あっさりしたものが食べたかったから、カラスガレイの煮付けを肴にした。
煮付けはうすめに仕上げると、酒に合うのである。
2~3日昼夜とつづけてご飯を食べると、ふたたびあまり腹が減らなくなり、やはり人間の体は足りないものが食べたくなるのだと改めて思うのだが、それできのうは魚、カラスガレイを煮付けにした。
魚を手軽に食べるのなら「塩焼き」という手もあり、決して塩焼きが嫌いなわけではないのだけれど、多くの魚、特に青魚などの塩焼きは冷めると急激に臭みが出てきてまずくなる。酒を飲むときには肴はできるだけチビチビと食べたいから、「だったら煮付けにしよう」と思うのだ。
それに煮付けは、そのときそのときの気分によって、味を自在に決める楽しみがある。簡単な料理だけれど奥が深く、調味料の配分でいかようにも味を変えられるのがおもしろい。
煮付けはいわば、「墨絵」みたいなものだ。墨絵が墨の濃淡だけですべてを表現するのとおなじく、煮付けは味の濃いうすいで無限のちがいをつくりだす。
砂糖としょうゆを合わせて使うと、甘みと塩気が相殺し合い、甘すぎたり塩辛すぎたりすることなく、いくらでも入れることができる。少しずつ入れればアッサリとしたうす味の煮物になるし、たくさん使えばコッテリとして、焼き鳥のタレのようになる。
このアッサリとコッテリのあいだのどの地点を選ぶかで、味わいは全く変わってくるわけである。
以前は「照り」がつくほどコッテリさせるのが好きだったけれども、最近はうすめに仕上げるのに凝っている。これはよく行く飲み屋「酒房京子」の女将京子さんの影響で、その方が「おしゃれ」な感じがするからだ。それにうすめのほうが、酒に合う。
ただしこれはあくまで「好み」だけの問題だ。
ご飯のおかずにしたいのなら、濃いめの味にしたらいい。
煮付けをつくる場合には、しょうゆは遅らせて入れるのがいい。砂糖と一緒にしょうゆを入れると、しょうゆばかりが先に入って塩辛くなりがちだからだ。それにしょうゆはあまり長く煮てしまうと風味が飛ぶということもある。
極端な話をすれば、しょうゆは煮終わる直前に入れるのでもいい。
あとは煮汁に浸しながら冷ませば、しょうゆは入っていくのである。
さて鍋に5センチ角くらいのだし昆布を敷き、カラスガレイとささがきにして水にさらしたゴボウを入れる。
水1カップ、酒とみりん、砂糖をそれぞれ大さじ2ずつだけを入れて強火にかける。
煮立ってきたら中火にし、出てきたアクをサッと取る。
アクを取っているあいだに2~3分が経つだろうから、そうしたらしょうゆ大さじ1を入れ、落としブタをして煮付けていく。
落としブタのところまで煮汁の泡が上がってくるよう、火加減は強めの中火ていどを保つ。
10分煮たら、しょうゆ大さじ1を入れ、ひと煮立ちさせて火を止める。
スプーンで煮汁をカレイの上から2~3回かけたのち、フタをしてそのまま冷ます。
カレイとゴボウ、それにだし昆布も皿に盛り、煮汁をかける。
やわらかなカラスガレイは、まさに煮付けのための魚である。
あとはとろろ昆布の吸物。
酢の物の残り。
ナスの塩もみショウガぽん酢。
おばさんの古漬。
酒は冷や酒。
きのうも酔い、ツイッターでクダを巻いたわけである。
「煮付けを食べると、日本人でよかったと思うよね。」
ほんとだな。
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