京都の人は、やはりハモには特別な想いがあるようだ。30代くらいの若い人でも、夏場に居酒屋へ行けば、
「夏はこれを食べないとダメなんですよ」
と、ハモの湯引きを頼んだりする。
ハモの料理は第一に湯引きだが、これは外で食べてもいい。家で食べるなら、ガッツリと炊き込みごはんがおすすめだ。
京都の人がハモに特別な想いを持つのは、冷蔵庫がなかった時代、京都で生魚として入手できるのが、生命力が強いハモだけだったからのようだ。京都は山に囲まれているから、海の幸を入手するにはハンデがある。
ハモは骨が硬いから、以前はすり身などにするくらいしか、使い道がなかったとのこと。
しかしそこはそれ、京都には凄腕の料理職人が唸るほどいるのである。職人技で「骨切り」することにより、見事なごちそうに仕立てあげたわけである。
京都の食は、サバ寿司にしても棒ダラにしても、「新鮮な魚が手に入らない」というハンデを、きちんと手をかけることにより、鮮やかなまでに美点に昇華させたものが多い。だいたい、だし昆布と削りぶしにしたって、いわば保存食である。
そういう意味では、ハモもまさに、いかにも京都らしい食べ物だといえると思う。
ハモを食べるなら、やはりまずは湯引きであり、これは骨切りされたハモを買ってきて、サッと湯通しして冷水に取るだけだから簡単だ。
しかしおれは、家でシャレたものを食べるのは、どうも性に合わないのだ。シャレたものは外で食べ、家ではむしろ、質実剛健なものが食べたい。
となればハモの場合は、炊き込みごはんだ。
ハモの炊き込みごはんは、やさしい、ほんわりとした味になり、また格別だ。
炊き込みごはんというと「鶏肉」のイメージがあるが、あれはたぶん、炊き込みごはん界では、どちらかといえば「異端」ともいえるもので、炊き込みごはんは魚こそがうまいのだ。
鶏肉だと、だしを使わないと味が整わないのに対し、魚の場合は塩焼きをして入れるだけ。だし昆布だけ入れ、あとは醤油で味を付ければ完璧においしくなる。
ハモもほんとは、塩焼きして入れるのが一番いい。
でもハモはそのまま焼くと丸まってしまい、焼く時には串を打たないといけないわけで、それもちょっと面倒だから、淡白な魚で大して臭みがあるわけでもなし、そのまま入れてしまって問題はないのである。
炊き込みごはんは、土鍋でやるのがやはりいい。そのまま食卓に出せば見栄えがするし、だいいち味も、炊飯器で炊くよりよっぽどうまい。
土鍋に5センチほどのだし昆布を敷き、
- 研いでザルに30分ほど上げておいた米 1カップ
- ささがきにし、5分ほど水にさらしたゴボウ 2分の1本
- 細く刻んだ油あげ 2分の1枚
- 骨切りしたハモ
を、この順番で重ねていく。
水・1カップを入れ、
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 小さじ1
- 塩 小さじ2分の1
をよくまぜ溶かしたのを、下味を付けることを兼ねてハモの上からかけ、フタをして中火にかける。
湯気が勢いよく吹き出してきたら弱火にし、10分炊いて、火を止めて10分蒸らす。
火を止めるタイミングは、湯気の匂いをかぎ、「わずかにオコゲの気配がしてきた頃」である。
炊き込みごはんは、フタを取る時がたのしみだ。
茶碗によそい、わさびをちょんと落として食べる。
それからこれは、氷水をかけて食べるとまたうまい。まさに「夏の食べ物」になるのである。
あとは、豚肉ともやしの赤出し。
オクラの冷奴。
オクラは板ずりしてサッとゆで、小口に切って、ちりめんじゃこと味ポン酢で和える。
去年の分の自家製梅干し、最後の一個。
酒は、冷や酒。
きのうもまた、寝た時の記憶があまりない。こんなに毎日飲みすぎて、おれの脳は大丈夫なのかと思わなくもないのである。
しかしおれは、酒を飲むために生きているのだから、べつにアホになっても、それでいいのだ。
「すでにアホだと思うけど?」
そうだよな。
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