きのうは鶏と大根の一人おでんにうどんを入れ、「おどん」にしてみた。
これが強烈な幸せに見舞われることとなり、「炭水化物は偉大だ」と改めて見直したのである。
ぼくはこれまで炭水化物は、どちらかといえば「バカにしていた」のである。
酒好きだから、「酒の味を悪くする邪魔者」としてしか、炭水化物を捉えていないところがあった。
もちろん炊き込みご飯やらソーミンチャンプルーやらもよく作るから、炭水化物のうまさを全く知らなかったわけではない。
しかしそれらはあえて言えば、「腹を満たすために仕方なく食べるもの」で、積極的な意味を炭水化物に認めることは、これまではなかったのだ。
ところが今回、そのぼくの価値観を大きく覆す出来事があった。
きっかけは、「おどん」だった。
おどんはおでんにうどんを入れたもので、島根県松江の名物らしい。町おこしを兼ね、大々的に宣伝しているのだろう、全国的に流行しつつあるようだ。
たしかにおでんは、ネタに炭水化物系のものが乏しい。関東だけは、「ちくわぶ」を入れるけれど、あとは生麩か、せいぜいジャガイモくらいではないだろうか。
といってご飯のおかずにもなりにくく、熱燗との相性は完璧とはいえ、酒をそれほど飲まない人には馴染みにくいものだったかもしれない。
若い人で「おでんが好き」という人も、あまり見かけないような気がする。
しかしここにうどんが入れば、話は変わるわけである。
おでんのみで、ガッツリと腹も膨れれば、おでんの価値は、ますます高まることになる。
おでんは古くから続く、日本伝統料理の一つだろう。
これが新たな装いをまといながら、人により受け入れられるものになるのは、ぼくもぜひとも応援したいところである。
などと考えたわけでもないが、きのうの晩飯はおどんにした。
最近夜にガッツリ食べ、一日一食にすることを目指しているから、酒の肴にバッチリなり、さらに腹も膨れるおどんは打ってつけだ。
ネタは鶏肉、それに大根、さらに油あげ。
おでんというと、ネタは魚のすり身が一般的だが、牛すじにせよ、ソーセージなどにせよ、肉気を入れると味がぐんと良くなることは、言うまでもないだろう。
おでんを作るには、昆布と削りぶしのだしを取る必要がある。
昆布は入れっぱなしにし、食べてしまえばいいとして、これまで「削りぶしのだしを取るのが面倒くさい」と思っていた。
削りぶしは、取り出さないといけないからで、網ですくい取るのはイライラするし、ザルで濾し取るとなると、鍋なり器なりをどうしても2つ、使わなければいけなくなる。
しかしきのう、ぼくは画期的な方法を発見したのである。
じゃーん!
鍋にザルを入れ、ザルの中で、削りぶしを煮出すのだ。こうすれば、ザルを取り出すことで、削りぶしまで一緒に取り除くことができる。
いやこれはもちろん、これは「ぼくにとって画期的」というだけの話だ。このやり方を、前からやっていた人は、世の中に2万人くらいはいるだろう。
なぜこれを、いままで思い付けなかったのか、自分で自分が不思議になる。
しかしこのように、人間いくつになっても、発見することはあるのである。
水は3カップ半、それに5センチ角くらいのだし昆布1枚、削りぶしは、ミニパック3袋。これを中火にかけ、沸騰したら5分くらい、アクを取りながら弱火で煮出す。
削りぶしを取り出すと、3カップくらいのだしが取れるだろう。
ここに酒とみりん、淡口しょうゆ、それぞれ大さじ3ずつで味付する。
このだしで、ネタを煮る。
2センチ幅くらいに切り、厚く皮を剥いて面取りし、20分ほど、竹串がすっと刺さるくらいまで下ゆでした大根。
うすく塩をすり込んだ鶏の手羽元。
食べやすい大きさに切った油あげ。
30分ほど、弱火でコトコト煮て味をしみさせる。
うどんは一番最後に入れ、5分ほど煮るくらいにしておくのがいいだろう。
器によそい、青ねぎと一味をかける・・・。
うーむ、たまらないわけである。
まず鶏のだしがしっかりと出ているところが、うまいと言ったらない。
それがホックリ大根とじんわり油あげに、バッチリしみているわけだ。
そしてうどん。
ここにもだしの味がしみている。
おでんに入れると、うどんは正にちくわぶと、同じ味。
ちくわぶより細いというだけの話で、おでんに入れるには打ってつけであるのが分かった。
ちなみにきのう、あと作ったのは、小松菜としめじのおかかポン酢。
塩水で、しめじはサッと、小松菜はやわらかくなるまで茹で、しめじは常温で冷まして水気を拭き取り、小松菜は水で冷やしてよく絞り、削りぶしと味ポン酢で和える。
ナスの酢味噌和え。
2センチ幅くらいに切ったナスを水でやわらかくなるまで茹で、水に取って冷ましてからやさしく絞り、西京みそと同量の酢、砂糖とからし少々で和え、削りぶしをかける。
きのうの酒は、焼酎水割り。まだ熱燗にはしていない。
おどんや小鉢をつまみながら、徐々にいい気分になっていく。
食べはじめて1時間ほどが過ぎ、何杯目かの焼酎がなくなった。
お代わりしようかと思ったが、ここで酒をお代わりすると、目指していた午前2時には寝られないことになる・・・。
そのとき、目の前にある鍋に泳ぐ、うどんが目に留まったのである。
まだけっこうな量が残っていたのを器に取り、口にかき込む・・・。
その瞬間、強烈な幸せ感に襲われたのであった。
「もう酒は飲まなくても、きょうはこれさえ食べてしまえば、満足して食事を終えられる」というくらいの幸せ感。
ぼくはこのとき、炭水化物の威力を腹の底から思い知った。
酒を飲むと止まらなくなるのは、幸せになるからだ。それでつい、「もうやめなければ」と思いながらも、飲み続けてしまうことになる。
しかしおでんのうどんは、その酒をやめさせるだけの力があった。
炭水化物は酒と互角か、もしかするとそれを上回る幸せをもたらすということだろう。
いままでバカにしていた炭水化物だが、それはぼくの目が節穴だった。
そんないい奴だったとは、これからもっと大事にしないといけないと、改めて実感した次第である。
「アホだよね。」
ほんとにな。
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