ネコもだんだん、ぼくが危害を加えないということが、わかってきたようだ。エサを窓の外に出しておくと、ぼくの顔をじっと見るのは少しのあいだだけになり、あとはすぐに寄って来るようになっている。
オスなのか、メスなのかもわからない。野良ネコにしては毛並みがいいから、ほかの場所でも、誰かにエサをもらっているのだろうか。
近所の人は、野良ネコをわりと可愛がっているようで、餌付けをしている人も何人かいるようである。
きのうもやって来て、出してやったエサを食べる。
半分ほど食べたところで、お腹が一杯になったのか、食べるのをやめ、プイとどこかへ行ってしまった。
先日も、竹輪を半分投げてやったら、やはり半分残してどこかへ行った。残った半分の竹輪は、庭に一日転がっていたが、ネコはもう食べなかった。
だから今回も、
「もう食べないのだろう、、、」
そう思い、残ったエサが入った皿を下げてしまった。
するとしばらくして、またネコがやってきた。
窓を開けると、皿があった場所へ寄ってきて、こちらをじっと見ている。
「残りの半分は、後から食べるつもりだったのか」
察したぼくは、またエサを皿に入れ、出してやった。するとネコは、それをうまそうに食べ始めた。
ネコがエサを食べるのを見ると、愛しいような、切ないような、不思議な気持ちが湧いてくる。
奥さんが、ご主人や子供に食事を食べさせるのも、やはりおなじ気持ちなのだろうか。
ネコは皿に入ったエサを、ペロリと全部食べてしまった。
なのにその場を立ち去らず、そのままぼくの顔を見ている。
「お代わりしたいのか、、、」
ぼくは思った。
それでさらに追加で、エサを皿に入れてやった。
ネコはぼくが手を出したので、警戒したのか、少し離れた場所へさっと飛び退く。
しかし皿にエサがふたたび満たされたことは承知したのだろう、じっと皿を見ている。
当然、こちらへ来て、また食べるのだろうと思った。
食べ終わっても、まだ食べたそうにしていたのだ。
ところがネコは、次の瞬間、プイと踵を返してそのままどこかへ行ってしまった。
「、、、、、」
ぼくは、何のことやらわからない。
エサをもっと食べたかったのじゃないのか?
それとも途中で、気が変わってしまったのか?
「ネコの気持ちはわからない、、、」
ぼくはつくづく、思ったのである。
「食べるのを見られるのが嫌なんじゃない?」
そうなのかな。