魚屋でブリあら、八百屋で聖護院大根を買い、ブリ大根。
ブリ大根を作るのは、楽しいのである。
魚屋へ行き、奥の調理場をのぞいてみると、若大将がでっかいブリを捌いている。
ぼくと目が合うと、
「ブリあら、出ますよ!」
ニコリと笑うわけである。
もう何年か通っているから、大将は、ぼくがブリあらに目がないのをよく知っている。
捌きたてのブリあらから、脂の乗った、いいところを選りすぐり、スーパーなどのより一回り大きなトレイに、ガッツリと詰めてくれる。
これで、たった330円。
「信じられない」とはこのことだ。
となれば、メニューは決まりだ。
ブリ大根。
八百屋では、聖護院大根を買う。
ブリ大根には、聖護院大根を使うのが最高だ。
聖護院大根は、普通の大根より煮くずれしにくい。それなのに、口に入れると「溶けるか」と思うほどやわらかい。
聖護院大根は、いまが出はじめ。いよいよ冬が、本格的にやって来る。
ブリ大根を作るのは、とても楽しい。料理は何でも楽しいが、ブリ大根は、特に楽しい。
理由はまず、「作り方がシンプル」なこと。
大根は、下ゆで不要。皮もむかずにそのまま使う。
ブリあらと大根を、ドカドカと鍋に入れ、だしを張ったら、あとは煮るだけ。ストレートなところがいい。
おまけに「ワイルド」。
たっぷりの煮汁を強い火で、40~50分かけて、一気に煮詰める。
ガス代をけちっている場合ではないのである。
「これでもか」と火を強めていくと、そのあげく、おいしいブリ大根が出来上がる。
この「シンプル&ワイルド」な料理法、世界にあまり類がないのではないだろうか。「煮る」といえば、「コトコト」やるのが普通だろう。
「自炊隊」を見ていても、ブリ大根を作るのは男性ばかり。
「おふくろの味」のイメージがあるブリ大根だが、実は男っぽい料理なのだと思う。
ブリあらを使うには、湯通しだけは必要だ。
鍋に湯を沸かしたら火を止めて、ブリあらを「しゃぶしゃぶ」とする。
アクのでた湯は捨て、水洗いして皮のぬめりや血の塊をよく落とす。
改めて、鍋に10センチ長さくらいのだし昆布を敷き、まず大根を入れる。
大根は、皮を付けたまま、聖護院大根なら2センチ厚さくらいのいちょう切り、長い大根なら大きめの乱切りにする。
上に洗ったブリあらを並べ、
- 酒 1カップ
- 水 3カップくらい(ひたひたになる程度)
- 砂糖 大さじ5
- みりん 大さじ5
を入れて、強火にかける。
煮立ってきたら中火にし、出てきたアクをさっと取る。
落としブタをし、煮立ちはじめてから20分煮る。
20分煮たら、しょうゆ・大さじ4を入れ、落としブタをしてさらに20分煮る。
煮汁の泡が、落しブタの周りまで、常に上がっているよう、火加減を調整する。
初めは中火くらいだが、煮汁が減るにつれ、火を強くしていくことになる。
最後には、「ほとんど強火」になっているはずだと思う。
20分煮て、煮汁がはじめの3分の1くらいになったら、しょうゆ・大さじ1を加え、ひと煮立ちさせて火を止める。
フタをしてゆっくり冷ませば、その間に味がしみていく。
皿に盛り、煮汁をかけて、青ねぎを散らす。
ブリはとろとろ。大根も、やわらかく味がしみている。
あとは、白めし。
とろろ昆布の吸物。
一味ポン酢の冷奴。
酒は、熱燗。
「ブリ大根に熱燗」は、「おでんに熱燗」に匹敵する相性のよさである。
「女性もブリ大根は作ると思うよ。」
そうだよな。
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