チェブ夫はまたしても、スーパーで豚肩ロースのかたまり肉を買った。
「だって安いもん。やめられないよな」
チェブ夫は、あまりお金がない。ブロック肉がひき肉より安いとなれば、アメリカ産とはいえども買ってしまうわけである。
「これで何を作ろうか……」
ブロック肉は、やはり大きめに切って煮込み料理に使いたい。これまでチェブ夫はこのブロック肉を、トマト煮、みそ煮込み、それにカレーに使った。
「あと作っていないのは……。そうだ、キムチチゲだ!」
キムチチゲは、うす切り肉で作られることも多い。でもチェブ夫が以前、韓国でお世話になった家で食べたキムチチゲは、かたまり肉をカットしたもので作られていて、作り方を見ていると、30分くらいは煮込んでいた。
キムチチゲは、日本では「キムチ鍋」と訳されるから、「サッと煮る」イメージがあるけれど、煮込み料理としても捉えることができるのだ。
「たっぷり煮込んで、キムチがトロトロになったのがウマイんだよな」
キムチもほんとは、買ってから1~2週間して、ちょっと酸っぱくなったくらいのがうまい。でも今回はキムチの備蓄がなかったから、スーパーで買ったばかりの新しいのを使うことにした。
キムチチゲを作るポイントは、まずは肉にきちんと下味をつけること。特にかたまり肉の場合には、火が通ってしまうと味がしみなくなるからだ。
そのために、まず肉にキムチをのせてしばらく置き、さらに炒め煮(ポッカ)する。こうすることで、キムチのうまみがしっかりと肉にしみる。
それからやはりキムチチゲは、キムチも決して安くはないが、ケチらずがっぽり入れるのが重要だ。キムチチゲは「キムチの味」なのだから、キムチが少ないと味がつかない。
キムチの量は、肉が300グラムなら300グラムと、肉と同量くらいが理想。それから水も、キムチと同量くらいにし、それより多く入れないようにしないと味が薄まる。
キムチが本当においしい場合は、味つけは、あとは塩だけで十分。でもなかなかそういうわけにもいかないから、酒とみりん、薄口しょうゆで味を足す。
あとは、だしに干ししいたけを使うのがミソ。
「これがまたウマイんだ……」
チェブ夫は干ししいたけを使ったキムチチゲを、大阪・鶴橋の韓国料理屋で食べたのだ。
中くらいの大きさの干ししいたけなら3~4個を、3+2分の1カップの水に入れ、中火にかけて、煮立ってきたら火を止めて、そのまま置いてだしを取る。
干ししいたけは、できるだけ低い温度の水を使ったほうがおいしいだしが取れるけれど、キムチチゲなどに使う分には、こうして火にかけスピードアップを図っても、問題はまったくない。
入れる具は、キムチチゲの基本である豆腐のほかに、今回は干ししいたけともよく合うたけのこと、長ねぎを入れることにした。あと青みには、水菜を使うと、サッパリとしてまたうまい。
食べるとき、粗挽きコショウとパルメザンチーズを好みでかける。こうすると、キムチの複雑な味に、さらに複雑な広がりがついて、実にいい。
鍋にゴマ油・大さじ1を引き、2センチ大くらいの大きさに切った豚かたまり肉・300グラムを並べて入れる。
その上に、300グラムのキムチをのせ、あるだけのキムチの汁をかけて、10分くらいおいておく。
フタをして、弱火にかける。
そのまま10分くらい、途中で1~2度まぜながら、じっくりと蒸し焼きにして味をしみさせる。
- 酒 大さじ3
- みりん 大さじ1
- 薄口しょうゆ 大さじ1
- ニンニク 好みで (すり下ろし)
- 韓国唐辛子または一味 好みで
- 干ししいたけのだし
を入れ、弱火で20分くらい、フタを斜めにかけてコトコト煮込む。
- 豆腐 1丁 (食べやすい大きさに切る)
- 長ねぎ 20センチくらい (斜め切り)
- 水煮たけのこ 2分の1本 (3ミリ厚さくらいに切る)
- だし殻の干ししいたけ (食べやすい大きさに)
を入れて、さらに10分くらい煮込み、最後に味をみて塩をくわえる。
器によそい、2センチくらいのざく切りにした水菜と粗挽きコショウ、パルメザンチーズをかける。
「う~ん、これはタマンネ……」
キムチのコクが、干ししいたけのだしでさらにパワーアップされ、チェブ夫は150回くらい死んだ。
味を吸った豆腐が、また死ねる。
そしてこのキムチチゲ、酒に「これでもか」かというほど合うのである。
チェブ夫は飲み過ぎて前後不覚となり、すぐにグーグーいびきをかいて寝てしまった。
「それは自分でしょ」
そうだよな。