きのうの晩飯は、「あさりご飯」。
「自炊に挫折しないために必要な5つのこと」をまとめてみたのである。
新装版『おっさんひとり飯』は、わりと好評。
まあもちろん、著者を前に悪く言う人はあまりいないと思うけれど、みんなけっこう褒めてくれる。
「サイズが小さいのがいい」
とは、よく言ってもらうことだ。持ち運びしやすいだけでなく、
「本を見ながら料理する場合でも、狭い台所に置きやすい」
と言ってくれた人もいる。
自炊写真を投稿するフェイスブックグループ「自炊隊」でも、参加者の人が、ぼくの本を見て料理を作り、
「おかげでおいしく出来ました」
などと言ってくれたりする。
レシピは自信を持っはいるが、自炊経験の浅い人が本のレシピ通りに作り、本当においしくできるのか、もちろん不安なところはある。こうして報告してもらうのは、うれしいと同時に安心する。
きのうはぼくの本を買ってくれたという、ぼくと同年代のご夫婦と、喫茶店で偶然会った。
ご主人は、これから1ヶ月ほど、一人暮らしをしないといけないことになり、「外食ばかりじゃ何だから」と、本を手に取ってくれたという。
奥さんは、
「自分が食べたいものを自分で作って食べるのは、生活の大きな楽しみだから、主人も私の作ったものを黙って食べるだけではなく、自分も料理するようになればいいのに」
と言う。
ぼくもそれは、本当にその通りだと思う。
奥さんは、
「料理本は、ときどき凝った調味料を使っていることがあり、それを買うのはいいけれど、一回使ったきりになってしまうことも多い。でもこの本は、調味料はだいたい家にあるようなものばかりなのがいい」
と言ってくれる。
このことは、まさにぼくがレシピを載せるにあたり、心がけていることだから、分かってもらえたのはありがたかった。
本の中から、「カキの酢味噌和え」を、まずは作ってみたそうだ。
「子供たちにも好評だったんですよ」
とのこと。
ベテラン主婦に、そうしてお褒めの言葉をもらい、ぼくはレシピの内容に、ますます自信を持ったのである。
おそらく今、こうして『おっさんひとり飯』を買い、「自炊を始めてみよう」と思っている人が、何人もいるだろう。
ぼくは、そういう人を、愛しく思う。どんなことでも、新しく何かを始めることは、勇気がいる。
その勇気をふり絞り、自炊を始めるため、まずは『おっさんひとり飯』を買ってくれたというわけだ。
そうして「自炊のとびら」の前に立った人たちが、どうか無事、扉を開け、中に入ってほしいと思う。また途中で挫折することなく、前へ進み続けてほしい。
そこでいくつか、「自炊に挫折しないために必要なこと」をあげてみることにする。
これは、ぼくの経験から言うことだが、当てはまる人は多いのではないかと思っている。
1 基本はレシピを見ないで作る
ぼくがレシピ本を出版しておきながら、矛盾することを言うようだが、これは本当だ。料理を作るときには、レシピはできるだけ見ないのがいい。
料理の一番の楽しみは、「自分で考える」ことだと思う。最初から最後まで、全部自分で考えて作るのが、完成し、食べるときの満足感はもっとも高い。
作るのは、どんなにヘボいものでもいい。ヘボくても、自分で考えたものならば、十分においしく食べられる。
それを途中で、下手にレシピを見てしまうと、レシピの料理は、自分が考えたのよりおいしそうに見えるわけだ。
そうするとつい、レシピ通りに作ることになり、自分で考えて作る機会を失ってしまうことになる。
2 「失敗」は覚悟しておく
ただし自分で考えて作ると、「失敗」することは多い。でもそれは、仕方ないことだ。
「失敗は、覚悟しておくこと」が必要だ。
自炊を続けるためには、「おいしい」ことより「おもしろい」ことが、モチベーションを維持するためには大切だ。おもしろいからこそ、「趣味」として、自炊を続けていくことができる。
それに特に一人暮らしなら、まずい料理を作っても、自分が我慢すればいいだけで、誰に文句を言われることもないだろう。
失敗したら、そのとき初めて、レシピを見てみるのもいい。そうすれば、料理について、多くのことを学べるはずだ。
3 レシピ通りに作る際には事前に熟読して内容を覚える
とはいえ、レシピ通りに作ってみることで、学ぶことが多いのもたしかだ。その場合、料理の前にレシピを何度も熟読し、「内容を覚えてから作る」のがオススメだ。
レシピ通りに作ればおいしく出来るのは、多くの場合、まちがいない。しかしレシピを見ながら作ってしまうと、レシピの内容を理解するのはむずかしい。
レシピは内容を理解するからこそ、その後の自分の糧になる。
レシピを熟読し、内容を覚えようとすることは、イコール、そのレシピを理解することにつながるのである。
