きのう食べたのは、大根と鶏の白煮。
大根を白く煮るのはオシャレである。
献立は、食べたいものが、たとえば「カレー!」のように、ズバンと一撃のもとに決まることもあるけれど、だいたいは、冷蔵庫に入っているものやお店に並んでいるものをみて、「何を作ろうか」と考える。
きのうは大根があったから、これを使いたかった。
大根も、並の大根ではない。京都名物「聖護院大根」だ。
府外の人が買おうとおもうと、かなりの値がするこの聖護院大根、京都の街の八百屋へ行けば、ふつうの大根とたいして変わらない値段で売っている。
聖護院大根は、煮ると最高にうまい。煮くずれしにくく、形よく仕上がるのに、口に入れると「ショワーッ」と溶けるかと思うほどにやわらかい。
京都は山にかこまれているから、魚の鮮度は、それは海沿いの地域に敵わないが、野菜については、ほかのどこにもない、スゴイものがたくさんある。
「大根を煮る」といえば、まずはうす味の「おでん」が筆頭に上がるだろう。
でもこれは、もう何度もやっている。
動物は、たとえばパンダが笹の葉ばかり食べるように、おなじものを食べつづけても不満はないみたいだが、人間はそういうわけにはいかない。
ちがうものを食べないと、すぐに飽きる。
だから毎日、「何を食べようか」を考えなければいけないわけで、これは人間の宿命だ。
そこで大根を、八丁味噌で煮ようかとおもった。八丁味噌の味噌おでんも、もっともうまいものの一つである。
八丁味噌は、ぼくはいつも冷蔵庫に常備している。
しかしいざ料理を作りはじめようとするその前に、「自炊隊」を見たのである。
自炊隊に投稿される料理写真は、それぞれの創意工夫の跡がみられて、かなりの刺激になる。
いやこれは、本当におもしろいから、もしまだ登録していない人は、ぜひ登録をおすすめする。
それでその自炊隊をみていたら、お雑煮を白いものは白く、赤いものはまっ赤に、彩りあざやかに煮上げている人がいた。
するとぼくも、大根を白く煮たくなるのである。
白いものを白く煮るのは、たぶん関西の文化だろう。
時々いく「酒房京子」でも、出てくるおでんは、大根がまっ白に煮られている。
しかもこのまっ白な大根が、初めはねずみ色のコンニャクに隠されている。
コンニャクをどけると、まるでお月様が雲間からあらわれるかのように、まん丸な顔をあらわすわけで、いかにも洒落ているのである。
その真似事を、ぼくもしてみたくなったというわけだ。
大根は、鶏肉と煮るつもりにし、手羽元を買ってあった。
肉ならば、削りぶしやしょうゆを全く使わず、塩だけの味付けにしてもおいしいから、白く煮るには好都合だ。
ただし塩だけだと、やはり味が足りない。
外国なら、ニンニクやローリエを入れるわけだが、和風でやりたかったから、昆布のだしを強くきかせ、ショウガを入れることにした。
まずはだしを取る。
4カップ半の水に、15センチ長さくらい、たっぷりのだし昆布を入れ、火にかける。
鍋底に泡がついてくる頃になったら弱火にし、10分~20分、煮立てないようにしながらゆっくり煮出す。
こうしてゆっくり煮出すと、時間はかかるが、だしの味はビックリするほどおいしくなるのである。
だしをとっている間に、2センチ厚さくらいに切った大根を下ゆでする。
ちなみに大根の皮は、よっぽど汚れていれば別として、剥かなくても問題ない。
米のとぎ汁があれば、それを使ったほうが、大根は白く、あまく、やわらかくなる。
竹串がスッと刺さるまでゆでて、とぎ汁を使った場合は水で洗う。
手羽元も、湯通ししておく。
水を煮立てて火を止めて、手羽元をしゃぶしゃぶとしたら、湯を捨てる。
昆布だしが、ぷんと昆布の風味がしてきたら、大根と手羽元、それに2センチ大くらいのうす切りにしたショウガをいれる。
20~30分、煮立てないようにしながら煮て、鶏のだしをとる。
鶏の味がしっかりとしてきたら、酒・大さじ4、みりん・大さじ1をいれ、さらに味をみながら塩をいれる。
あとは煮立てないようにしながら火にかけておけば、味がしみるわけである。
あとは鍋をテーブルへ持ちだして、大根に味がしみるのを待ちながら酒を飲む。
待つあいだにつまむ肴を用意しておくのがおすすめだ。
セロリの酢の物。
ピーラーで筋をむき、うすく切って塩もみし、しばらくおいて水洗いしたセロリを、わかめ、竹輪とあわせ、ちりめんじゃこ、砂糖・小さじ3、酢・大さじ3、塩少々であえる。
だし殻やらセロリの葉やらのじゃこ炒め。
ゴマ油にちりめんじゃこと輪切り唐辛子で、だし殻やら大根やセロリの茎や葉やらをじっくり炒め、酒、みりん、淡口しょうゆそれぞれ大さじ1で味をつけ、汁気が完全になくなるまでさらに炒める。
酒を飲んでいるあいだに、そろそろ大根に味がしみてくる。
小口に切った青ねぎと、ひねりつぶしたゴマをかける。
白くは見えるが、大根にはしっかり味が入っている。
ほっくりとやわらかく、冬の食べ物としては抜群だ。
さらにこれは、ご飯にかけて食べてもうまい。
写真では汁だけになっているが、大根や鶏ものせるのがおすすめだ。
酒は、熱燗。
こう肴がうまいと、飲み過ぎてしまうのも仕方がないのである。
「京都はさすが都だね。」
ほんとにな。
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