知り合いから連絡があり、大宮へ飲みに出かけた。1~2杯飲み、あとは家に帰って食事をするつもりだったが、この意志薄弱なおれにそんな芸当ができるわけもなかったのである。12時をとうに過ぎるまで飲み続けたから、あとはラーメンを食べて帰ることにした。
ラーメンは、大宮からわりと近くにいい店があるのだが、店の前まで行って、きのうは休みだったことを知る。となれば、選択肢は一つである。
天下一品・二条駅前店。
天下一品はいまや日本全国各地にあるから、知っている人は多いはずだ。でもこれが、京都発のラーメンだということを知っている人は少ないのではないだろうか。
40年ほど前に銀閣寺の近くで屋台を出したのがスタートで、そこからあれよあれよと拡大し、創業社長一代で200を超える店舗を有するに至っている。京都発の飲食店チェーンとしては、「餃子の王将」に次ぐ規模だ。
なぜそこまで急成長したかといえば、それはもちろん、京都の人が支持したからだ。京都にはおいしいラーメンが他にも何種類もあるのだが、天下一品のラーメンだけには「熱狂」とも呼べる空気をおれは感じる。
特に30代くらいの、若い頃にリアルタイムで天下一品の成長を経験している世代の人は、
「天下一品は『ラーメン』ではなく、『天下一品』という別のもの」
などという言い方をする。
ただならぬ熱の入れようだ。
毎年10月1日は「天下一品の日」と決まっていて、来店者にはラーメン無料券やキーホルダーなどが配られる。各店舗にずらりと行列ができるそうで、知り合いでも、そこには「並ぶ」という人を何人も知っている。
その知り合いは、べつにラーメンマニアで、普段から色んなラーメンを食べ歩いているわけではない。単なる普通の人が、天下一品のラーメンだけは、そうして熱を入れるのだ。
天下一品のこの熱狂は、「ソウルフード」といえる域に達しているのではないかとおれは思う。ちょうど名古屋の「スガキヤ」と同じような感じなのではないだろうか。
新来者のおれは、天下一品のラーメンにそれほどの熱狂は持たないけれど、このラーメン、実に「京都らしい」と思う。京都の人の味覚のツボを、鷲づかみにするものになっている気がするのである。
一言でいえば京都の人は、「白くてドロドロとした食べ物」が好きなのだ。代表が白味噌のお雑煮で、白くてとろみのある汁に、さらにネチッと柔らかい小芋や頭芋を入れる。
それから粕汁。これは完全に、京都の人の「ソウルフード」と呼んで差し支えないと思う。
この粕汁も、白くてドロリとした汁だ。
天下一品のラーメンは、この粕汁、特に京都の人が好きな豚の粕汁と、味的によく似ている。
肉系のドロリとした汁であるのは同じだし、ラーメンのチャーシューも豚肉だ。
京都の人が伝統的に特に好むタイプの味をラーメンに再現したからこそ、天下一品は、京都であれだけ特別な支持を得ているのではないかと思うのである。
府外から京都へ来たら、「何か京都らしいものが食べたい」と思うだろう。もちろん京都には、京都らしい独特な食べ物がたくさんある。
しかし天下一品のラーメンも、実はそういう、京都らしい食べ物の一つなのだ。
二条駅の近くで食べるものに迷ったら、天下一品・二条駅前店へ行くのはおすすめだ。
「夜遅くまでやってるしね。」
そうだよな。