大晦日、夜中にラーメン屋をさがし、ようやく四条堀川にあいている店が一軒あった。
「どうなのか」とおもったのだが、どうしてどうして、この麺家「熱豚」、じつにセンスがいい店だったのである。
正月の支度をするのは、けっきょく大晦日になったのである。
大掃除も、しようとおもっていたのが結局できず、いつもの掃除に毛がはえた程度のものになった。
だいたい寒くて寒くて、きびきび働く気にならないのだ。
「大掃除は、油汚れがおとしやすい、暖かい夏にしよう、、、」
そうおもいはしたものの、夏は夏で暑いから、やらないに決まっている。
正月料理は、6品つくった。朝から仕込みはじめたが、これも酒をのみながらダラダラやるから、つくり終わったのは夜の10時。
「晩飯をどうしよう、、、」
と、かんがえる。
いちおうは、ブリみぞれ鍋の材料を用意してはあったのだが、これから風呂も入らないといけないし、かんがえてみたら明日元旦は、昼からごちそうを食べないといけないから、前の晩にあまりガッツリ食べてしまわないほうがいい。
それで風呂屋の帰りに、さっくりとラーメンを食べることにした。
風呂屋のちかくに、近所では一番うまい、「香来」があるのである。
風呂に入って、当然ビール。
紅白歌合戦も、ちょうど最後を見ることができた。
紅白を見おわって、風呂屋をでて「香来」にむかう。外は寒いが、体はあたたまっているからだいじょうぶ。
ところが、「香来」の前までくると、、、いつもは煌々とついている電気が消えている。
「休み、、、」
である。
大晦日にラーメン屋が休むとは、かんがえてもみなかった。出歩く人も多いだろうし、「年越しそばはラーメンで」と、ぼくのようにかんがえる人も、少なくはないだろう。
しかし休みなものは仕方がない。
気をとり直し、後院通を南へいく。
「餃子の王将ならやっているはずだ、、、」
ところが四条大宮にある「餃子の王将1号店」へついてみると、やはり電気がついていない。
「まさかの、休み、、、」
大晦日に餃子の王将が休むなど、想像してもみなかったぼくは、「頼りにしていたのに」と、とても裏切られた気持ちになったのだから、勝手なものだ。
餃子の王将までが休みとなると、ほかの店がやっている可能性は、とても低い。
しかしもう、どうあってもラーメンを食べずには、気がすまなくなっていた。
「中国人がやっている店なら、大晦日は関係ないから、やっているかも、、、」
そうかんがえ、四条通を西へいき、「担々麺がうまい」ときいた、中国料理屋「千龍」へむかった。
ところが千龍も、休み。その先にある「ラーメンガッツン」も、もちろん休み。
「もうラーメンなら何でもいい、、、」
そうおもい、あまりうまくないラーメン屋をのぞいてみるが、やはり休みでバカにされた気持ちになる。
壬生寺の除夜の鐘がきこえてくる。
元祇園梛神社には、初詣のお客があつまっている。
「もう、初詣をしてもいいのか、、、」
そうはおもうが、まだ年越しそばを食べていないのだから、初詣をするわけにはいかないのである。
きつい冷え込みで、あたたまっていた体は冷えてくる。
しかしこうなったら、もう意地だ。
四条通を引きかえし、今度は四条大宮を東へ行ってみることにした。
堀川通をわたり、中華処「楊」は休み。その先の「麺対軒」も休み。
しかし、そのとき、、、
四条通の反対側に、ラーメン屋が煌々と明かりをつけているのを見つけたのである。
麺家「熱豚」。「熱豚」とかいて「ZETTON」とよむようだ。
店がまえは、最近の新手の店によくある軽薄なつくりで、あまり好みとはいえない。
しかし、
「この際、ラーメンなら何でもいい」
とおもっていたのだ。
それに、
「本日朝7時まで営業中」
と貼り紙がしてあるのは、お客の気持ちをじつによくわかっている。
入ってみることにしたのは、いうまでもないことだ。
店に入って、まず酎ハイ。
いまどきのラーメン屋は、ラーメンに凝りすぎるあまり、酒は缶ビールくらいしか置いていないところも多いが、ビールにくわえ、酎ハイまであるのは、ありがたい。
