昨日はいつもお世話になっている八百屋に酒粕が出ていたから、これで紅鮭の粕汁をつくった。
紅鮭の粕汁は、「塩気をうすくする」ことがポイントなのである。
粕汁は「京都の料理」というわけでもないだろうが、京都の人がよく粕汁を食べるのは間違いないのだ。
ぼくが京都へ来てはじめて粕汁を食べたのとは大きな違いで、家庭で非常によく作られ、友だちの京都人など「死ぬまえの最後の食事は粕汁がいい」と言うくらいである。
酒粕を、豚汁をつくった翌日に余った豚汁にいれたりもするようだし、みそ汁にちょっといれるのもいいそうだ。
京都は「始末」の文化だから、「残りもの」である酒粕も、意欲的に活用するということなのかもしれない。
それだけよく食べるものだから、皆粕汁の食べ方についてもそれぞれに思い入れがある。
「大根とニンジン、油揚げ」をいれるのは共通なのだが、まず大きく別れるのが「紅鮭派」と「豚肉派」である。
これはどちらも譲らずに、「自分はこちら」とはっきりと決まっている。
さらに八百屋のご主人は、さすが八百屋とおもったのだが、「どちらも入れずに油揚げと野菜だけ」だと言っていた。
八百屋のご主人は、さらに「薬味」にも好みがあると言っていた。
「セリ」をいれるか「青ねぎ」をいれるかで、これもはっきり分かれるそうだ。
他にも鶏肉やブリ、タラなどをいれる人もいるそうだし、野菜も芋やコンニャクをいれる人もいる。
しかし全員に共通するのは、「寒くなった頃、暖まるために食べる」ことである。
実際のところ秋から冬は、「うまいもの」が連打してくるのでたまらない。
サンマが来て、サバが来て、これからはブリにカキ。
野菜も大根やらカブが出て、さらに粕汁、すぐきも来る。
ぼくは季節は夏が好きだが、食べ物は圧倒的に冬がいいのである。
昨日も商店街を歩いていたら、まずは上賀茂の農家のおばさんが今年もすぐきを売りはじめていた。
早速買って昨日食べたが、まだ漬かりは浅いが、これからこれがだんだんと深くなり、さらにひね漬けになっていくのがたのしいのだ。
そして八百屋へ行ったら酒粕がある。
これを見た瞬間に、「晩のメニューは粕汁」と決まったのである。
酒粕は、あまりきつく絞られていないのが好まれる。
ぼくがお世話になっている八百屋も、以前は神酒の酒粕を仕入れていたが、「絞りがきつくなったので」と今は松竹梅になっている。
別の友人も、やはり「松竹梅がいい」と言っていた。
たしかに松竹梅の酒粕は、包みを開けると「ぷん」と酒のいい香りがするのである。
さて昨日ぼくがつくったのは、「紅鮭の粕汁」である。
ぼくは「紅鮭と豚肉」は、まだ「どちらがいい」と意見はないが、紅鮭と豚肉が、同じ粕汁でも大きく違うものであるのはまちがいない。
豚肉の粕汁は、友人に教えてもらった作り方は、
「まず吸物のだしをつくり、そこに酒粕をいれる」
というものだ。
人によってはみそを入れることもあるようだが、いずれにせよ、「汁に十分味つけする」という意味である。
ところが紅鮭は塩気があるから、同じようには作れない。
紅鮭の塩気の分、汁の塩気を控えておかないといけないのだ。
これがまた、いいのである。
まず紅鮭をかじると、やや塩辛い味がする。
この塩辛さが、塩気がうすめの、酒粕のほっこりとしたうまみのある汁を飲むことで、ふんわりと癒やされるのだ。
紅鮭の粕汁は、豚肉の粕汁とはただ「味が違う」というだけでなく、「食べる体験」の質そのものが違うのである。
紅鮭は、昨日はあらを使ったが、あらでなくてもかまわない。
野菜も昨日は、八百屋のご主人にすすめられ海老芋をいれたのだが、何でも自分が好きなものをいれればいいという話である。
というわけで、紅鮭の粕汁をつくるのだが、紅鮭は、熱湯をサッとかけるようにする。
これは紅鮭の臭みと塩気をぬくためだ。
ただこれは、あまり念入りにやってしまうと塩気がぬけ過ぎることになる。
紅鮭は塩気があるのが身上だから、塩漬けされて大して臭みがあるわけでもなし、熱湯は、あくまで「サッ」とかけるがおすすめだ。
それから次にだしを取る。
昨日は3カップ半の水に、だし昆布の切れっ端とかつお節のミニパック3袋をいれ、中火にかけて沸いてきたら弱火にし、アクをとりながら5分ほど煮る。
このだしに、まずは何も味つけしないで、紅鮭と野菜、油揚げを煮る。
紅鮭はひと口大に切っておく。
野菜は昨日は、短冊の大根、ニンジン、輪切りの海老芋。
油揚げも短冊に切る。
煮ているあいだに別の器に煮汁をとり、酒粕をふやかしておく。
酒粕には塩気がないから、どのくらい入れてもいいわけで、たくさん入れれば入れるだけ「濃厚」になるのである。
5分ほど煮て紅鮭の塩気が出てきたころに、塩とうすくち醤油で味つけする。
味はあくまで「うすく」つけるのが最大のポイントで、紅鮭の塩気にもよるけれど、塩はほんのひとつまみ、うすくち醤油は小さじ1ほど。
味つけしたら、ふやかしておいた酒粕を入れる。
さらに5分ほど、野菜がやわらかくなるまで煮れば、紅鮭の粕汁の出来あがりである。
昨日は青ねぎをたっぷり振った。
粕汁はほんとうに、体が芯から暖まるのである。
それからこれは、粕汁には関係ないが、紅鮭のあらを使った場合は、鼻筋の部分がうまい。
「ひず」と呼ばれる軟骨で、檀一雄はこの部分だけを生のままうすく切り、酢漬けにして食べると書いている。
昨日その他つくったのは、まずはだし殻と野菜の皮のじゃこ炒め。
大根も海老芋も皮を厚くむくし、大根の葉もあったから、野菜の余りは本体よりむしろ量があるくらいだった。
海老芋の皮も表面の茶色いところをそぎ取れば、同じように入れられる。
だし殻も野菜の皮も細くきざんで、ゴマ油とちりめんじゃこ、輪切り唐辛子でじっくり炒め、酒としょうゆで味つけすると、余りものとは思えない味になるのである。
あとは冷奴。
しょうが醤油をかける。
長芋の千切り。
卵の黄身に、わさび醤油。
粕汁には、やはり酒は、燗酒だ。
昨日もやはり、飲み過ぎてしまったのである。
「京都はうまいものがたくさんあるね。」
ほんとにそうなんだよな。
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コメント
私も昨日は粕汁でした
なんたる偶然!
私は専ら鮭派なので
昨日も塩鮭のかまで作りました
私は福島県ですが、会津は
酒蔵が多いこともあり、よく
食べる習慣があるそうです。
私も会津の酒蔵の粕を使いました
私の場合、鮭から出汁がでるので
あえて出汁は使わず、
一時間くらい鮭を弱く煮ます。
塩鮭なので、あとは粕を入れれば
ちょうどよい塩気で
鮭の味が全体に広がります
余談ですが会津では
野菜のみに、厚揚げを入れるそうです。
良質な蛋白質ですし、
暖まりそうですし、利にかなってますよね