ぼくは料理をするには、本やネットのレシピに拘り過ぎてはいけないと基本的には考えていて、それは料理は、自分自身で思い描いた料理を、忠実にその通り作ってみるところに、最大の面白さがあると思うからだ。
料理初心者であってもそれはおなじで、まずは自己流、自由に料理を作ってみるのが、料理の楽しさに触れるための最短距離であると思う。
しかしもちろん、人の料理を知ることが、学ぶものが多いのは言うまでもない。
料理は人類100万年、これまで生きてきた例外なく全ての人間が、作るなり、食べるなりして関わりを持ちながら、形作られてきた文化だから、どんなに探求しても知り尽くすことなど到底できない、幅の広さと奥行きの深さがある。
人の料理を知るためには、まずはやはり、その料理を食べてみるのが手っ取り早い。多くの人は、お母さんなりの料理を食べ、その影響を受けていることだろう。
ぼくは今なら、「京子」の女将と、「PiPi」店主マチコちゃんの作る料理に、多くのことを学んでいる。
二人とも京都で生まれ育ち、京都の料理を幅広く食べているから、東京育ちのぼくなどから見ると、意外にも思えながら「なるほど」と納得するような、手軽でおいしい作り方をする。
京子やPiPiで食べるときは、「これは」と思った料理は作り方を教えてもらう。
次にはそれを自分でもやってみて、やり方を盗むのだ。
それからもちろん、料理本やネットを見るのも、料理のやり方を知るには手軽である。ただしこれは、「どれを選ぶか」が重要だ。
料理の仕方は、人によって「合う、合わない」がある。合わないやり方を学んでしまうと、料理がストレスになりかねない。
今回久しぶりに、レシピ通りに料理を作ってみることにした。選んだのは、重信初江『毎日使える!昔ながらのおかず100』。
京子の女将に勧められたもので、女将もこれを、時折参考にしているそうだ。
ページに余白が多く、色も落ち着いていて読みやすく、作り方もシンプルなものが多いのが好感が持てるところだ。
作ることにしたのは、冒頭3品めにある「鶏手羽と卵の煮物」。
ちょうど食べたい気がしたのである。
レシピを参考にして料理をする際、ぼくが気を付けていることがある。
まずはレシピを、一言一句その通りにやってみること。檀一雄などが典型なのだが、レシピはちょっとしたやり方が、大きな意味を持つことがある。
最終形をあらかじめ食べられず、作ってみるしかないのだから、まずはレシピ通りに作ったものを食べてみて、自己流に変えるのは2回目以降にするようにしている。
それから、レシピを見ながら料理しないこと。基本的に全て覚え、あとは見ずに料理する。
覚えるためには、レシピの意味を自分なりに理解する必要がある。理解していなくても、レシピ通りに作ればおいしくは出来るだろうが、それではレシピは、自分のものにならないというのがぼくの考えだ。
参考までに、本のレシピはこうなっている。
◎材料(2人分)
手羽元 8本
ゆで卵 2個
(A)
水 2と2分の1カップ
しょうゆ 大さじ4
砂糖 大さじ2と2分の1
酒 大さじ2
塩 少々◎作り方
- 鍋に(A)を煮立て、水けを拭いた手羽元を入れて落としぶたをし、少し煮汁が煮詰まるまで中火で15分ほど煮る。
- 殻をむいたゆで卵を加え、再び煮立ったら火を止めて冷ます。冷めるあいだに味がしみ込むので、食べるときに温め直す。すぐに食べたいときは、卵を加えてから中火で1~2分煮る。
このレシピで、ぼくのやり方とは違うのは、だしを使わず、その分、しょうゆをたくさん入れていること。みりんも使っていないから、東日本のやり方だろう。
それから煮時間が、「15分」なこと。手羽元は、これまでは30分くらい、ホロホロになるまで煮ていたが、たしかに火が通るには、15分で十分だろう。
鍋に水と調味料を入れて煮立て、洗って水気を拭いた手羽元を入れ、中火で15分、落としブタをして煮る。
だしを使わないから、実に手軽である。
そのあいだにゆで卵を作る。
コンロが2口になったから、今はこんな芸当もできるのだ。
ゆで卵を入れ、ひと煮立ちさせて、火を止める。
ゆで卵作りに失敗し、卵は一つになってしまった。
自分でやるなら、ネギや一味を振るところだが、きのうはレシピ通りにそのまま食べる。
なるほど、たしかにこれはうまい。
だしがなくても、しょうゆのコクと鶏のうまみがよく合って、これで全く問題ない。
煮時間も短いから、鶏のプリプリ感も残っている。
やはりこうして、時々人のレシピで作ってみるのはいいものだ。
それなりに、発見があるのである。
あとは梅干し(非自家製)と、とろろ昆布の吸物。
とろろ昆布と削りぶし、梅干し、青ねぎと淡口しょうゆをお椀に入れ、お湯を注ぐ。
塩もみ大根とトマトのツナマヨ和え。
大根は2ミリ厚さほどの短冊に切り、一つまみの塩で揉んで10分くらい置き、水で洗ってよく絞る。
8等分のくし切りにし、種を除いたトマトと合わせ、ツナとマヨネーズ、塩コショウで和える。
新ショウガの梅酢漬け。
これは八百屋のご主人に教えてもらったやり方だ。
新ショウガを薄く切り、サッと湯通しして、梅干しを漬けるときに出来る梅酢に漬ける。
さわやかで、実にうまい。
酒は焼酎水割り。
相変わらず、飲み過ぎるのである。
「謙虚に人からも学ばなくちゃね。」
そうだよな。
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檀流イワシの煮付けの味は『檀流クッキング』には書かれていないのである。