きのうは四条大宮で外飲みをした。
飲みながら、「ぼくは女性にはからきし弱い」と改めて思ったのである。
家で自分で作った肴をつまみ、ツイッターを相手に酒を飲むのも、ぼくは全く問題なく好きなのである。
「寂しい」などという気持ちは湧かず、この上なく幸せな気分になる。
ただそれが何日かつづくと、「疎外感」のようなものが生まれてくる。
ぼくは会社へ行くわけでもなし、家族もいないから、人とあいさつ以上の話をする機会がなくなり、社会とつながっている実感が薄くなってくるのである。
そこでその実感を取りもどすため、何日かにいっぺんは、外へ飲みに出るのである。
だから外で飲むのは、ぼくにとっては「好き」などという嗜好の問題ではなく、精神を健康にたもつために「必要」なことだと思っている。
というわけで、きのうも早めに仕事を終わらせて、四条大宮の街へ出た。
まずは立ち飲み「てら」で、すこし食べることにする。
てらで頼んだのは、いつものメニュー。
スパサラと・・・、
豚天。
てらの料理はどれもうまく、食べたいものは山ほどあるが、まずはこれを食べないと気が済まないのである。
隣に医者だという若い男性がいたので、話になった。
「ぼくは前の彼女とつき合った途端にじんましんになり、別れたら治ってきたんですよ。
これって何か、関係があるんですかね?」
ぼくが聞くと、男性は、
「それは間違いなくストレスですよ。
別れて良かったじゃないですか・・・」
なぐさめてくれる。
最近ぼくがかかった乾燥性の湿疹も、やはり「老人性」なのだそうだ。
「50歳をすぎると、あれこれガタが来ますからね。
きちんと手当をしながら上手につき合っていくしかないですね」
全くその通りである。
ぼくは65歳くらいで「ポックリ死ぬ」のを目標にしていると話しをした。
「ただ死ぬまでは元気でいたいので、健康にはそれなりに気を遣っているんですよ」
ぼくが言うと、
「だいたい『ポックリ死にたい』という人に限って、長生きするものなんですよ。
それに健康に気を遣っているのだったら、実際に健康なんでしょうから、80歳くらいまでは生きるんじゃないですか?」
むしろ「長生きしたい」と言っている人が、ポックリと逝くことが多いというから、人生ままならないものである。
話が一段落して男性は店を出ていき、ぼくもビールを二杯飲んで肴も食べ終わったから、
「そろそろ次へ移ろうか・・・」
そう思った矢先に、若い女性二人と男性の三人連れが入ってきて、ぼくの隣に立った。
「女性と話ができるかもしれない・・・」
ぼくはビールをさらにお代わりし、つまみをたのんだ。
たのんだのは、牛の肉吸い。
澄んだだしが、何ともうまい。
隣にいた女性二人と男性は、前に立たせていたチェブ夫に目をとめ、ぼくに話しかけてきた。
「これってチェブラーシカですか?でもちょっと違いますよね?」
女性二人はぼくに聞く。
チェブ夫はウラジオストックでもらったものだが、たぶん「中国製のバッタもの」だと話をすると、
「なるほど、でもむしろこちらの方が、愛嬌があってかわいいですね」
男性もチェブ夫を手に取りしげしげとながめる。
そこからその三人連れと話になった。
男性は建築家、女性はまだ大学院生で、インターンとして男性の事務所で働いているのだそうである。
「将来の目標とかはあるんですか?」
ぼくが聞くと、
「建築を続けるかどうかはまだわかりませんが、『モノづくり』は続けていきたいと思っているんです・・・」
女性はすこし恥ずかしそうに答える。
「何か将来ある若者にたいして、夢のある話をしてくださいよ」
男性に促され、ぼくは「ここぞ」とばかりに語りはじめた。
20代のうちは、たとえ失敗したとしても必ず誰かがフォローしてくれるから、失敗を恐れずに、どんどん挑戦したらいいということ・・・。
どんなに偉い人でも、20代の人が訪ねてくれば必ず会ってくれるから、「これ」と思う人には片っ端から会いに行ってみたらいいということ・・・。
モノづくりをするのなら、必ずいつか、「谷」に飛びこむ勇気が必要になるような時がくるから、恐れずに一歩を踏みだせば、大きく成長できるということ・・・。
話を聞いた男性も、自分の経験を語りはじめ、話は大いに盛りあがったのである。
女性を相手に話をし、気分が非常によくなったぼくは、てらを出て、よく行くバー「スピナーズ」へ向かうことにした。
ここでも女性を相手に盛りあがり、ぼくはつくづく、「自分は女性にからしきし弱い」と思い至ったのである。
さてスピナーズへ行くと、よく会う常連の男性がいたから、ぼくはその隣りにすわった。
酒は熱燗。
つまみには、一口カツを頼んだ。
サックリと揚がって中はジューシー、衣にはハーブが混ぜこまれ、ソースも自家製である。
男性には、引っ越し先が近くに無事みつかった話しをした。
「さらに1万円ほど家賃を出せば、バストイレ付きの物件があって、銭湯にひと月行けば、やはりそのくらいはかかるんですが、もし旅にでる場合、風呂は使わないので家賃が安いほうがいいですからね・・・」
旅をどうするかは、まだ具体的には決めておらず、まずは家賃を圧縮し、生活の自由度を上げようと考えていることも話した。
「風呂がないんじゃ、今のように朝風呂はできないですね・・・」
男性が、ぼくが朝風呂に入っているのを知っているのは、ぼくのブログを見てくれているからである。
男性と話をしていると、女性二人連れのお客さんが入ってきて、男性の、ぼくとは反対側の隣にすわった。
年配の女性と、若い女性だ。
「かわいいぞ・・・」
若いかわいい女性がすぐ近くにいるとなると、ぼくはもう、気もそぞろになるのである。
男性と話をしながら、ぼくは若い女性とマスターが話す話に耳を凝らした。
若い女性の言葉を聞くと、どうもイントネーションがすこし違うような気がする。
マスターがこちらへ寄ってきたときに聞いてみると、台湾人なのだそうだ。
その瞬間に、ぼくはスイッチがONになった。
「台湾の方なんですか?ぼくは台湾へ行ったことがあるんですよ・・・」
マスターには、
「まったく、スマートじゃないなあ」
と言われながらも、女性に話しかけたのである。
ぼくは台北で食べたものや、見たものの話しをした。
おいしいものや、ビックリするものが、台湾には山ほどあったのだ。
女性が台湾なまりの日本語で返すリアクションがまたかわいい。
「台湾の食べ物、おいしいよね。私も台湾へ帰りたくなっちゃったな・・・」
さっきまで話していた男性を間におき、ぼくは女性との話を満喫したのである。
女性はやがて帰って行き、ぼくも熱燗を2合飲み終わったから、家に帰ることにした。
時刻はちょうど12時、酔い加減も時間もいい具合だったから、ぼくはそのまま布団に入った。
眠りに落ちながら、ぼくは思った。
「ぼくは女性にからきし弱いな。
でもこれは生まれつきなのだから、仕方がないんだ・・・」
もちろんそれは、ただの言い訳なのである。
「おっさんは女性が好き過ぎるから、いつも失敗するんだよ。」
そうなんだよな、ほんとだよ。
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