角煮大根を、できる限りていねいに作ってみた。
「プリップリのプリプリ」に、出来上がるのである。
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角煮大根は、「男のロマンを掻き立てるメニュー」と言えるのではないだろうか。
ぼくの本もそうだけれど、男性向けの料理本で、角煮大根が冒頭数ページに登場することは多い。
ぼく自身も料理を始めたころ、角煮大根はしょっちゅう作った。
まず何より、「ガッツリとした豚肉」であるのがいい。
しかも塊肉だから、スタミナ重視の男にとっては、何といっても食べ応えがある。
それから作るのに時間がかかるのも、またいいところだ。
手間ひまをかけながら、少しずつ少しずつ、完成へ向けていく。
プラモデルや模型を作るのにも似た、「モノ作りの快感」を、存分に味わえる。
だから角煮大根を作る場合は、「できる限りていねいにやる」のが楽しいのだ。
ていねいにやればやるほど、出来上がったときの達成感は、大きくなる。
◆
この角煮大根、作り方には様々な流儀がある。
もちろんそれぞれに、利点があるのだけれど、ぼくの考えでは、大事なのは次の2点だ。
煮汁を決して煮立てない
角煮大根を作る際には、豚肉を、
- 下処理の脂抜き
- 味入れ
の2回にわたって火を入れることになる。
この2回とも、初めから最後まで、「煮汁を煮立てない」のが、まず第一におすすめだ。
肉は、火を入れる前には、弾力があってプリプリしている。ところがこれが、65度以上(だそうだ)の温度になると、タンパク質が変性して硬くなる。
一旦硬くなってしまうと、今度は豚肉なら2時間くらい、牛肉の場合なら4~5時間は煮ないとやわらかくならない。
しかもそうして煮込んでやわらかくはなっても、プリプリさは失われ、「モッソリ」としてしまう。
煮立てないように火を加減すると、煮汁は60~70度の温度を保てる。そうすると、どれだけ長く火を入れても、豚肉はプリプリとしたままだ。
60~70度の温度は、脂を抜くにも味を入れるにも、問題は全くない。
必要以上にうまみも抜けず、食べ応えはこの上ないのである。
味入れには削りぶしのだしを使う
角煮大根のレシピでは、豚を下ゆでした煮汁をそのまま使って、そこに味付するのも多い。
しかしそれでは、「まずい」とまでは言わないが、一味足りない味になる。
豚肉としょうゆは、相性があまりよろしくない。トンカツに、しょうゆだけをかけて食べるのを想像すれば分かるだろう。
ショウガやら、カラシやら、あとは大根のうま味やらで、それをある程度は補うことはできなくない。
しかし豚肉としょうゆを合わせようと思ったら、一番強力なのは「削りぶしのだし」なのである。
ラーメンも、最近のやつは、豚骨と魚介だしのダブルスープになっているだろう。
あれと同じ話である。
なので角煮を作る際には、しょうゆで味を付けるならば、必ず削りぶしのだしを取る。
これで味が、格段に変わるのだ。
◆
さて角煮大根を作るには、「豚ばらブロック肉」を買う。これは言うまでもないことだが、アメリカ産より、国産肉のほうが、やわらかくて数段うまい。
きのうは肉屋で、300グラムを注文した。
これをサッと洗って塊のまま鍋に入れ、たっぷりの水を張って、うす切りのショウガと、ネギの青いところがあれば(きのうはなかった)入れ、中火にかける。
湯気が上がってくるようになったら、火を極小の弱火にする。
決して煮立てないよう気を付けながら、そのまま1時間ほど、湯にひたす。
1時間たったら火を止めて、さらにそのあと1~2時間、鍋にフタをして置いておき、ゆっくり冷ます。
冷ますことで、煮汁に溶けだした肉のうま味が、また肉へ戻っていくのである。
冷めた肉は、2センチ厚さほどに切る。
こうして煮立てないように火を通すと、肉の中はピンク色のままになる。
大根も、下ゆでする。
2センチ厚さくらいの、丸でも、半月でも、イチョウでもいいので好みの形に切り、角をすべて面取りする。
鍋にならべ、米のとぎ汁をたっぷり張って、火にかける。
水でもいいが、米のとぎ汁を使った方が、大根は甘くなり、味もしみやすくなる。
煮立ったら弱めの中火くらいにし、こちらはきちんと煮立てながら、15~20分くらいゆでる。
竹串がスッと通るようになったらゆで汁を捨て、大根は水洗いしておく。
昆布と削りぶしのだしを取る。
鍋に2カップ半の水と、10センチ長さくらいのだし昆布を入れ、中火にかける。
水が沸いてきたら、これも極小の弱火にし、煮立てないように10~20分、温める。
削りぶし・ミニパック4袋分を入れ、やはりそのまま温めて、5分ほどしたらザルで漉す。
いよいよ味入れ。
豚肉と大根を鍋にならべ、
- 豚のゆで汁・1カップ
- 昆布と削りぶしのだし・2カップ
- 酒・大さじ6
- みりん・大さじ6
- 砂糖・大さじ6
を入れて、火にかける。
こちらも湯気が出てきたら、火は極小の弱火にし、煮立てないよう気を付ける。
15分温めたら、しょうゆ・大さじ2、また15分温めたら、しょうゆ・大さじ4を入る。
そのあとさらに30分、計1時間、温める。
1時間したら火を止めて、鍋にフタをし、そのまま最低でも30分、置いておく。
置いておくあいだに、さらに味がしみていく。
というわけで、手間ひまかけて作った角煮大根。
カラシを添える。
豚肉は、プリっぷりのプリプリ。
これだけの時間をかける、価値があるのである。
ちなみに残った豚のゆで汁は、捨てずに取っておくといい。
ラーメンやスープのだしに、打ってつけだ。
あとは、水菜の吸物。
昆布と削りぶしのだし1カップに、
- 酒・大さじ1
- みりん・小さじ1
- 淡口しょうゆ・大さじ1
で味を付け、細く刻んだ油あげ、バラしたしめじを少し煮て、ざく切りの水菜をサッと煮る。
グリーンピースご飯。
水加減は、米1合にたいして酒・大さじ1を含んでいつも通りに調整し、米1合に塩・小さじ4分の1くらいを加え、普通に炊く。
納豆キムチ。
よく練った納豆と、キムチ、青ねぎ、ゴマ油一たらしを和える。
酒は熱燗。
作るのに時間がかかった分、ひとしおうまい。
「ちょっと凝り過ぎなんじゃない?」
やっぱりそうかな。
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