鯛の塩焼き鍋で酒を飲んだ。
鯛の塩焼き鍋は、池波正太郎的粋な料理の代表の一つなのである。
きのうブログで紹介しようと池波正太郎『そうざい料理帖』
を改めて、パラパラと眺めたら、池波正太郎の世界が蘇ってしまったのである。
鯛のアラを買ってあったのだが、
これを塩焼き鍋にすることにした。
池波正太郎の料理がいいのは、とてもうまいにも関わらず、作り方が非常にシンプルであることだ。
料理は「手をかけるほどうまい」とは、たしかに言える。野菜の下ゆでや、炊き合わせを別々に煮ることなどは、その一手間をかけるか、かけないかで、味は大きく変わってくる。
しかし料亭ならともかく、家庭料理の場合には、全てに手をかける訳にはいかないだろう。手軽に出来ることも、やはり大事だ。
すると、どこに手をかけ、どこに手をかけないかの見極めが、必要になってくる。手をかけるべきところには思い切って手をかけ、そうでないところは思い切って省略する。
さらには、やり方を根本的に変えることにより、手をかける必要が全くなくなるようにする。
それができるのが、「名人」なのである。
名人は時折見かけるが、池波正太郎はその一人であると思う。
鯛の塩焼き鍋は、池波正太郎が折詰などに入った尾頭付きの鯛をもらったときに、作ることにしているそうだ。尾頭付きの鯛は、そのまま食べてももちろんうまいものだが、これに一手間をかけ、料理に仕立て上げようと考えることが、まずは微笑ましい。
鍋にするわけなのだが、具は、鯛のほかには豆腐のみ。このストイックさが、しびれるところだ。
鍋はどうしても、具材をあれこれ入れたくなる。もちろん、具だくさんの鍋も、それはそれでおいしいものだが、中途半端に具だくさんになると、かえってみすぼらしく見える。
池波正太郎は、ひとりで食べる「小鍋だて」には、具材の種類は
「2品か、せいぜい3品」
と言う。
あれも、これもと入れたくなるのを抑えることが、「粋だ」というわけなのだろう。
それから鍋の味付は、「酒と塩のみ」となっている。これもしびれる。
鯛はたしかに、塩だけで完璧な味になる稀有な魚だ。調味料も、それから具材も、余計なものを入れないほうが、鯛の味を活かすことになるのである。
きのう買ってあったのは、生の鯛のアラだから、まずは塩焼きするところから始める。
魚は焼いてから煮るようにすると、臭みが取れ、香ばしい風味がつく。
鯛アラはサッと洗って、ウロコが残っていたらていねいに取り、塩を振る。
塩は、あとで汁に入れるのだから、「多いかな」と思うくらいに振ってしまってかまわない。
鯛を焼くには、グリルがあるならそれでいいし、焼き網でも、フライパンでもかまわない。フライパンを使うなら、フタをして焼くとうまくいく。
ただしどのやり方でやるにせよ、魚を乗せる前によく熱しておくことが、くっついてしまわないためには必要だ。
あとでさらに煮るわけだから、多少生焼け加減のところで火から上げるようにする。
鍋に鯛と豆腐を入れ、酒1カップ、それに水を、鯛と豆腐がかぶるくらい入れて中火にかける。
煮立ってきたら火を弱め、ごくごく小さく煮立つくらいの火加減にし、5分煮る。
味を見て、塩気が足りなければ塩を加え、さらに10分煮て火を止める。
アクは、初めに出てきたのはサッと取るが、あとのは鯛のうまみだから、取らないことが肝心だ。
澄み切った、鯛のだし。
器に取り、ネギを少しかけて食べる。
鯛のうまみそのものの、極上の味である。
夏の鍋は、暑いかと思うところなのだが、全くそんなことはない。煮ながら食べるのでなく、煮たものをテーブルに持ってくるのだし、それに夏は、汁が冷めてもそれはそれで、悪くない。
さらにきょう、これをキンキンに冷やして、そうめんの汁にした。
ちょっとゼラチン状になっていて、夏にはたまらないのである。
あとは、ナスの塩もみ。
ナスは、今が盛りである。盛りのナスは、ハウス物とは全くちがい、アクがほとんどない。
ナスの塩もみも、普段なら味を色々つけるわけだが、この時期だけは何もせず、そのまま食べると、ナスの甘みを味わえる。
ナスは好みで縦のトラ刈りに皮を剥き、3ミリ幅くらいに切った上で、塩一つまみを振って揉む。
5分くらい置いたら、水で洗ってよく絞る。
トマトとオクラのツナマヨ和え。
オクラはまな板の上で塩を振ってズリズリとし(板ずり)、1~2分サッとゆでる。
常温で冷やしたら、1センチ幅くらいに切り、8等分のくし切りにして種を除いたトマトと合わせ、ツナとマヨネーズ、塩コショウで和える。
それに新ショウガの梅酢漬け。
酒は、冷や酒。
鯛には、やはり日本酒が合うのである。
「池波正太郎にかぶれてるね。」
そうなんだよ。
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