京都大宮で3軒をはしごした。
スピナーズは、いつも会話が楽しいのである。
たこ焼き「壺味」へ行ったら、みどちゃんと、みどちゃんのママがいた。
一人暮らしをしている娘の様子をうかがいに出て来たそうだ。
中高年どうしが会うと、まずは年の話になる。みどちゃんママは、ぼくより3つ下だった。
周りのお客さんとも楽しげに話し、初めての京都大宮の夜を満喫しているようである。
みどちゃんも、お母さんと飲めるのがうれしそうだ。店の前を顔見知りが通りがかると、
「私のお母さんです・・・」
いちいち紹介をする。
近くで住めば、親は煙たい存在になりがちだが、遠くにいると、お互いを想う気持ちが増すところもあるのだろう。
「一緒にいたときより、話の中身はむしろ濃くなったんですよ。」
みどちゃんのママは言う。
壺味へは食事をしに行った。頼んだものは、たこキムチ。
それからイカの焼きそば。
壺味の焼きそばは、とてもうまい。太めの丸い麺はシコシコと歯応えがあり、そこにイカと野菜がたっぷりと炒め合わせられている。
ソースにどろソースが加えられ、ピリッとした辛みがあるのもいい。
そのうち田村正和似の男性がやって来た。田村正和似の男性は、大宮ではあちこちの店に出入りするが、壺味はきのうが初めてなのだという。
カウンターに立っていてもお店の人は声をかけてこず、
「注文はどうしたらいいんですかねえ」
と言うから、初めてであることを考えて、ぼくがお店の人に声をかけた。
しかし壺味は、こういうところがいいのである。
下手にお客さんをかまい過ぎることがないから、時間がゆっくりと流れるような、何とも言えないのんびりとした空気がある。
夜が更けるとともに、お客さんが続々と流れてくる。
みどちゃんとママが店を出て、次へ向かったのと入れ替わりに、マチコちゃんと仲間たちもやって来た。壺味は道に人があふれ出すほどの超満員となる。
若い人がくっついたり離れたり、飛び回ったり、道に寝転がったりするのを見ながら飲むのは楽しい。
自分は静かに飲むのが好きだが、周りは騒がしい方が気がまぎれる。
焼きそばを食べ終わり、田村正和似の男性と連れ立って、「スピナーズ」へ向かうことにした。
途中で「ピッコロ・ジャルディーノ」のマスターと、開け放たれている窓越しに目が合ったから、「せっかくだから」とワインを一杯。
田村正和似の男性はこの店にはよく来るから、マスターや店員の若い女性と水を得た魚のように話している。
スピナーズへ着くと、池井くんがいた。
池井くんは、今夜も快調に酔っている。
「ぼくはもう明日になったら、今のことを憶えていないと思うんですよ・・・」
経験によってそれが分かるそうなのだが、そう思ったこと自体、翌日には忘れるそうだ。
「翌日には忘れる」ことを「経験」できるとはどういうことか、ちょっと不思議な感覚だ。
「たった今した握手の意味が、あるのかないのか分かりませんね・・・」
池井くんとは初対面だった田村正和似の男性も、苦笑いしている。
スピナーズのカウンターにはみどちゃんとママもいた。みどちゃんがテーブル席に移ったのと入れ替わり、みどちゃんママの隣りに座って話しをした。
みどちゃんママは同年代で、子供の年も同じようなものだから、感覚的に近いところもあるようだ。
仕事をしていて、20代などの若い人と話す機会も多いそうだ。すると「時代の違い」を感じることも少なくないのだという。
「自分はバブル時代に20代を過ごしたから、何でも自分が思うことを前向きにやってみたらいいと思うんです。でも不景気の時代に生きる今の若い人たちは、それとは全く違う考え方をすると感じて、何とアドバイスしたらいいのか分からなくなります・・・」
それはぼくも感じるところだ。バブルの頃にしていたように何でもとりあえずやってみれば、うまくいく時代ではないことは分かるのだが、自分が「やりたい」と思うことは大事にし、そこに向かって勇気を持って一歩を踏み出したらいいと思う。
「そのことを、ブログを通して少しでも伝えられたらいいと思っているんですけどね・・・」
みどちゃんママに話しをした。
みどちゃんママは、自分では、五十という節目の年を目前に控え、子育てもそろそろ一段落するから、仕事上で「やりたいことをやりたい」という欲が湧き起こっているそうだ。専門職で、3年前にフリーランスになったそうだが、
「ただ依頼された仕事をこなすだけではなく、少しでも自分がやりたいことに近付いていきたいと、試行錯誤しているんですよ・・・」
それはぼくも同じである。
収入を維持しながら仕事内容を替えるのが、簡単ではないことはよく分かっている。
それからしばらくみどちゃんママと、仕事についての話をした。
話し込んでいるうちに、あっという間に3時になり、ぼくは挨拶をして店を出た。
家に帰り、歯も磨かずに布団に入った。
眠りに落ちながら、
「スピナーズはいつも会話が楽しいな・・・」
ぼんやりとぼくは思った。
「きょうもみんなに相手にしてもらえて良かったね。」
ほんとにな。
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