「煮込み」は世界に類のない、日本独自の料理法なのである。(鶏とゴボウの煮込み)

鶏とゴボウの煮込み 鶏肉

昨日は冷蔵庫の有りものを使い、鶏とゴボウの煮込みを作った。

鶏とゴボウの煮込み

「シチュー」の和訳となっている感もある「煮込み」は、実は世界に類のない、日本独自の料理法なのである。

 
昨日は鶏肉が冷凍してあり、使いさしの野菜も冷蔵庫にあれこれ入っていたから、それらを全部一つの鍋にたたき込み、ごった煮でも作ってやろうとおもっていた。

でもせっかく野菜が色々あるのに、それで一品にしてしまうのはもったいないと考えなおし、鶏肉にはゴボウだけを合わせることにして、あとは野菜を少しずつ組み合わせて計5品を作ることにした。

やはりぼくは日本人だからだろう、皿や小鉢が食卓にたくさん並ぶことに幸せを感じるのだ。

品数が増えれば、その分多少は手間がかかるが、べつに誰が待っているわけでもなし、少しくらい支度に時間がかかっても支障は全くないのである。

 

「煮込み」というと、今はカレーなどのシチュー類を「時間をかけてコトコトと煮る」という意味になっている。

しかし煮込みがそのような意味に捉えられるようになったのは、戦後になってからのことのようである。

自分でつくる うまい!海軍めし』を見ると、海軍のレシピで「煮込み」と呼ばれていた料理が2品掲載されている。

一つは今でいう「肉じゃが」で、もう一つは豚肉を味噌で煮た、「豚汁」に近いものだが、どちらも「汁を煮詰める」ようになっている。

 

汁を煮詰める料理法は、魚の「煮付け」に見られるものだが、強めの火で、比較的短時間に一気に煮上げるわけだから、「コトコト長時間煮る」のとは大きくちがう。

どうやら戦前は、煮付けとおなじやり方を肉に応用したものを「煮込み」と呼んでいたようなのだ。

 

今この意味合いで「煮込み」が使われるのは「もつ煮込み」「味噌煮込み」くらいのもので、日本的な意味での「煮込み」は一般名詞からは消え去ってしまったわけだが、それはもちろん、戦後になってカレーをはじめとする西洋の料理がどっと入ってきたからだろう。

家庭でも西洋風に料理をするようになり、日本風の「煮込み」は忘れ去られることになってしまったということだ。

ところがこの「西洋風」がクセモノなのであり、カレーやシチューを市販のルウを使って作ると、日本の料理でないのはもちろん、西洋の料理でもないものが出来てしまいがちだとおもう。

問題はルウの箱に書いてある「作り方」にあり、これのおかげで、ぼくも以前はその一人だったのだが、カレーだけは作れるけれど、西洋の料理も、日本の料理もわからない、料理について何もわかっていない人を大量に生み出していると、ぼくは僭越ながらおもう次第なのである。

 

カレールウの箱を見ると、煮込み時間は「20分」と書いてある。

これはぼくが子供のころもそうだったから、この「20分」はカレールウを商品化する過程の、比較的早い時期に決まったものではないかとおもう。

しかし肉と野菜を20分煮込むのは、全く解せない話である。

日本はもちろん、西洋にも、「20分の煮込み時間」は存在しない。

 

まず肉は、10~20分煮ると硬くなる。

そのあと豚肉なら1~2時間、牛肉なら5~6時間煮てまたやわらかくなるのであり、日本の煮込みはその硬くなるまえ、10分程度で煮上げることとなり、西洋のシチューは数時間をかけ、再びやわらかくなるまで煮ることになる。

また野菜にしても、日本のカレーに入れるくらいの大きさに切ったものなら、20分は煮過ぎであり、特にジャガイモなどは、20分も煮ると煮くずれてしまう。

日本の煮込みの10分の煮込み時間なら、ジャガイモも煮くずれることはないし、西洋では、肉をまずじっくり煮たあと、野菜を入れるようにするわけだ。

 

それではカレールウの箱に書いてある「20分」の煮込み時間は、どのようにして決まったのか。

それをあえてぼくが憶測してみれば、「メーカーの販売戦略」なのである。

 

