建築家池井健くんとマチコちゃんが、喫茶店「PiPi」でぼくの壮行会をひらいてくれ、きのうはそのまま池井くんが設計した自邸を見学、話を聞いた。
時代は変えられるのである。
朝ブログを更新しにPiPiへ行くと、店主マチコちゃんが、
「今日昼ワインしませんか?」
いたずらっ子のような目をしてぼくを見る。
誕生日のプレゼントでもらったワインがあるのだが、それをぼくの壮行会を兼ねて飲もうと、前日池井くんと盛り上がったのだそうだ。
池井くんは仕事の予定を変更してまで、それにつき合ってくれるという。
そうくれば、ぼくに「断る」という選択肢はないのである。
昼から飲む酒はいつもうまいが、こうして仲間と飲めばさらにうまい。
アテはいつも通りの日替わりランチで、きのうはサーモンフライやら豚トマト煮やら、ワインに合うものばかりだった。
酒好きが3人で飲めば、ワインなど一瞬で空いてしまう。
さらにビールを一人一本ずつ飲んだ。
池井くんは打ち合わせを午前中にうつしたので、午後は予定は特別はいっていないという。
ぼくは前から、池井くんが自分で設計したお宅をみて、話を聞きたいと思っていた。
池井くんに「今日はどうか」と聞いてみると、「いいですよ」とのこと。
仕事は山ほどあるのだろうが、時間を取ってもらうことにした。
建物は四条大宮からほど近い路地の角地にある。
元は大正時代に建てられた洋館で、それを池井くんの設計のもと外観だけのこして全面リノベーションしたそうだ。
梁や柱を大幅に追加して、基礎も打ちなおしたとのこと。
元は理容店としてつかわれており、その回転灯は残してある。
建坪は10坪だから、「超ミニ住宅」である。
池井くんがそれをどのように料理したのか、楽しみに中に入った。
1階は池井くんの建築事務所になっていて、回転灯の横のドアから入る。
入るとすぐにテーブルがあり、そこはミーティングスペースだそうだ。
奥には作業スペースがある。
池井くんはバタバタと仕事がはいり、一人ではこなしきれなくなったため、スタッフとインターンをいれたそうだ。
その奥には池井くんの作業机。
スタッフの作業スペースはサボれないよう外から見えるが、自分の場所は見えないように工夫されているとのことだ。
横のカーテンを入ると2階のプライベートスペースへ向かう階段があり、これは外から直接入れるようにもなっている。
2階へ上がると、全面ガラスに植物が配された、明るい空間があらわれた。
2階はもともと、6畳くらいの部屋3間に仕切られていたそうだ。
しかしそれだと狭いし、天井も低いから圧迫感がある。
そこで間仕切りをすべて取っ払い、さらに中央部分を2階から3階へ吹き抜けにして、たくさんの植物を置くことで「公園」のような場所にした。
「公園」にはダイニングテーブルが置かれていて、その両側にキッチンとリビングが配されている。
3階は、キッチンの上はバスルーム。
燦々と陽がはいり、明るくピカピカしている。
リビングの上は寝室。
こちらは窓も少なく、明るい吹き抜けの公園から見ると、暗い「穴ぐら」のようにも見える。
間仕切りがないから狭いスペースでも広々としているが、ただ「のっぺり」としているのではない。
光をうまく利用し、さらにキッチンとバスルームは青いタイル、リビングと寝室は茶色のじゅうたんと天井や床の素材を変えることで、それぞれのスペースが自然にくっきりと区別されるようになっている。
大変居心地のよい、さらに使いやすそうな空間で、ぼくもここに住みたくなった。
「建築家の技量とはこういうものか」とあらためて感じ入った。
池井くんは、
「建築は機能と芸術性がどちらも満たされることが大切だ」
と言う。
これは「近代」の精神で、国家やそれと結託した宗教の権威をたたえるために建物が作られた「中世」とちがうところなのだそうだ。
