酒は、日本酒を一番よく飲む。
やはり日本流の食事には、日本酒が合うのである。
酒はこの頃は、もっぱら「月桂冠上撰」酒パック
と決めていて、もう迷うところなく、こればかり買う。
月桂冠は京都を代表する酒で、よく古い居酒屋などがこれを出したり、花見やお祭りなどになると、月桂冠の提灯が会場に並ぶのを見たりするから、なんとなく大衆的なイメージがあるけれども、どうしてどうして、いかにも京都らしい、はんなりとした味がする。
ただしぼくが月桂冠ばかり飲むのは、「これが一番うまい」と思っているからでもない。
紙パックは値段も手頃で、スーパーでも手に入り、家で飲むには「総合的に見てこれがいい」というのが理由である。
京都は酒所だから、他にもうまい酒はたくさんある。その中で、佐々木酒造「古都」
は、自分で買って時々飲む。
佐々木酒造は、俳優佐々木蔵之介の生家で、今は弟さんが跡を継いでいるらしい。「古都」は、川端康成が愛した酒で、古都の文字も、川端康成の揮毫だそうだ。
緑の瓶と、茶色の瓶とがあるのだが、この緑のやつが、「いかにも佐々木蔵之介」と言いたくなる、すっきりとした、キレのある味がする。
日本酒は、広島にいるころ、飲むようになった。広島も酒所で、銘柄は山ほどある。
広島を代表する酒となれば、やはり「賀茂鶴」
ということになる。これは月桂冠や菊正宗と同様、宮内庁御用達の銘柄だ。
スッキリとして飲みやすく、味も調和が取れていて、まさに王者の貫禄だ。
ただし広島の人は、賀茂鶴はどちらかと言えば他所行きの、お客さんが来た時などに飲む酒で、普段は辛口の「千福」
か、甘めの「白牡丹」
を飲むことが多いと聞いた。これらは広島のスーパーなら、どちらも酒パックが置かれている。
ただしぼくは、広島時代に愛飲したのは「福美人」
である。これは超甘口なのだが、日本酒初心者だったぼくは、辛い酒はどうも飲みにくく、このくらい甘いほうが良かったのだ。
あとは名前が、女性を連想させるのもいい。酒はぼくにとっては、「相棒」というより、やはり「女性」である。
東京にいたころは、何かにつけて飲んでいたのは「久保田」
である。これは新潟の酒の中では比較的クセがある、男らしい味がする。
新潟も、酒所であることは言うまでもないわけで、あるとき新潟の居酒屋へ行ったら見知った酒ばかりだから、
「地酒はありませんか?」
と聞いたら、
「全部地酒です」
と言われたことがあった。
それもそのはず、久保田も八海山も越乃寒梅も、すべて新潟の地酒であった。
その新潟の人の何人かに、「酒はどの銘柄が好きですか」と聞いてみたことがある。そうすると、一番多かったのは、「〆張鶴」
だった。これは他県では、知名度はそれほど高くないのではないだろうか。
実際、飲んでみると、いかにも飲みやすく、それでいてしっかりとしたコクがある。
東北も、酒所である。秋田に友達がいて、会うときいつも持ってきてくれるのが、「刈穂」
である。
これは辛口で香ばしく、いかにも「男前」といった味がする。ぼくは刈穂を飲むたび、「人と、その人が愛飲する酒は似ている」と思うのだ。
福島の酒も、震災後にしばらく飲んだ。一番飲んだのは「大七生もと」
で、「いかにも福島らしい」と思った。
西田敏行に似ているのである。
派手に尖ったところがなく、まろやかで、なおかつしっかりとしたコクがある。
こないだ郡山へ行ったとき、飲み屋でおすすめの酒を聞いたら、一番多かったのが「栄川」
だった。すっきりとした飲み応えで、いかにも「王道」の味である。
福島にも、酒の銘柄は山ほどある。
たぶん、それらの中で、あまりクセがない、「初心者向け」のものなのだろう。
「お酒は色んなのがあるから面白いね。」
ほんとにな。
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