まずカレーが「数時間煮込まないといけない」ものなら、そんなことに慣れない日本の主婦が受け入れるわけがない。

だからカレーの煮込み時間は、日本の煮込み時間に近いものである必要がある。

それなら「10分」にしたら良さそうなものである。

そうすれば、日本の煮込みとおなじで、肉も硬くならないし、野菜も煮くずれない。

 

でも10分ではいけない理由があったのだ。

それは、「10分では肉のうまみが煮汁に出ない」ことである。

 

実際の話、西洋のシチューと日本の煮込みは、どちらも似たようなものに見えるが、そこで行われることは全く異なる。

西洋で「煮込む」ことは、肉のうまみを煮汁に「出す」ことだ。

肉や野菜などさまざまな材料から出る「スープ」に、非常な重きを置くわけである。

 

それにたいして日本では、煮る際には基本的に昆布や削りぶしの「だし」を使う。

だしを使って煮込むというのは、すでに煮汁に十分なうまみがあるわけだから、煮汁にうまみを出すのではなく、材料に味を「入れる」ことが目的になる。

さらに煮汁を煮詰めることで、煮汁のうまみをすべて材料に「封じ込める」わけである。

 

このように「正反対」ともいえる西洋と日本の「煮込む」を何とか折衷するために、メーカーがひねり出した苦肉の策が「20分の煮込み時間」だったのだとぼくはおもう。

肉や野菜などの「材料」のことを考えれば、これはいかにも中途半端といえるのだが、メーカーにとっては、材料の是非より、カレーの「ソース」がうまければ、「ルウは売れる」と考えたのだろうとぼくは邪推する。

案の定、カレールウは大ヒットをしたわけだが、そのおかげで、西洋の料理も、日本の料理もわからない人も、大量に生まれたのだとぼくはおもう。

さらにそれで、日本の貴重な料理法である「煮込み」が絶滅したことは、ぼくは何とも残念である。

 

企業の営業・販売活動のために貴重な文化が死滅するのは、ありがちなことではある。

でも一旦なくなってしまった文化は、そう簡単には復活しないのだから、やはり文化は守られていかなければいけないのだとおもう。

 

というわけで、「鶏とゴボウの煮込み」である。

鶏とゴボウの煮込み

これはだしさえきちんと取れば、それ以外には手間もかからず、あっという間にできてしまう。

味つけは、「酒の肴」にすることを考え、少しうすめにしたところ、死ぬかと思うくらいうまかった。

材料は、ゴボウの他に、ニンジンやタケノコ、ゆでた里芋、レンコン、こんにゃくなどを入れてもいいのは言うまでもないのである。

 

さて鶏とゴボウの煮込みを作るには、まずだしを取る。

煮込みにはだしは1カップでいいのだけれど、昨日は吸物も作ることにしたから、吸物2杯分で2カップのだし、計3カップのだしを取ることにする。

3カップのだしを取るには、水は3カップ半。

鶏とゴボウの煮込み作り方1

ここにだし昆布の切れっ端と、かつお節は2.5グラム入りのミニパックを3袋いれ、中火にかける。

煮立ってきたらアクをさっと取り、ごくごく弱火の、ほとんど煮立たないくらいの火加減に調整し、縮こまっていた昆布がビローンとのびるまで、5分くらい煮る。

鶏とゴボウの煮込み作り方2

昆布がのびたら、ザルにペーパータオルを敷いて濾せば、だしは出来あがりである。

 

あとは何のこともない。

鶏とゴボウの煮込み作り方3

フライパンに1カップのだしをいれ、酒とみりん、砂糖、うすくち醤油それぞれ大さじ1ずつをいれたら、大きめのひと口大に切った鶏もも肉250グラム、大きめのささがきにし、水にさらしたゴボウ1本分をいれ、フタをして強火にかける。

煮汁が沸騰してきたら、強めの中火くらいの火加減にし、そのままグツグツ10分煮る。

鶏とゴボウの煮込み作り方4

10分煮たらフタを開け、火加減を強火にし、上下を返して材料を煮汁になじませたりなどしながら、煮汁をすべて煮詰めれば完成だ。

 

青ねぎなどの青みを散らし、好みで七味をふって食べる。

鶏とゴボウの煮込み

こんな簡単にできるのに、ビックリするほどのうまさである。

 

鶏肉はモチモチ。

鶏とゴボウの煮込み

 
 

