購入した荒木晋太郎くんの絵を引き渡ししてもらった。
まったく役に立たないモノが、家にあるのは「いい」のである。
荒木晋太郎くんとは、以前から「スピナーズ」で顔を合わせ、ちょくちょく話をしていた。画家として食べることを目指すという、「安定」からはもっとも遠い場所にいる人だから、話がおもしろい。
「画家」ほど、感性を磨くことが要求される職業はないだろう。
「絵」には、まったく何の用途もない。ただ飾っておくだけである。
用途があれば、それが誰かの必要性を満たすことで、「買う」という行動に結びつくことはあるだろう。
しかし画家は、まったく必要がないものを、人に「買いたい」と思わせないといけない。
それがどうしたら可能になるのか、ぼくなどの常人には、まったく想像もつかないことだ。
と言いながら、ぼくは荒木くんの絵を買ったのだ。
価格は2万円。
スピナーズで荒木くんの個展が開催されていたのを、ぼくも見に行った。10点ほどの絵が飾られていたのを、ぼくは30分ほどの時間をかけ、じっくり見た。
そうしたら、この絵が欲しくなったのだ。
それまでも、知り合いの個展に行ったり、美術館で絵を見たりしたことは、もちろんあった。
でも切実に「欲しい」と思ったのは、その日が初めて。たまたま財布に2万円が入っていたから、それをその場で支払った。
なぜこの絵が欲しくなったのかといえば、ぼくはこの絵に、荒木くんの「人生」を感じたのだ。そしてそれが、自分の人生と「重なる」と思った。
絵のタイトルは、「雨時々雨」。
荒木くんは、関西電力前の抗議行動などにもちょくちょく参加したりしている。この絵は、そのときの自分のありようを表現したものだろうと思った。
外は、土砂降りの雨が降っている。しかし自分の中にも、また雨が降っている。
そんな悲しい状況なのに、描かれた動物は、スッと首を高く上げ、凛とした姿勢をたもっている。
「自分もそうありたい、、、」
ぼくは絵を見ておもった。
この絵を買って家に飾り、毎日眺めていたいとおもったのだ。
それできのうは、その絵の引き渡し。
買った絵が、とうとう家に来ることになった。
荒木くんは、絵の制作の経緯などを詳しく話をしてくれる。
絵のモチーフが浮かんでから、実際にこの絵ができるまで、半年がかかったそうだ。
特に考えたのは、まずモチーフ自体は暗いものでありながら、それを人が「自分の家に置きたい」と思えるような、明るい印象に仕上げること。
「暗い」と「明るい」は正反対だから、それを一つにまとめるためには、色合いなどにずいぶん工夫が必要だったのだそうだ。
それから「外」と「中」の両方に雨が降っているように見せるのも、簡単ではなかったとのこと。
ただ雨を描くだけでは、動物が雨の後ろに行ってしまい、動物の中に雨が降っているように見えない。
そこで動物のまわりを、背景とおなじ色で抜くことで、ようやく中に雨が降るように見えるようになったとのこと。
荒木くんは、それを半年、考え続けるわけである。
自分以外の人にとっては「どうでもいいこと」なのだから、誰かに相談するわけにもいかないだろう。
やはり画家は、自分の満足が得られるまで、莫大な時間をかけ、一人で考え続けることが必要なのだと改めておもった。
スピナーズでは、つまみに「朴葉みそ」を食べた。
甘辛いみそ味に、少しオリーブオイルが使ってあって、洋風なところがあるのもいい。
荒木くんとはしばらく話し、ぼくは食事をするためにスピナーズを後にした。
行ったのは、たこ焼き「壺味」。
「すじ焼きめし」を注文した。
ふつうのチャーハンに、チャーシューが入るところ、甘辛く味付けした牛すじが使われる。
とてもうまい。
早めに帰り、さっそく絵を本棚に設置した。
小型の絵だから、狭い我が家にちょうどいい。
しかし家に、まったく何の役にも立たないモノがあるのは、気分がいい。
しかも値段は、家にあるモノのなかでは、いちばん高い部類である。
やはりこのくらいのこと、大人はする必要があるだろう。
「一人は何でも好きなことができて気楽だね。」
そうだよな。
◎関連記事
本を置いてもらいに四条大宮の飲み屋へ行ったら、そのまま飲んでしまったのである。
四谷シモン展覧会「SIMON DOLL」はぜひ見た方がいいのである。