魚の煮付は、味の濃さを考えるのが楽しみだ。
カラスガレイと豆腐の場合には、薄めの味でコトコトやるのがいいのである。
「日本人が味を左脳で感じるのではないか」ということについては前に書いたけれども、煮魚はその日本人的味覚の代表料理であると思える。大雑把に言えば、砂糖としょうゆだけの味付で、「無限」とも言いたくなる世界を表現するのである。
これはちょうど、「墨絵」に似たところがあるだろう。墨絵も、墨の濃淡だけで、森羅万象を表現する。
煮魚の場合、墨絵の「濃淡」に相当するのは、まさに味が「濃いか薄いか」、砂糖としょうゆを、両方ともたくさん入れるか、それともあまり入れないかになる。
砂糖としょうゆを両方入れると、しょうゆの塩辛さを砂糖が打ち消すことになる。そこで砂糖としょうゆの割合を一定に保てば、砂糖としょうゆをたくさん入れても、少ししか入れなくても、「塩辛さ」は同じになる。
砂糖としょうゆをたくさん入れたものの極が、「てりやき」のタレのような、ドロリとしたこってりした状態で、少しだけ入れたものの極が、「吸物」のような薄味のだしだ。
この両極のあいだに、砂糖としょうゆの量を変えることにより、無限の味が存在する。
その中の、どの味を選ぶかが、日本料理の味付だということもできるだろう。
煮魚は、たとえばブリやサバ、イワシなど青魚の場合なら、コッテリと煮るのがいい。青魚は臭みが出やすく、コッテリとした煮汁はそれを打ち消す働きがあるからだ。
それに対して白身の魚は、薄いめの味で煮るのもいい。
その加減を、使う魚や、一緒に炊き合わせるものに応じて考えるのが、「煮魚の楽しみ」なのである。
きのうは冷凍保存してあったカラスガレイを、豆腐と煮付けることにした。
やわらかなカレイと、やはりやわらかな豆腐とは、名コンビと言えるだろう。
これを、思い切り薄めのだしで煮ることにする。
薄いだしを含んだカレイと豆腐は、いかにもうまそうではないか。
鍋にだし昆布を敷き、カラスガレイと、カレイと同じくらいの高さに切った豆腐をならべる。
鍋は、きのうは直径20センチくらいの小さめのフライパンを使った。
ここに水を、カレイと豆腐がちょうど浸るくらいに入れる。豆腐は煮立てるとスが入るから、たっぷりのだしでコトコト煮る必要があるのである。
入れた水が1.5カップなら、酒とみりんを大さじ2ずつ、砂糖はやや少なめの大さじ1を入れ、中火にかける。煮立ったら弱火にし、アクを取りながら2~3分煮る。
しょうゆ大さじ1を入れ、弱火のまま、落としブタをして10分煮る。
さらにしょうゆ大さじ1を入れ、ひと煮立ちさせて火を止めて、フタをして30分くらい置き、味をしみさせる。
好みで一味を振ってもいい。
味がしみたやわらかな豆腐は、「たまらない」わけである。
「煮魚は時間もかからないしね。」
そうなんだよ。
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