きのうは「サバ寿司」。
サバ寿司は、作るのは大して面倒でもないのに、「死ぬか」と思うくらいうまいのである。
「サバ」は普通の人にとっては、「寿司ネタの一つ」くらいの位置付けだろう。ぼくも東京で育っているから、サバは好きではあったけれど、「特にどう」ということもなかった。
しかし、京都の人はちがう。「サバ」と聞くと、目の色が変わる。
これはサバが、山あいにある京都に入ってきた、数少ない生魚の一つだったからだろう。「塩サバ」は、もう平安時代から、鯖街道を通って京都に入っていた記録があるそうだ。
きのうも魚屋へ行ったら、店先には、並みいる秋の魚の強豪どもを差しおいて、中央には塩サバ一尾850円が鎮座していた。
魚屋の若大将も、サバには目がないのである。
サバは、生のやつも、そろそろ旬に入り始めている。しかし下手に旬を外れた生サバよりも、旬真っ盛りを冷凍した塩サバの方が、脂が乗っていてうまい。
「この塩サバを買って、サバ寿司を作れ。」
店先の陳列は、若大将がそう言っていることを意味している。
ならばそれに、素直に従うだけなのだ。
サバ寿司は、酢でしめたサバを寿司めしに貼り付けたもの。
この「しめサバ」が、まずはうまい。
酢でしめることにより、サバの脂が引き立ってくる。トロトロでありながらサッパリし、たくさん食べても胸やけなどすることもない。
しかしこのしめサバを、さらに寿司めしと合わせると、「次元がちがう」とも思えるほどのうまさなのだ。
サバの脂と寿司めしが渾然一体と混ざり合い、
「これほどうまいものは世の中には他にない」
と、はっきりと確信できる味になる。
このサバ寿司が、自分で作れば、安く食べられるわけである。
しかも手間も、そう大してかかるわけでもないから、ぜひやってみるのがオススメだ。
サバ寿司を作るには、まずしめサバを作り、それを寿司めしに貼り付けるという段取りになる。
しめサバは、魚屋で3枚におろし、塩を振るところまでやってもらえば、あとは酢に漬けるだけだから何の手間もかからない。
寿司めしも、ただご飯を炊いて、すし酢をかけるだけ。あとはそれを貼り付ければいいのだから、作業としては「大したことがない」のが分かるだろう。
ただし、サバ寿司を作るには、「待ち時間」がけっこうある。サバに塩を振ってから5時間、酢に漬けて3時間、酢から引き上げ、できれば一日くらい置き、さらにサバと寿司めしを合わせてから、1~2時間は置くことになる。
だから朝一番で魚屋へ行き、その日の晩に、ようやく何とか食べられることになる。
勤めている人ならば、代休の平日などを利用するのがオススメだ。
それから、しめサバは、ただ漬けるだけだから、誰がやってもうまく行くが、これを「寿司」に仕立て上げるとなれば、そうは行かない。
寿司めしの調整や、サバを貼り付ける作業については、おいしいのを作るためにはそれなりの「熟練」が必要だ。
しかしこれは、サバ寿司づくりを、「ライフワーク」として位置付けたっていいだろう。
何度もやり、だんだんに上手にできるようになることは、「趣味の醍醐味」ともいえることだ。
魚屋で3枚におろし、塩を振ってもらったサバは、「5時間」たったら、水でサッと洗って水気をよく拭き取る。
これをだし昆布少々と一緒にビニール袋にでも入れて、砂糖ほんの少しを溶かし込んだ酢を注ぐ。
砂糖は甘みを付けるためではなく、酢の「カド」を取るためだから、酢の量がたっぷりあっても、小さじ1くらいでいい。
別に常温でかまわないから、3時間置いておく。
この「サバを酢に漬け込む時間」は、流儀によって「30分」から「丸2日」まで、大きく幅がある。
「3時間」は、中身がまだ赤い、「レア」の状態になるまでの時間だ。
3時間たったら酢から引き上げ、軽く酢を拭きとって、皮を剥ぐ。
皮は、頭の側から指でつまめばきれいに剥げる。
さらに中骨を、いくつか取っておけば、もちろん越したことはない。
でもこれは、死ぬかと思うほど面倒くさいし、サバの中骨はやわらかいから、ぼくは取らない。
ラップに包み、冷蔵庫に入れ、最低でも2~3時間置く。
酢がなじみ、まろやかになるからで、翌日がいちばんの食べ頃だ。
寿司めしを用意する。
サバの半身に、1合の米だとちょっと多いが、2分の1合ではちょっと少ない。
米を炊くとき、一緒にだし昆布少々をいれておく。
水の量は、あとから酢がかかるから、普通より少なめ、「米と同量」の加減にする。
すし酢は、1合の米に対し、
- 酢 小さじ3
- 砂糖 小さじ2
- 塩 小さじ1
となる。これをよく混ぜ溶かしておく。
ご飯が蒸らし終わったら、まだ温かいうちに平皿に移し、すし酢をかける。
しゃもじを横にし、練らずに切るようにして、手早く混ぜる。
10~20分くらい、皿に濡れフキンをかけて置き、水気を飛ばす。
寿司めしが出来れば、あとはしめサバと合体させるだけである。
巻きすを広げ、上にラップを敷いて、しめサバを置く。しめサバは、前方の、形がいびつなところを切り取って、尻尾の細くなったところに合わせるようにするのがいい。
しめサバの上に、寿司めしを盛る。
巻きすで巻いて、やさしく強く、握りながら、形を整える。
ラップに包み、1~2時間置いて、味をなじませる。
水に濡らした包丁で、食べやすい大きさに切る。
サバ寿司は、何も付けずに食べるのが基本である。
脂が乗って、トロットロのトロトロ。
この究極の悦楽を、わずか500円足らずで味わえるわけである。
あとは、水菜の吸物。
昆布と削りぶしのだし2カップに、酒大さじ2、みりん小さじ2、淡口しょうゆ大さじ2で味を付け、油あげを煮たら、水菜としめじをサッと煮る。
炒りコンニャク。
スプーンでちぎり、弱めの中火で水気がなくなるまで炒ったコンニャクに、酒とみりん、醤油で味を付け、さらに汁気がなくなるまで炒る。
それにわさび醤油の冷奴。
酒は、熱燗。
「日本人に生まれてよかった」と、つくづく思う瞬間だ。
「サバは11月の下旬くらいからが旬だよね。」
そうだよな。
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