自炊のコツは、
「食べたいものを作る」
ことに尽きると思う。これを外さない限り、自炊は作って楽しく、食べて楽しい。
特に一人暮らしの場合には、それを邪魔されることは、絶対ない。べつに見栄を張る必要もなく、食べたいものを、純粋に追求できる。
もちろん池井くんのように、奥さんと一緒に料理するなどができるなら、それに越したことはない。一人で料理するより、100倍は楽しいだろう。
しかしご主人や奥さんが、揚げ足を取ったり、ネチネチ文句を言ったりすることもあるだろう。
そういうことに比べれば、一人の料理はよほど気楽なのである。
食事を作るには、まずは「何を作るか」を考える必要がある。自分が食べるものだから、「食べたいものを作る」のは、言うまでもないことだ。
先日も書いたけれど、ここでレシピなどをパラパラと眺めても、食べたいものが見当たらないことは多い。それよりは、初心者であっても、自分の頭でゼロから考えてみるのがおすすめだ。
「食べること」は、人間の快楽の中心に位置するものだ。「自分がどうしたら気持ちよくなるのか」は、ぼんやりと考えるうちに必ず思い付く。
考え方は、「人それぞれ」になるだろう。ぼくの場合は、「肉を食べたいか魚を食べたいか」をまず考え、その時点でお店へ行って、食べたいと思える材料を買い、家に帰ってさらに料理法を考えることが多い。
自炊隊やツイッターで見たものを「食べたい」と思うこともある。自炊を始めたてのころは、居酒屋で食べたものを思い出しては料理していた。
この「食べたいものを考えること」が、実に楽しい。あれこれ考え始めると、思わず時間を忘れてしまうこともある。
ぼくの場合は、最後は酒を飲みながら考えるから、なおさら時間が経つのが早い。
細部に至るまで点検し、完成形がはっきりとイメージ出来てから、料理を始める。
ぼんやりとしていたイメージが、考えるうちにだんだんくっきりし、最後には「まさにいま自分が食べたいもの」が頭に思い浮かぶようになることは、「快感」ともいえると思う。
そうやって考えたものだから、それを作るのももちろん楽しい。そして出来た料理を食べてみて、思っていた通りの味だったときは、非常に大きな達成感と、満足感とがある。
ただしもちろん、出来た料理が思っていたのとちがうことも、少なくない。
そういう場合は黙って食べ、次回への糧とするのである。
きのうはツイッターで「鶏肉と豆腐の鍋」を見かけ、まずは「それが食べたい」と思った。鶏肉は手羽元にし、豆腐といっしょにコトコト煮込み、ポン酢で食べたらうまいだろう。
しかしスーパーへ向かって歩く途中、家に厚揚げがあるのに気が付いた。
厚揚げを使うのなら、鍋よりは「おでん」だろう。
具は最小限、他には、やはり家にある水菜だけにしようと思ったが、家に帰ったら冷蔵庫に卵も余っていたから、それも入れることにする。
汁は甘みを控えめにし、吸物になるようにすれば、さらにほっこり温まるだろう。
そう考えながらスーパーへ入ったら、鮮魚売り場に「サンマ」があった。
サンマはもう、本当に終わり。
食べ納めに今一度、「サンマ丼」を作ることにする。
ただし今回は、ご飯は白めしではなく、酢めしにした。
まずは手羽元の吸物おでん。
だしで手羽元と厚揚げ、ゆで卵をコトコト煮て、水菜は最後にサッと煮る。
鍋に水3カップ半と、10センチ長さくらいのだし昆布を入れ、中火にかけて、沸いてきたら弱火にする。
10分くらい、昆布の風味が立ってくるまで煮出したら、かつお節・ミニパック6袋分を入れ、そのまま弱火で2~3分煮出す。
だしをザルで漉し取って、
- 酒 大さじ3
- みりん 大さじ1
- 淡口しょうゆ 大さじ2
で味付けする。
この分量は、まだ塩辛さが足りないが、おでんは煮ているうちに煮詰まるから、味は最後に決めるようにするのが肝心だ。
このだしで、サッと湯通しした手羽元、お湯をかけて油抜きした厚揚げ、ゆでた卵をコトコト煮る。
30分くらい煮たところで味を見て、必要だったら淡口しょうゆを少し足す。
時間があれば、ここでしばらく置いておけば、味がしみるのは言うまでもない。
食べる直前に、ざく切りの水菜を加え、サッと煮て火を止める。
お椀によそい、青ねぎと一味をかける。
昆布と削りぶしに鶏のだしが加わって、こっくりうまい。
サンマ丼。
まずは酢めし作りから。
鍋に研いだ米1カップに水1カップ(通常より少なめにする)、5センチ角くらいのだし昆布を入れ、中火にかける。
湯気が勢いよく噴き出してきたら弱火にし、8分炊く。
8分たったら中火に戻し、30秒くらい待って水気を飛ばす。
火を止めて、10分蒸らす。
炊けたご飯を皿に空け、
- 酢 小さじ3
- 砂糖 小さじ2
- 塩 小さじ1
をよく溶き混ぜたものを、しゃもじで受けながら万遍なくかける。
しゃもじを平らに持ちながら切るように手早く混ぜ、濡れフキンをかけて、人肌くらいまで冷ます。
酢めしを冷ましているあいだに、サンマを三枚おろしにする。
おろし方は、こちらを見るのがわかりやすい。
どんぶりに酢めしをよそい、食べやすい大きさに切ったサンマを並べる。
たっぷりの青ねぎとゴマ、ショウガをかけ、しょうゆをかけまわして食べる。
生魚のどんぶりは、本当にたまらない。
サンマはまだ、ぎりぎり食べられるはずである。
あとは、梅酢のなます。
大根はできるだけ細く切り、ひとつまみの塩で揉んで、しばらく置く。
水洗いしてよく絞り、砂糖と梅酢で和え、かつお節をかける。
キムチ納豆。
よく練った納豆、キムチ、青ねぎを、淡口しょうゆとゴマ油それぞれ少々で和える。
酒は、熱燗。
食事の支度の最中にも酒を飲み続けているから、食べ始めるときにはすでに出来上っているのである。
「彼女ができればいいのにね。」
ほんとにな。
◎関連記事
あさりご飯/「自炊に挫折しないために必要な5つのこと」をまとめてみたのである