友人にさそわれて大阪へ行き、食事のあと一人で阪町の酒場にはいった。
怪しい店ほど、中にはいるとホッコリするのである。
きのうの昼酒は、おとといの大根煮をうどんにした。
大根煮はうすめの味付けにしてあったから、うどんの汁にちょうどいい。
昼の酒が特別うまいのも、そのあとの昼寝がまた気持ちがいいのも、何度も書いているとおりである。
昼寝から覚め、夜まですこし仕事をした。
夜は大阪で食事をすることになっていた。
友人に「クーポンを安く買ったから」と誘われたからで、久しぶりに電車に乗り、日本橋へ出かけた。
行ったのは道頓堀のはずれにある「つぼみ」。
店主は大手ホテルの和食部門総料理長をつとめたこともあるとのことで、京風懐石料理を手頃な値段でだすそうである。
この手の店は多いから、どう特徴をだすかが考えどころとなるだろう。
オーソドックスな和食の中に、焼物は合鴨を平皿にのせて出してきた。
タレはしょうゆベースだが、ソースのように皿の上に散らしている。
洋風のテイストを取りいれていることが、この店の売りのようだ。
ビールを飲みながら、友人との話もあれこれと花が咲いた。
食事を終わり、友人とはここで別れた。
あとにひとり残ったぼくだが、道をはさんだ向こう側は、「阪町」とよばれる界隈となっている。
ここがいかにもいかがわしい、風俗店のあいだにざっくばらんな飲み屋が立ちならぶ地帯で、心を惹かれたわけである。
風俗店がならぶような地帯には、初心者はあまり入ってこないだろう。
風俗店へいく人は別として、飲みに行くなら、もっとまともな場所へ行こうとするはずである。
だから風俗地区にある飲み屋は、クセの強い店が多い。
「こんな店が成り立つのか」と、ビックリすることもある。
ぼくが高校から大学にかけ、根城とした新宿なら、それは歌舞伎町である。
1年ほど前、久しぶりに歌舞伎町へ行ったのだが、はずれの方に、ほとんど廃墟かと思うような建物が、細い路地の両側に立ちならぶところを見つけ、それが酒場になっていたから、そのうちの一軒にはいってみた。
一見の客がくることはまずないだろうと思うのだが、店には芸術系の、ちょっと個性的な若者達がたむろしていた。
「自分のクセを好きな人だけくればいい」ということだろう。
「プチ歌舞伎町」の印象もある阪町だが、その一番はずれに、またすごい店があった。
ビニールのシートが張られた、ほぼバラックのような造りである。
店名は、「屋台風居酒屋まいど!」という、ほとんど「投げやり」とも思えるもので、さらに店内でマッサージ店も営業しているようである。
「怪しさ」としてはかなりの上位にランク付けされると思われ、そういう店には入ってみないと気がすまないのが、ぼくの性分なのである。
さて「屋台風居酒屋まいど!」だが、入るとぼくと同年代と思われるマスターと、若い女性客がいた。
中は酒の瓶やら、あれこれのチラシ・ポスターやら、本やら、メニューの短冊やらであふれ返っている。
「ブログをやっているので写真を撮ってもいいですか?」
と聞くと、女性客にブログのタイトルを聞かれた。
「おっさんひとり飯だ」と答えると、
「それ知ってる、料理の検索をしていて見かけたことがある」
と女性客。
四条大宮の飲み屋では、ぼくのブログを見てくれている人と会うことも多いのだが、こんな大阪のはずれの飲み屋で、まさかぼくのブログを知っている人と会うとはビックリなのである。
店内の手前には、飲食店でよく見かけるようなテーブルが3つばかり置かれているが、奥にあるのはまず木製の古い事務机。
椅子も事務椅子である。
さらにこたつ。
人から譲り受けたか、捨てられていたものを拾って来たかしたのだろう。
寒かったから熱燗をたのんだ。
ツマミはおでん。
湯であたためたパックを開けるだけである。
マスターも女性客も、一見のぼくを暖かく迎えてくれる。
ここの区画は、元々はコンテナが3つならび、上とまわりをバラックで覆い、家主としては「プチ屋台村」みたいなところを狙っていたものだそうだ。
その一つに入ったところ、他の2店が店をたたみ、コンテナも撤去され、今では残ったバラックの中で一人、営業することになっているそうだ。
20代~30代の、比較的若い人が常連さんになっているという。
マッサージルームは、そんな常連さんの女性の一人が、「マッサージ店をはじめたいけど金がない」というのを聞いて、マスターが「それならば」と、自分で突貫工事をし、場所を作ったのだそうだ。
きのうはマッサージは定休日だったが、料金も安めに設定され、酒を飲みながら手をマッサージしてもらうなどという乙なことも「アリ」らしい。
営業時間は夜の7時から朝の7時、基本的に年中無休で、マスターが用事があるときだけ休むとか。
「去年は女の尻を追いかけて、2週間のあいだに5日休んでデートをしたら、お客さんやまわりの店にボロクソ言われた」
とマスターは笑っていた。
毎日夜通しの営業だから、お客さんがいないとき、椅子をならべて寛いでいると、つい寝てしまうこともある。
でも「寝ていたら起こしてくれ」と、お客さんには言っているのだそうだ。
それほど繁盛しているわけでもないが、店で余ったものを食べれば食費はまったくかからないし、毎日営業しているから、飲みにも行かない。
「男やもめが生活していこうと思ったら、贅沢さえしなければ、十分やっていけるんですよ・・・」
マスターは話してくれた。
女性客は途中で帰り、マスターと二人きりになったが、話は盛り上がっていた。
他の店を見てみたい気もしなくはなかったのだが、せっかくだから、ここは終電まで、腰を落ち着けることにした。
熱燗をもう一本と、湯豆腐を注文。
湯豆腐は、豆腐と白菜を昆布だしで煮て、ポン酢に青ねぎ、もみじおろしで食べるもの。
終電間際の時間になり、ぼくは「また来ます」と挨拶し、駅へむかった。
駅への道を、マスターはていねい教えてくれた。
「怪しい店ほど、中にはいるとホッコリするね。」
ほんとにそうだよな。
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コメント
毎回、楽しみに拝読しております。この店行ってみたいですね、面白いな~
高野さんがいつか旅に出られたらこんなおもろい店バンバン紹介するんでしょうね~w
高野さんおはようございます
怪しい店って京都にもあるのでしょうかね。大阪には多そうです。高野さんが行かれた店に行ってみたいです。私も職場が大阪ですから、大阪で飲む事も多いです。難波界隈にはほとんど行きませんが西成や天満の立ち呑みには好んで行きます。