京都名物、「豚の粕汁」。
これがまたウマイわけである。
京都には「名物」が、それこそ山のようにあり、挙げだしたらキリがないわけだが、「粕汁」もその一つに加えることができるだろう。
ただしこれは、観光客向けなどではなく、京都の人が家庭で食べる、「ソウルフード」に 近いものだと感じられる。
たとえば「お母さんの味」や「お婆さんの味」が「粕汁」だと、京都の人から話を聞くのは決して珍しいことではない。一度、
「地球最後の日に何を食べたいか」
と話していて、
「粕汁」
と答えた京都出身の女性もいた。
粕汁について語らせると、京都の人は、熱い。入れる具材や味付など、それぞれに強いこだわりがある。
居酒屋などでも、冬場には粕汁をメニューに加える店は多い。そのかわり豚汁がメニューにあることは少なくて、関東でいえば豚汁の位置付けが、関西では粕汁にあたると言えるのかもしれない。
なぜ京都の人が、ここまで粕汁が好きなのか。これはぼくの憶測だが、「お雑煮」に関係があるのではないだろうか。
京都のお雑煮は白みそで、さらに大きな里芋を具として入れる。このお雑煮の「白い色」と、「トロトロの食べ応え」が、粕汁にそっくりなのだ。
お雑煮が、その土地の人の「食の好み」を強く反映することは、まちがいがないだろう。
だから京都の人は、「白くてトロトロとしたものが好き」と、言ってもいいのではないか。
しかしお雑煮は、神様に捧げる特別な食べ物だから、そういつでも食べるわけにはいかない。そこでその代用品として、「粕汁」があるのではないかと思うのだ。
さらに粕汁は、「酒粕」という、いわば「廃物」を利用している。
この「廃物利用」の精神も、おからなどを初めとして、食材を徹底して大事にあつかう京都の人の考え方に、合うのではないかという気もする。
粕汁というと、全国的には、「紅鮭」を入れるのがもっとも一般的だろう。しかし京都は、「粕汁に紅鮭を入れる」と言う人は、とても少ない。
ぼくが聞いた限りでは、圧倒的に「豚肉」で、あとは肉も魚も入れない精進。
これがどうしてなのかは、不思議なところだ。
しかし粕汁に、紅鮭ではなく豚肉を入れると、粕汁の「トロトロ感」がいっそう増すのは間違いない。また廃物を利用した、気取らない食べ物だから、「安い豚肉を使う」ということもあるのかなと思ったりする。
ちなみにこの「豚の粕汁」、京都発祥の全国ラーメンチェーン店「天下一品」のラーメンに、そっくりな味なのだ。
ぼくは天下一品が京都でこれだけ人気があるのは、京都の人が「豚の粕汁好き」であることと、関係があると睨んでいる。
きのうは八百屋へ行ったら、酒粕が売られていた。
酒粕が売られるのは、粕汁を作るようになる冬場だけ。ブリ大根同様、これはいよいよ、冬がやってくることを意味している。
酒粕は、やはり高級なもののほうが、酒の香りがふわっと立って、うまい。これは「松竹梅・大吟醸」の酒粕で、わりと「高級なもの」とされている。
といっても、ガッポリ入って300円もしないのだから、まったく知れた話である。
京都の人に、粕汁の作り方を聞くと、入れる具材は、豚肉などの他には油あげと大根、ニンジン。
それに青ねぎかセリをたっぷりとかけるのが、「最低限必要なもの」なのだそうだ。
あとは人それぞれで、里芋やら、コンニャクやらを入れる人もいる。
ニンジンは、真っ赤な金時人参だときれいなのだが、まだ金時人参は出回っていないから、普通の人参にしておいた。
だしの仕立て方についても、色々あるみたいだが、基本は、
「昆布と削りぶしで吸物だしを作り、酒粕をくわえる」
となるらしい。
白みそを入れる人もいるそうだけれど、きのうは基本のやり方を採用した。
粕汁の作り方は、別にむずかしいことは何もない。
ただし
「酒粕をケチらずに、ガッポリと入れる」
ことが、大きなポイントになると思う。
鍋に3カップ半の水とだし昆布を入れ、煮立ってきたら弱火にする。
「ギリギリ煮立たない」くらいの火加減を保ちながら、10分ほど煮出す。
昆布を取り出し、ザルを据えて、かつお節・ミニパック3袋分を入れる。
粕汁は「酒の風味」が主役だから、削りぶしはそれほどたくさんでなくていい。
2~3分、小さい火のまま煮出したら、ザルを取り出し、お玉の底で削りぶしの汁気をしぼる。
- 酒 大さじ3
- みりん 大さじ1
- 淡口しょうゆ 大さじ3
で、吸物味(うどんだしの味)を付けておく。
酒は、酒粕を使うけれど、さらに入れたほうが風味が増す。
酒をかなりたくさん、入れる人もいるそうだ。
このだしで、まず拍子木に切った油あげ、大根、ニンジンを5分ほど煮る。
大根やニンジンの皮を剥かないのは、京都流ではなく「ぼく流」だ。
煮ているあいだに、酒粕をだしで溶かしておく。
上の3カップのだしに対して、握りこぶし大の酒粕を入れると、けっこうしっかりトロッとする。
大根がやわらかくなり始めたあたりで、豚バラ肉(コマ肉)200グラムを入れる。
湯通しなどは、どうせ白くドロッとするのだから、しなくていい。
2~3分煮て、豚肉の色が変わったら、溶かした酒粕をくわえる。
さらに2~3分煮て、味がなじめば出来上がり。
青ねぎを、たっぷりかける。
体が芯から、ほっこりと温まり、冬場には打ってつけの食べ物だ。
ご飯は、白めし。
粕汁は、酒に合うのはもちろんのこと、ご飯のおかずにもバッチリなる。
あとは、小松菜とさつま揚げの煮びたし。
さつま揚げは、手軽な煮物のいいだしになる。
小松菜1株はざく切りにし、サッと塩ゆでして水に取り、絞っておく。
鍋に、細く刻んださつま揚げ1枚と、水2分の1カップを入れ、2~3分煮出したあと、
- 酒 大さじ2分の1
- みりん 大さじ2分の1
- 淡口しょうゆ 大さじ2分の1
で味付けする。
しめじをサッと煮て、下ゆでした小松菜を入れ、ひと煮立ちしたら火を止めて、そのまましばらく浸しておく。
それに2日目の、味がしみまくったブリ大根。
自家製梅干し。
梅干しは、時間が経つにつれて味が深くなる。
酒は、言うまでもなく、熱燗。
冬場は、この「温かいものに熱燗」が、本当にたまらないわけである。
「京都には、おいしいものがほんとにたくさんあるからね。」
そうだよな。
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