ゴボウもしっかり味がしみている。

鶏とゴボウの煮込み

 
 

昨日あと作ったのは、白菜と油揚げの吸物。

白菜と油揚げの吸物

だし1カップにたいし、酒大さじ1、うすくち醤油大さじ2分の1強、塩少々くらいで吸物の味をつけ、細く切った油揚げと白菜をサッと煮る。

この作り方は京都の郷土料理「菜っぱ汁」を真似たもので、菜っぱ汁はふつう小松菜や白菜菜、水菜、春菊など青菜をつかうが、白菜でももちろん悪いことはない。

しめじを入れるとさらにうまいし、薬味は昨日は一味にしたが、ユズの皮を浮かべたりすれば「料亭の味」になる。

 

それからあとは、大根とニンジンのなます。

大根とニンジンのなます

細く切った大根とニンジンを、まずは一つまみの塩で塩もみして10~20分おく。

しんなりしたら水で洗い、よく絞ったのち、酢1:みりん1、砂糖少々、塩ほんの少々の甘酢に20~30分ひたす。

これは本当は、ニンジンではなく「柿」でやると、さらにおいしいのである。

 

オニオンスライス。

オニオンスライス

細く切った玉ねぎにかつお節と味つけポン酢をかける。

 

皮とだし殻のじゃこ炒め。

皮とだし殻のじゃこ炒め

廃物の大根の皮やニンジンの皮、さらにはだし殻の昆布とかつお節を、ゴマ油と輪切り唐辛子、ちりめんじゃこでじっくり炒め、酒とうすくち醤油で味つけしてゴマをふる。

全くの廃物利用なのだが、これがまた非常にうまい。

酒の肴にはもちろんのこと、ご飯のおかずにもなるとおもう。

 

酒はぬる燗。

酒はぬる燗

2日つづけてパソコンなしの食事をし、食べるのに集中するやり方がわかったから、昨日はまたパソコンをつけ、ツイッターを復活した。

いや何、食べる時はしっかり食べ、パソコンに向かう時は向かうと、きちんと分ければよかったのである。

おかげでツイッターには、また妄言が多数、つぶやき散らされることとなった。

 

さらに昨日はシメも食べた。

白菜のにゅうめん

吸物を2杯分作ってあったので、今度はそこにそうめんを入れた。

 

昨日も晩酌は、非常に満足した。

どの肴も大変なうまさだったのだが、これは自分で、自分がいいように作っているのだから、当たり前なのである。

 

昨日は仕事もちゃんとしたしね。

チェブラーシカのチェブ夫

うん、がんばらないとダメだよな。

 

 

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大根煮は「煮立てない」のがコツなのである。

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煮付けは日本が誇る、類まれなる魚の料理法なのである。

コメント

  1. くろだ より:

    いつも楽しく拝見させていただいてます
    こんなことを伺うのはお門違いかもしれませんが
    三条商店街の公園の前で漬物を売ってるおばちゃんがどうされてるかご存じでしょうか?いつも美味しいので楽しみにしてるのですがいらっしゃらないので
    どうされたか心配しています。ご存知であればよろしくお願いします

    • 高野 俊一 より:

      おばちゃんは、山崎豆腐店のとなりに店舗を構えられたんですよ。
      ただ今はすぐき製作中でしょうから、次に来られるのはすぐきが出来てからだとおもいます(^_^)

  2. taki739 より:

    こんにちわ。いつも楽しみに見ています。
    煮込みの汁気の件ですが。。
    戦前は、燃料が薪だからじゃないでしょうか??
    先に、火を起こして、ご飯を炊き、蒸らす間に、
    そのまま強い火力で、野菜を茹で、お浸しにして、
    煮物を作り、焼き物は遠火にしておくと、
    ちょうど同時に出来上がる。
    煮豆などコトコト煮るモノは、
    火鉢の置き炭にかけていたんじゃないでしょうか?
    ヨーロッパのシチューは、
    ストーブの上で長時間、煮ていたと思います。

    料理に使う燃料の時代背景から考察されると、
    また、違う角度から、
    調理法や順序が見えてくると思います。

  3. くろだ より:

    情報ありがとうございます!
    南側のドーナツ売ってる豆腐屋さんですよね
    おばちゃんのスグキが食べたくてウズウズしてました

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