待ちきれない春を少しでも感じるため、昨日は鯛のあら炊きにした。
鯛はやはり王者なのである。
昼酒は、ゲソの味噌わた炒めをうどんに乗せたのを肴にした。
一昨日買ったスルメイカの、ゲソとわたを残してあったのだ。
イカはやはりわたをどうやって食べるかが、食べ方のポイントになる。
濃厚なうまみがあるが、臭みが出やすいから、多少の工夫が必要だ。
王道は塩辛で、本格的に作るのでなく、3~4時間の浅漬にするのもかなりおいしく食べられるのだが、最強だと思うのは、檀一雄が『檀流クッキング』で紹介する「イカのスペイン風」。
わたごとただぶつ切りにしたイカをオリーブオイルにニンニク、唐辛子で炒めるもので、イカをさばく必要もなく、ごくごく簡単に出来ながら、「いかにもスペイン」という力強い味がする。
ただこれはニンニクを使うから、和食を中心とするぼくの日常の食卓には並べにくい。
ニンニクに蹴散らされ、他の和食メニューの味がしなくなってしまうからだ。
そこでぼくはよく、わたを味噌炒めにする。
八丁味噌を甘めに仕立てると、わたのクセをうまく和らげてくれるのだ。
でもこれまで、まだ今一つ、味のカドが取れきれていない気がしていた。
ショウガをいれるとさらに良くはなるのだが、「あと一歩」な感じがあった。
それが昨日、めでたく「完成」と相成ったのである。
ふと思いつき、卵黄を乗せてみたのだ。
するとこれが、見事にまろやかな味となり、わたのクセは微塵もない。
考えてみたら八丁味噌と生卵は、名古屋の味噌煮込みうどんでも切っても切れない仲であり、考えつかなかったのが不思議なくらいだという話だろう。
作るには、わた袋に包丁をいれて中身をしごき出し、八丁赤だし味噌、砂糖、みりんと酒大さじ1、おろしショウガ小さじ1とよく混ぜ合わす。
ここにぶつ切りにしたゲソを加え、5分でも10分でも置いておくと味がしみる。
フライパンを強火で熱し、ゴマ油と輪切り唐辛子をいれたら、漬け込んだゲソを炒める。
30秒ほど炒め、粘り気が出てきたら、温めたうどんに乗せる。
卵黄を落とし、青ねぎと一味をふる。
コッテリとしたわた味噌炒めが、またうどんによく合うのである。
昼酒をしたら昼寝をし、引っ越しのことを少しした。
そのあと、商店街へ晩めしの買い出しに出かけた。
このところ毎日寒くて、春が待ちきれない。
「少しでも春を感じられるものを食べたい」と向かうのは、やはり魚屋である。
昨日はうまそうなタラのあらも出ていて、鍋にいれたらうまそうだったが、タラはもう十分食べた。
春を感じるとなれば、鯛である。
鯛は一年中出ているが、「桜鯛」ともいわれる通り、春が食べどきの一つである。
天然物がとびきりうまいのは言うまでもないのだが、手頃な養殖物でも十分うまい。
特にあらは、手頃さでいえば右に出るものはないほどで、昨日も頭にカマ、腹身に骨まで入ったのが、350円。
ひとりで一度には食べきれないので、骨は翌日のあら汁にまわすことにする。
鯛はやはり、魚の王者だとぼくは思う。
身がうまいのは言うまでもないことだが、まただしがいい。
そのまま吸物の汁にして、あそこまで過不足のない味になるのは、あとはハマグリだけだろう。
鯛あらは、それを存分に楽しめることになる。
鯛あらの定番料理は、まずは「あら炊き」になるだろう。
かならず何かを炊き込んで、鯛のだしを吸わせるのがポイントで、ゴボウや里芋が定番だ。
さらにそうめんを加えて「鯛そうめん」にするのがまたいいが、昨日は昼にうどんを食べたし、炭水化物はやめておいた。
鯛あらを料理するには、兎にも角にも下処理が重要だ。
さて鯛のあら炊きだが、まずは湯通しする。
あまり熱いのだと鯛の皮がはがれるから、ちょっと冷めた、80度くらいのお湯がよく、給湯器でそのくらいのが出るのなら、それでいい。
全体をひたしたら、すぐに湯を捨て、よく水洗いする。
まずはヌメリや血のかたまりが臭みの元になるから、それをていねいに取り除く。
それから特に念入りに取らないといけないのは、「ウロコ」だ。
鯛あらは、口に骨ごといれて食べるが、骨はいくらあってもいいが、不思議なことにウロコだけは、一枚でもあると非常に残念な気持ちになる。
魚屋もウロコはあらかじめ取ってはいるが、あらは複雑な形をしているから、取りきれないのが残っている。
これを「一枚も残さない」気概をもって、ていねいに手で取り除く。
ゴボウも洗う。
ゴボウは泥付きを買ったほうが日もちがいいが、これを洗うのは、普通のたわしよりナイロンたわしのほうがやりやすい。
ナイロンたわしは、ゴボウを包み込むようにできるからだ。
洗ったら、3~5ミリ厚さくらいの斜め切りにして、5分ほど水にさらす。
あとは簡単な話で、浅めの鍋に5センチ角くらいのだし昆布を敷き、まずゴボウを並べ、その上に鯛あらを、できるだけ平たくなるように並べる。
水を2カップ、それに酒と砂糖、みりんを大さじ4ずついれて強火にかける。
煮立ったら強めの中火にし、アクを取りながら3分煮る。
3分たったら、しょうゆ大さじ3をいれる。
火加減は強めのまま、落しブタをして7分ほど、計10分強煮る。
最後にしょうゆ大さじ1をいれ、一煮立ちさせて火を止める。
火を止めたらフタをして、しばらく置いて味をしみさせる。
淡白でありながらコクがあり、鯛はほんとうに王者の味だ。
味がしみたゴボウがまたいい。
鯛あらは、まず目のまわり、それから口のまわりのドロドロがうまい。
あとは昨日は、菜の花のからし和え。
さっとゆで、水で冷やしてよく絞った菜の花を、みりんとしょうゆ小さじ1、からしとかつお節、すりゴマそれぞれ少々で和える。
一昨日のカブの吸物。
一昨昨日の、手羽元大根。
それにすぐき。
酒はぬる燗。
ぼくは毎日こうして、ごちそうばかりを安い値段で食べていて、料理ができない人にたいして申し訳ないほどである。
「高いものは食べられないしね。」
そうなんだよな。
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コメント
初めまして。いつもおいしそうな食べ物の数々愉しく見させてもらってます!ところで、京都で鯛といえば鯛かぶらが有名と聞きますがそちらはやらないのですか?
かぶら蒸しですね、ですねー、まだやったことないんですよ(^o^)
初めまして。いつも楽しく拝見してます。昼酒、新福菜館、魚のアラ等好みがかぶってまして、高野さんの味つけもドンピシャ、本も買いました。サイトの徒然草のような味わいもクセになりますね〜。