4 ていねいに作る
料理は誰でも、忙しい時間を割いてやらないといけないだろう。だから「少しでも短時間でやりたい」と思うことは当然だ。
ただし短時間でやるために、雑に料理してしまうと、ただの「やっつけ仕事」になってしまう。やっつけ仕事に、おもしろさを感じることはむずかしい。
自炊を楽しく続けるためには、やはり自炊が「仕事」ではなく、「趣味」と位置付けられることが必要だ。
ていねいにやることで、作る料理に愛着もわき、楽しさのあまり、気が付いたら時間を忘れてしまったりもするのである。
5 食器洗いは洗剤を使わない
料理を作ることで面倒なのは、「食器洗い」だ。「食器洗いが面倒で料理をしない」人も、多いのではないだろうか。
この食器洗い、洗剤を使わないことで、大きく手間が省かれる。ゆすぐ時間が必要ないから、時間にして3分の1ほどに節約できる。
洗う際にはスポンジは使わず、フキンで擦るようにする。そうすれば、お湯を使えば、油汚れもほぼ落ちる。
それでも落ちない油汚れは、その後水気を拭き取れば、ほぼ気にならないくらいにきれいになる。きちんと乾かすようにすれば、雑菌の繁殖なども心配ない。
食器を洗ったり拭いたりしたフキンも、お湯だけで洗えばいい。
ただしフキンは、週に1~2回、キッチンハイターで除菌・漂白することは必要だ。
自炊に挫折しないため、「大事」と思うのは以上の通りだ。
いずれにせよ、続けるために必要なのは、
「人の意見にあまりとらわれず、自分が思った通りにやる」
ことではないかと思う。
もちろん上の5つも、あくまで「ぼくの意見」。参考にするにとどめ、やりながら、自分の考えを確立してほしいと思う。
さてきのうは、「あさりご飯」を作ったのである。
あさりご飯は、「最もおいしい炊き込みご飯の一つ」と言えるのではないかと思う。
あさりは今は、「旬」というわけではない。
あさりは春先、3月くらいが一番の旬。産卵前で、身がプリプリに肥えている。
ただし年中出ていて、いつでもわりとおいしく食べられる。
あさりご飯は、あさりの最もおいしい食べ方の一つであるのは間違いない。あさりから出てくるうまみを、ご飯が漏れなく吸い込んでくれる。
あさりはみそ汁や吸物にするのも、やはりうまみをムダにしない食べ方だ。
しかしうまみが、ただ「だし」のままではなく、ご飯の甘みと合わさることで、「次元がちがう」とすら思えるうまさを醸し出すわけである。
さらにあさりご飯は、「最もおいしい炊き込みご飯の一つ」とも、言えるのではないだろうか。
炊き込みご飯は、どれもうまい。肉や魚などのうまみを、ご飯がさらに引き立てる。
しかしあさりのうまみは、「淡い」のである。
炊き込みご飯が淡い味だからこそおいしいのは、「豆ごはん」を想像すれば分かるだろう。
「ご飯の甘みにほのかに香るあさりのうまみ」が、あさりご飯の身上だ。
あさりご飯を作るには、「水加減」と「塩加減」に気を付ける必要がある。あさりは、けっこうな量の塩水を、殻を開く際に吐き出すのだ。
なので水と液体調味料を合わせた量は、通常の「米の1.2倍」より、やや少なめにする。
また塩加減も、やや控えめにするのがポイントだ。
それからあさりは火を通すと縮むから、本当にていねいにやろうとするなら、カキご飯と同様、途中で取り出しておいた方がいい。
しかしあさりは、縮むといってもカキほどではないから、あまり気にせず、鍋に入れたままにしても、それほど大きな問題はない。
あさり200グラムは、海水くらい(水1カップに対して小さじ1)の塩水に1時間くらいひたし、砂出しする。
そのあと水を替えながら、両手でガシガシ殻をこすり、水がきれいになるまで洗う。
土鍋に、
- だし昆布 5センチ長さくらい
- 研いで15分ほどザルに上げておいた米 1カップ(200cc)
- 細切りのショウガ 2~3センチ大
を入れ、上に洗ったあさりを並べる。
そこに、
- 水 1カップより心持ち少なめ
- 酒 大さじ1
- 淡口しょうゆ 大さじ1
を入れ、フタをして、中火にかける。
湯気が勢いよく噴き出してきたら、弱火にする。
10分炊き、火を止めて10分蒸らす。
たっぷりの青ねぎと、ひねり潰したゴマを混ぜ込む。
またこれが、酒にもよく合うのである。
あとは、すべておとといの残り物。
豚肉とカブの吸物。
皮やらだし殻やらの炒め物。
大根のサバ酢和え。
酒は熱燗。
自分で作ったうまいものを食べ、しみじみと幸せなのである。
「たくさんの人が自炊を続けてくれるといいね。」
ほんとにな。
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