池井くんは近代建築がすきで、特に近代の初期、国家の権威から解放されたすぐあとに建築家がさまざまな試みをしている頃につよく魅力を感じるという。
多くの様式が生まれては消えしたあとに、「機能と芸術」というところに近代建築は落ち着いていったそうだ。
しかしその後、「現代」になると、芸術性が抜けおちて、機能だけを追求した建物が多く建てられるようになる。
その反省から、「中世にもどろう」とする動きもあったがそれも下火になり、現在では中心となる思想は見あたらないのだそうだ。
「その思想を見つけようとは、池井くんはしないの?」
ぼくは聞いてみた。
池井くんは、
「いやいや、ぼくなんかそんなそんな・・・」
謙遜する。
でも謙遜することもないとぼくは思うのである。
時代はつねに、「誰か」によって変えられていく。
その誰かが「自分ではない」と決めつけることはないだろう。
ニュートンが万有引力の法則を見つけたのは、二十歳そこそこだったそうだ。
若い人ほど時代を変える力はつよい。
35歳の池井くんには是非がんばってほしいと思うのだ。
そんな話を少しして、ぼくは池井邸を辞して家にかえった。
話をしているあいだもずっと飲み続けていたからだいぶ酔っ払ってはいたが、仕事もし、晩酌の支度をすることにした。
晩酌は、鯛のあらを買っていたからそれを煮付けた。
鯛も春の魚である。
鯛は一年中おいしいが、「桜鯛」という言葉もあり、一応は春が旬となっている。
きのうは天然鯛の大きなあらを買ってきた。
鯛は養殖物でも十分だが、やはり天然物はおいしくて、味に濁ったところが一切ない。
京都は天然物も養殖とかわらないような値段で売っているのが嬉しい。
鯛のあらは、まずは湯通しして臭みを取る。
熱湯にサッとひたし、そのあと水で、血の塊やヌメリ、ウロコをよく落とす。
鍋にだし昆布を敷き、湯通しした鯛あらと、きのうは焼き豆腐をならべ、水を2カップ、それに酒とみりん、砂糖を大さじ4ずつをいれる。
強火にかけ、沸騰したら強めの中火にし、アクをサッと取る。
しょうゆ大さじ3をいれ、落としブタをして10分強、煮汁がきちんと鯛の上にまわる火加減をたもちながら煮る。
最後にしょうゆ大さじ1をいれ、ひと煮立ちさせて火を止めて、フタをしてそのまま置いて、ゆっくり冷まして味をしみさせる。
上の分量は少しうす目の味付けで、調味料をそれぞれ大さじ1ずつ増やしてもいい。
鯛のあらは、まずは目、それから口のまわりのドロドロとしたところがうまいのである。
あとは青ねぎの卵炒め。
卵2個にざく切りの青ねぎとちりめんじゃこ、砂糖とうすくち醤油小さじ1ずつをいれて溶きほぐし、オリーブオイルで中火で炒めて大きめにまとめる。
カレイの煮汁で炊いた甘長唐辛子。
やはりカレイの煮汁で炊いた白ネギ。
とろろ昆布の吸物。
酒はぬる燗。
きのうは昼から飲み続けだったから、夜は一合で満足した。
「ぼくも時代を変えられるかな。」
できるかもしれないぞ。
◎関連情報
建築家池井健氏、明日(3月26日水曜)自邸からテレビに生出演するそうです。
16:50~の「キャスト!!」(ABC朝日放送)という番組の、「ウチきて」というコーナーで、池井氏が出演するのは17:20頃から、10~20分間の予定とのこと。
・池井氏過去の出演番組
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コメント
今日現場ないんで一日見てたっすけど
あんた遊びすぎやろ笑笑
おれもそんなんがええわー
かっこいい家とか建てたいっすね
高野さん 池井さん こんにちは
ポーソン好きですか
ボーソンぼくは知りません。
高野さん こんにちは
ポーソンは英国建築家です
私の夢のひとつは彼作の家でオハラショウスケサンすることです
池井氏はさすがポーソンのことをご存知で、「ミニマルな建築を建てる人だ」と言っていました。