京都・千本三条にある居酒屋「かなすとーた」。
ここは、完全なる「隠れ家」だ。
人通りの多い場所にある飲食店は、お客も一見さんが多いから、出す料理やサービスはどうしても一般的なものになる。それはもちろん決して悪いことではなく、仲間で連れ立って飲みに行くなら、好みは人それぞれだから、一般的であることは利点でもあるだろう。
でも一人で飲みに行く場合には、それでは寂しいだけなのだ。やはり何らかの、他人との出会いがほしい。
話をしたり、店主が作ったものを食べたりしながら、人格や個性に触れたいわけだ。
それができる飲食店は、少し寂れた場所にある。寂れた場所は、一見さんはあまり期待できないから、お店もきちんと独自性を打ち出して、お客さんの数は少なくても、くり返し通ってもらえるようにと考える。
そのため寂れた場所にある店は、自然と面白くもなるのである。
きのうは風呂屋でビールを飲み、それから買い物のため三条会商店街を歩いていた。その時ふと、このあたりに以前八百屋のご主人から「開店した」と聞いた居酒屋があるはずだと思い出し、ちょっと覗いてみる気になった。
そこで店を探してみると、これが尋常ではない寂れた場所にあるのである。
千本三条から、三条会商店街を200メートルほど東へ入る。
千本三条付近にはまだそこそこ飲み屋があるが、三条会商店街に入ってくると飲み屋の数は少ないから、まずこの時点で、すでにかなり寂れている。
さらに八百屋「さんため」と「中川理髪店」のあいだの路地を南へ下る。
あたりは完全なる住宅街。
目指す店は、ここをだいぶ奥に入ったところにあるのである。
商店街に面した路地の入口に看板でも置いておけば良さそうなものを、それもない。
この一見さんを完全に無視したロケーションに興味がわき、きのうは外で飲むつもりではなかったのだが、一杯飲んでみることにした。
店の名前は「かなすとーた」。
古い町家を改装して店舗にしている。
店に入ると、店主は若い。
37歳なのだそうだ。
店主は元々、先斗町にある雑居ビルの2階で、焼酎バーを7年ほどやっていたとのことである。結婚し、まず住居としてこの町家を選んだそうだ。
ところが住むうちに、この辺りが気に入った。京都でも最も古いエリアの一つで、街の人達はたがいに強い関係を持ちながら暮らしている。
その関係に、自分もどっぷり入ってみたいとマスターは思ったようだ。
それで先斗町の店をたたみ、店もこちらに移すことにしたとのこと。
お店には、まずは街の人達に通ってもらえるようにしたいと考えているそうだ。それで宣伝なども一切せず、商店街に看板も出さず、完全なる隠れ家としてスタートし、もう半年になるというから大したものだ。
料金は手頃である。
料理は、刺身系、ツマミ系、および焼き物、鉄板物が中心。
レモン酎ハイを注文すると、突出しで出てきたのは山形名物の「だし」。
冷奴に乗せられていて、うまいし、第一シャレている。
砂ずりのガーリックバター炒めも頼んでみた。
これもまた、きちんとうまい。
店主とは少し話をしたが、若いのに、腹の座りようはかなりのものだと感心した。「人との関係を大切にしたい」とちゃんと正道を見据えていて、飲食店の経営は不安も多いことと思うが、ジタバタする様子はまったく見えない。
カウンターが5席と、テーブル席も2つある。
一人で来るのはもちろんいいし、2人連れやグループでも利用しやすいはずだと思う。
店内は小ぎれいな、落ち着いた雰囲気。
梅酒や果実酒などもあるし、女性にもおすすめだ。
ちんたら処 かなすとーた
京都市中京区壬生馬場町11-6
075-406-7626
営業時間 17時~24時
定休日 火曜
◎関連記事
京都駅前・居酒屋探索/古びた居酒屋にこそ京都のよさがあるのである
京都駅前にうまい味噌煮込み料理の店があるけれど紹介できないのが残念だ
京都大宮のグルメパブ「SUe」は、幸せなスタートを切ったようだ