれてしまうので注意する。
そのあと鯛を、よく水洗いする。
ここだけは時間をかけるのが肝心で、取らないといけないのは血の塊と、ウロコ。
特にウロコは、残っていると非常に残念な気持ちになるから、「一枚も残さない」という気概をもって、ていねいに指で外す。
鍋に5センチ大ほどのだし昆布を敷き、洗った鯛あらと、土を落として太めのささがきにし、5分ほど水に浸したごぼうを並べる。
きのうは冷凍保存してある実山椒も入れたが、なければ何も入れなくていい。ショウガなどは、鯛の煮付には絶対に入れない方がいいと思う。
ここに、あとから素麺を煮るからやや多めの水・2カップ。
それに調味料を入れるのだが、ここで絶対に守る必要があるのは、「醤油をあとから入れる」こと。醤油を最初から入れてしまうと、砂糖の味が中に入らず、塩辛くなってしまうのだ。
そこでここでは、
- 酒 大さじ3
- みりん 大さじ3
- 砂糖 大さじ3
だけ入れて、強火にかける。
煮立ってきたら強めの中火くらいにし、出てきたアクをサッと取りながら、4~5分煮る。
そうしたら、醤油・大さじ3を入れ、落としブタをして10分煮る。
火加減は、強めの中火。落としブタのところまで、煮汁がきっちり上がってくるようにする。
10分たったら、醤油・小さじ1をまわし入れて、火を止める。最後に醤油を少し入れると、格段に風味がよくなるのだ。
鯛とごぼうを皿に盛り、煮汁を上からたっぷりかけたら、残った煮汁で素麺を煮る。煮汁は、倍量くらいの水で薄めておく。
素麺は、水でゆでずにそのまま煮汁で煮るのがいい。
1分ほど、まだ少し芯が残るくらい煮て、皿に添える。
実山椒を入れない場合、薬味はゆずの皮か、なければ何もかけないのがいい。
鯛あらは、まずは目の周りのコラーゲンの部分が「一番うまい」とされている。
これは、たまらない。
味のしみたごぼう、そして素麺も、また死ねるわけである。
鯛あらは、骨ごと頬張り、骨だけ口から出しながら食べる。
「鯛の鯛」と呼ばれる、鯛の形をした骨があるから、探してみるのも一興だ。
あとは、甘長とうがらし(伏見とうがらし)と油あげの炊いたん。
鍋に、
- ヘタだけ取った甘長とうがらし 1袋
- 細く刻んだ油あげ 2分の1枚
- ちりめんじゃこ 大さじ1
- 水 1カップ
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1
を入れ、落としブタをして火にかけて、煮立ってきたら弱めの中火くらいで10分煮て、煮汁はほぼ煮詰めてしまう。
たたきキュウリの梅酢和え。
キュウリはすりこ木で叩いて大きめにちぎり、塩1つまみで揉んで10分置いて、水洗いして水気をふき取る。
梅酢に砂糖少々を加えたもので和える。
それにとろろ昆布の吸物(みょうが入り)と、
冷やしトマト。
酒は、冷や酒。
きのうは、また激しく酒がうまかった。鯛は、日本酒にはこの上ない相性なのである。
おかげできのうも、また飲み過ぎてしまうわけなのだが、酒がうまければ飲むのは道理なのだから、それも仕方がないのである。
「言い訳は聞きたくないよ。」
そうだよな。
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