昨日は土曜日、土曜日はこのところ、ぼくは「昼はビール、夜は外飲み」と決めているのである。
本当は、毎日朝から酒が飲みたいところではある。
「小原庄助」さんのような生活は、もし金がいくらでもあるならば、ぼくは理想とするところなのだ。
しかし大変残念ながら、それは事情が許さないので、週に一度でガマンしているのである。
実際のところ、朝や昼から飲む酒はうまいと思う。
これは「背徳感」と関係があるだろう。
酒を飲むのは、社会的にはまったく意味のないことである。
それをまっ昼間からするという、意味のなさ加減の大きさが、逆に酒をおいしく感じさせるのだ。
一週間、ガマンにガマンを重ねた末、ようやく飲む昼酒だから、このうまさはまた格別だ。
酒が五臓六腑にしみわたっていくのである。
しばし待つうちに、餃子が焼き上がってくる。
一口目をほおばると、毎回のことながら、涙が出そうになるほどの幸せ感に襲われるのだ。
ビールと餃子はお代わりし、最後は大盛りラーメン麺かため、ネギ多め。
いつも必ず、これでノックアウトされることになる。
家に帰り、2~3時間昼寝する。
以上がぼくの、毎週土曜の儀式である。
夜は外飲み。
ここ最近は、まず「スピナーズ」、それから「立ち飲みてら」というのがパターンであった。
でも昨日は年末で、ことによっては年内最後の外飲みになるかもしれぬ。
「これはあいさつ回りをしないといかん・・・」
ぼくは思い立ったのだ。
飲み屋にはらう飲み代は、「月謝」のようなものである。
店主が飲み屋をがんばって続けていてくれるから、客は酒の飲み方を学び、出会いを広げることができる。
だから飲み屋の店主には、節目節目で「感謝の気持ち」をきちんと伝える必要がある。
これは「礼儀」の問題で、金が乏しいからといって欠かしてはいけないのだ。
あいさつをしないといけない飲み屋を数え上げてみると、5~6軒にはなる。
これを限られた時間のなかで、金も使いすぎることなく、さらに翌日に残るほど飲んでしまわずに、回ってしまわないといけない。
そこで各店、「お酒一杯、つまみ一品」だけを頼むことにした。
四条大宮の飲み屋はどこも、チャージがないし、お酒もつまみも安いから、ハメを外してしまうことさえなければ、無事に回れるはずである。
というわけで、まずは現在のところ最もお世話になっている「スピナーズ」。
ぼくはこの店で、「飲み友達」といえる人を京都で初めて見つけたのだ。
料理は「蒸しどりのネギソース」。
エスニック風の味つけで、これも大変うまかった。
スピナーズへは最後にまた立ち寄ることとして、ぼくはビール一杯を飲んで店を出た。
次に向かった先は、地中海風バル「ピッコロジャルディーノ」。
ぼくはこの店の「常連」とは言えないけれど、マスターが好きなのだ。
つまみに頼んだピクルスもうまかった。
ところがピッコロで飲んでいるうち、想定外のことが起きたのである。
マスターに、最近新しくできた立ち飲み屋のことを聞いたのだ。
「めちゃくちゃ安くて、しかもうまい」とのことで、以前から噂に聞き、「一度行ってみないといけない」と思っていたぼくは、「今日」行きたくなってしまった。
まわる店を一軒増やしてしまうと、無事に帰れなくなる可能性が高まるわけだが、行きたくなってしまったものは仕方がない、ぼくはその立ち飲み屋へ次に向かうことにした。
さて「立ち飲み屋」だが、「庶民」という名前である。
四条大宮のロータリーについ最近になってオープンした。
この店の、まず「営業時間」が何ともすごい。
午前11時から午後11時までで、「昼酒天国」なのである。
酒は酎ハイをたのんでみた。
200円。
焼酎は何でも200円、日本酒も、白鶴なら200円で、ウイスキーはブラックニッカ250円。
メニューを見て、思わず、
「やす・・・」
ぼくは絶句した。
料理も安い。
150円から500円で、昨日たのんでみたのは、その中でも高い部類の「本マグロのお造り」400円。
近海モノの本マグロだそうで、手前の二切れはほとんど「中トロ」だ。
味もよく、ちょっとした店なら1000円は取るだろうという品である。
店主は若く、まだ40は行っていないのではないか。
大阪のほうの寿司屋で修行したそうで、魚の目利きや料理の腕はたしかなようだ。
四条大宮でときどき顔を合わせる常連さんも飲みに来ていて、たまたま隣り合わせて話をした。
常連さんも、
「価格破壊ですよね・・・」
呆気にとられた顔をしていた。
常連さんとは少し話が盛り上がり、酒もつまみも安いから、
「もう一杯飲んでいこうか・・・」
決心が一瞬ゆらいだ。
しかし、
「いやいや、先は長いから・・・」
何とか思い直して、次へ向かうことにしたのである。
次に行ったのは、最近になってちょくちょく通うようになっている「立ち飲みてら」。
ここは料理がうまく、しかも安いことはまずあるが、常連さんの話を聞くのもたのしいのである。
たのんだのは、腹にたまるものが食べたかったから、ここでは二品。
スパサラと、鶏天おろしポン酢とした。
常連さんと少し話し、あいさつをして次に向かう。
向かった先は、「酒房京子」。
最近ちょっとご無沙汰だったが、やはり大事な店なのだ。
京子さんの方でも、ぼくへの挨拶品を用意してくれていたから、
「来てよかった・・・」
やはり礼儀は欠かしてはダメだと改めて思ったのである。
京子さんが出してくれたのは、まずハマグリの白みそ汁。
だしはたっぷりの昆布で取られ、大変うまい。
それから「子」とフキの炊合せ。
「子」は何の子だか、京子さんもよく分からないようだったのだが、京都では正月に食べるものの一つなのだそうだ。
京子さんと、あれこれ近況報告をしたあと、次に向かったのはダイニングバー「Kaju」。
この店は、ぼくにとっては「本籍地」のようなものである。
一番最初になじみになった店だから、他の店へいろいろ行っても、「心のふるさと」はここになる。
マスターも、ぼくが京都へ来て以来のことを知っているから、今でもときどき相談にも乗ってもらう。
Kajuで食べたのは、自家製キムチ。
フルーツもあれこれ入り、辛味がさわやかでうまいのである。
本当はもう一軒、「まわろうか」と思う店があったのだが、昨日はもう時間も遅くなったし、酒も十分飲んでいたから、スピナーズへ戻ることにした。
ここでも少し話をし、焼酎を一杯飲んで、無事、ほどよい時間に家に帰った。
家でさらに一杯、焼酎のお湯割りを飲みながら、ぼくは思った。
「四条大宮の飲み屋で出会う人たちは、一人暮らしのぼくにとっては『家族』のようなものなんだよな・・・」
焼酎を飲み終わったぼくは布団に入り、出会ったたくさんの人の顔を思い浮かべながら、眠りについた。
「家族は大事にしなくちゃね。」
ほんとだよな。
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コメント
高野さん、金がなくても礼儀をかくなを、受けとめました。昨日、今日は、お世話になっている飲み屋さん回りです。今回は、四条大宮に行けませんでしたが、ツィッターでお話ができて、嬉しかったです。よいお年をお迎えください。世田谷豚ねこ(小野)