さらに酒のツマミも、あれこれとそろっている。
最近のラーメン屋は、ツマミをたのもうにも何もないところが少なくなく、「ラーメンおたく」にはそれでいいだろうが、おっさんには物足りない。
「煮込み牛すじ」をたのんでみた。
トロトロに煮込まれた牛すじが、300円とはとてもおもえないくらいの量、入っている。
酒をのんでいるうちに、6名の団体客が入ってきた。
やはり大晦日は、深夜でも、こうしてお客がくるのである。
メニューを見ながら、どのラーメンを頼もうかをかんがえた。
ラーメンは、
- がら豚らーめん
- 特製ZETTONらーめん
- 絶品塩テールらーめん
- 熱豚のつけ麺
の4種類。
はじめの2つが、鶏ガラと豚骨をあわせた、この店のメインのスープになるようだ。
チャーシューも自慢のようだから、
「特製ZETTONらーめん」をたのむことにした。
あと決めないといけないのは、味付だ。
味付は、
- 塩
- 醤油
- 濃厚魚介
の3種類がある。
このうち「塩」と「濃厚魚介」は最近の流行で、ほかの店でも何度も食べたことがあるから、味もだいたい想像できる。
しかし「醤油」は、
「どんな味だろう」
とおもった。
濃厚魚介だしは、本来、醤油味だと、肉だけのスープでは味が物足りなくなるから、それを補うためにいれるものだ。
昔ながらのラーメンは、「味の素」をつかっていたのが、それが30年くらい前から、魚介だしにとって変わった。
まさか今どきのラーメンで、味の素をつかうことはないだろう。
「何か工夫があるにちがいない、、、」
そうおもい、味付は「醤油」にしてみることにした。
酎ハイをお代わりし、注文すると、しばし待つうちに特製ZETTONらーめんがでてきた。
早速食べはじめる。
まずチャーシューは、自慢だけあって大変うまい。
やわらかく煮えているが、「プリプリ」の食べごたえ。
煮玉子がトロトロなのはいうまでもないとして、さらにメンマもうまい。
これまで食べたことがないほど、やわらかく仕上がっている。
麺は、広島のラーメンによくあるタイプの、中細の「低加水」。
ゴワッとした、硬い食べごたえで、これもいい。
さてスープなのだが、これには、うなった。
醤油味のはずだが、やや黄色い色をしている。
たぶん、隠し味として、「カレー系」のスパイスが加えられているのだろう。
「店主は、料理をわかっている、、、」
ぼくは、そうおもった。
醤油の味を、豚肉のスープにあわせた際の物足りなさをおぎなうのに、日本の場合、
- 味の素
- 魚介だし
- 唐辛子(担々麺)
- 酢(酸辣湯、タイなどのラーメン)
が、おもに使われる。
ところがこれが、中国では、「八角」などのスパイスが使われる。
香りのつよいスパイスも、醤油と豚のスープを強力にあわせる作用があるのである。
ただし日本では、八角の香りは好まれないから、めったに使われることはない。
それを、ここの店主は、日本人にとってよりなじみがある、「カレー系」のスパイスを使ったということだろう。
もちろんスパイスは、あくまで隠し味程度になっていて、「カレーラーメン」にはなっていない。
これは本当に、「センス」がある。
ラーメンについて、日本以外の味も幅ひろくわかっていて、さらにそれを、日本流にアレンジまでしているのである。
店主は40代くらい、物腰のやわらかい男性で、前歴は詳しくきかなかったが、「大阪で修行した」といっていた。
スープはもちろん、チャーシューやメンマ、麺をみても、料理についてかなりの知識とこだわりをもつ人だと、ぼくは見た。
ラーメンを食べおわり、とても満足して、店をでた。
外は寒いが、体はふたたびあたたまっている。
「ラーメン屋をさがし、あれだけ歩きまわった甲斐があった、、、」
ぼくはおもった。
麺家「熱豚」は、まだオープンして2ヶ月くらいなのだそうだが、
「太鼓判を押しておすすめ」
だ。
「ラーメンにはうるさいね。」
そうなんだよな。
◎食べログ
麺家「熱豚(ZETTON)」
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