京都大宮で、「スピナーズ」「壺味」など4軒をまわった。
一人暮らしはシェアハウスなどでなく、大宮のもっと安いマンションに住み、浮いたお金を飲み屋で飲むのに使ったらいいのである。
きのうは大宮で飲むことにした。
まずは家から一番近い、「スピナーズ」で一杯。
カウンターは、常連さんで満員だったから、カウンターの端に立つ。京都へ来て、立飲み屋の楽しさを知ったおかげで、立って飲むのは全く苦ではなくなっている。
スピナーズの常連さんは、もうほぼ全員が顔なじみになっている。20代から60代まで、幅広い年齢層の男女がいて、きのうもその一人一人と、近くにいる人とは言葉をかわし、遠くにいる人には会釈をして挨拶する。
最近、飲みに出る回数が減っているから、久しぶりに会う人もいて、
「どうしてるんですかー?」
などという話にもなる。近況を、軽く報告したりもする。
こうして、何気ない話ができる飲み仲間がいるのはいいものだ。一人暮らしの孤独は、ここでは全く無縁である。
待ち合わせをしていたから、スピナーズでは2杯だけ飲み、次へ向かう。途中で別の店のマスターと、開かれた窓越しに目が合うが、「行けなくてゴメンナサイ」の気持ちを込めて会釈をし、通りすぎる。
向かった先は、たこ焼き「壺味」。
待っているあいだも、もちろん一杯。
食事は相手が来てからとし、とりあえずは軽いツマミ。
「たこキムチ」は、壺味人気メニューの一つである。
壺味は、行き始めてまだそれほど間がないから、常連さんを「全員知っている」わけではない。タイミングによっては、いるお客さんのほとんどを知らないこともある。
しかし壺味は、そうして一人で飲んでいても、決して孤独になることがない。これはまずは、お店の人のふるまい方によるところが大きいと思う。
壺味はもう30年以上になる長い店で、先代のご主人はすでに亡くなり、今は先代の奥さんと、息子さんとでやっている。さらにアルバイトの女性もいるのだが、この3人が3人とも、お客さんに、あまり細かく気を遣わないのだ。
たとえば注文なども、一杯目の飲み物は別として、あとはこちらが言うまで、聞かれることはない。灰皿なども、言えば愛想よく出してくれるが、言うまでは決して出てこない。
料理にしても、たとえばネギ焼きを頼んだら、すぐに作り始めても30分くらいかかるし、前に注文が入っていれば、それをやってからになるから1時間待つこともある。それを「お客さんを待たせるのは悪いから、何とかもっと短くしよう」という考えは、この店にはまるでない。
でもそれが、いいのである。
せかせかしたところがないから、時間がゆっくり流れていき、こちらもゆったりとしてその場に居ることができる。
また壺味がそういう店だから、常連のお客さんも、他のお客さんにあまり気を遣わない。
もし来始めてあまり間もないお客さんが、ぽつんと一人でいたとしても、「話しかけてあげなくちゃ」とは誰も思わず、自分が話したいと思えば話しかけるし、そうでなければ話しかけない。
下手に義務感で話しかけられるより、そうして普通にしてもらった方が、こちらも気楽にそこに居られる。
さらに壺味は、お店が大宮通にむかって大きく開放されているから、通りを通る人が全て見える。他のお店で知り合った人が通れば、挨拶をしたり、場合によってはその人が、中へ入ってきたりする。
この立地条件も、壺味が孤独を感じさせない、大きな理由になっている。
こういう、のんびりとした店は、効率重視の今の世の中、なかなかないのではないだろうか。
それもこれも、先代が礎を築き、その価値観を、二代目が時代を超えて受け継いだからこそ、あり得ることなのだと思う。
というわけで、壺味で呑気に飲んでいるうち、待ち合わせた相手が少し遅れて到着した。
早速料理を注文。まずは「タコ山芋」。
タコが入ったトロロの山芋がやわらかく焼かれ、玉子が貼り付けられていて、ポン酢で食べる。
それに壺味定番メニューのネギ焼き。
山のような九条ねぎを、時間をかけてペシャンコにしたもので、二人で食べてちょうどいい。
食べているうち、マチコちゃんや池井くんがやってきた。
池井くんは隣に座り、あれやこれやと一緒に話した。
壺味の居心地のよさを、ぼくが
「ホーム感が高いよね」
と表現すると、池井くんに、
「いやここは、ぼくのホームですから」
と返された。池井くんは、10年ほど前に大宮へ越して来て、この店に来るようになったことで、大宮の魅力にハマったそうだ。
「一人暮らしの人などは、大宮に住んだらほんとにいいと思いますよ。」
池井くんは言う。そして、
「シェアハウスなどに住むより、もう少し安いところに住んで、その分を大宮で飲むのに充てたらいい」
と続ける。
リビングやキッチン、バス・トイレなどを共用するシェアハウスは、「安い」イメージがあったのだが、今は「一つ屋根に他人がいる」ことが、一人暮らしの人にとって付加価値となり、むしろ普通のワンルームマンションなどより高いそうだ。
京都でも、例えば大宮などなら、バス・トイレ付きのワンルームマンションは、3万円代からあるけれど、シェアハウスだと6万円くらいはするという。
「リビングやキッチンなど、自分が使わないといけないスペースに他人がいれば、その人とどうしたって、話をしないといけないでしょう?これはツライと思うんですよ。」
池井くんは言う。
なるほど確かに、飲み屋なら、行かないこともできるわけだし、行っても話をしないといけないわけではなく、話したくなければ話さないでも、全く何も問題ない。
「今はうまく行っているところが多いですけど、そのうち問題も起こってくると思うんですよ。」
池井くんは建築家だから、そのあたりの事情にも通じているのだろう。
すると待ち合わせた女性が、
「私もそう思うなー。だってシェアハウスって、一人で飲みに行けない人ばかりが集まるわけでしょう?」
相槌を打つ。
なるほど、一人で飲みに行けない人は、内向的であるとは言えるだろう。内向的な人ばかりがいる場所に、ぼくは確かに、あまり行きたくない気がする。
そんな話をしているうちに、閉店時間を過ぎてしまった。
ネギ焼きを平らげると、店を出て池井くんと別れた。
それからは、「京子」でカラオケ。
料理は、鶏ムネ肉とこんにゃくのゴマ和え。
ひろうずとインゲンの煮物。
豚肉ときゅうり漬物のピリ辛炒め。
それにしんじょう。
京子を出たら3時過ぎだったのだが、さらに、マスターが誕生日でまだ盛り上がっていた「en」へ行く。
ワインを3杯飲み、店を出たのは5時だった。
このところ、早めに帰っていたために、久しぶりに見た明け方の大宮。
しかしこれこそ、「正しい飲み方」なのである。
きょうは、起きたら昼の12時。
それから梅干しとトロロ昆布のうどんを食べ・・・、
食べ終わったら、また二度寝。
酒が抜けてきたのは、ようやく夕方。
それからやっと、ブログの更新を始めている。
「遊んでばかりじゃダメだからね。」
そうだよな。
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