ひとことで言えば関西風うどんだしにニンニクとコショウを加えたもの。体を温めるには、やはり豚肉とニンニクなのだ。
食事の目的がまず第一に「体を健康にすること」である以上、最も食べるべきなのは「豚肉とニンニク」であると思える。何しろ体を温め、疲れをとる効果がハンパない。
豚肉に豊富にふくまれる「ビタミンB1」が、糖質や脂質の代謝を上げ、エネルギー物質の生産を活発にする作用があるそうだ。
ところがこのビタミンB1がそのままではなかなか体内に吸収されにくい性質があるところ、ニンニクに含まれる「アリシン」と作用すると、一気に吸収されやすくなるとのこと。
実際40歳を過ぎると代謝が低下してくるから、これを上げるためにはどうしたらいいかが最重要の課題になる。それをきちんと考えないと、体が冷え、疲れが溜まって動けなくなるからだ。
この前も、たった1日、料理に豚肉だけ入れてニンニクは入れなかった日があった。そうしたらたちまち脚がどんよりとダルくなり、それが翌日ニンニクを食べたら、食べるそばから「パチパチ」と音を立てるように解消していったから、「もう豚肉とニンニクなしでは生きていけない」と僕が思うようになるのも無理のない話なのだ。
ところが日本では昔から、この豚肉とニンニクを食べてこなかった。魚が中心で、しかもそれをニンニクを使わない味つけで料理するのは、たぶん日本だけではないか。
そのため日本料理は、世界で類を見ない独自の特徴を持つにいたった。もちろん僕も、日本料理は大好きだ。
しかし体のことを考えた場合には、日本料理には豚肉とニンニクという、一番大切なものが2つとも含まれていないことになる。ビタミンB1の不足は特に深刻だったみたいで、江戸時代や戦時中など、ビタミンB1欠乏症である脚気が大流行したこともあるそうだ。
また体を温めるために、栄養以外の方法を考える必要もあっただろう。日本人が鍋料理や熱燗、風呂などが好きなのは、そのためではなかったか。
「豚肉とニンニクを食べない」という選択を、日本人が自分の手で、主体的にしたものであったなら、べつに文句はないのである。しかし歴史を見れば、そうではなかった。
まず奈良時代に「肉食禁止令」が発令された。次に鎌倉時代に、禅宗のお坊さんはニンニクやニラ、ネギなどの「五葷」を食べてはいけないことになった。
禅宗は、精進料理が日本料理の源流ともなっているし、その他に茶の湯や絵画・建築などなど、当時の文化の最先端。そこでニンニクが禁止されれば、ニンニクを使った料理は日本で発展しようがない。
つまり豚肉とニンニクは、権力によって禁止されたのだ。人間の体にとって一番必要なものを2つも禁止するというのは、「あまりにも理不尽」だと言わざるを得ない。
なので僕は、豚肉はもう日本人も十分食べるから、あとはニンニクを、日本料理に取り戻したいと思っている。ニンニクは、もう日本人も普通に食べる人は多いけれど、それはあくまで韓国料理・中華料理・洋風料理などに加えるもので、日本料理は、相変わらずニンニクを使わない領域として残されているではないか。
さて前置きが長くなったが、「在日風」というのはニンニクを日本に取り戻すために、非常に強力な手段だと思うのだ。4代、5代と日本に住む在日コリアンは、日本の料理を取り入れながら、そこにうまくニンニクを加える方法を編み出している。
たとえば「関西風のうす味のだし」などというと、コッテリとした朝鮮や中国の料理などとは最も対局にある、日本独自のもののように思える。ところがこれにニンニクを加えると、実においしくなるのである。
ポイントは、ニンニクと一緒に「コショウ」を加えること。それにより、味が一気に引き締まる。
このことを、僕は在日料理界の雄・「あらい商店」の大将から学んだ。大将は、一冊の韓国料理の本を見せてくれた。
著者は「たぶん在日コリアンだろう」という。大将が示したレシピは「たらと白子のスープ」で、だしはたらと白子から出る魚介のうま味。
ここに塩としょうゆ・みりんでうすく味が付けられる。これだけだったら、日本料理の味つけだ。
そこにさらに、ニンニクとコショウが加わっているのである。大将はこれを僕に見せながら、
「うす味の和風だしでもニンニクとコショウを入れるとうまいんですよ」
と教えてくれた。
この料理は、まさに日本料理がニンニクを取り入れるための「突破口」だと僕には思える。ここからさらに、油を使った中華風の味つけを加えたものが、最近僕がしょっちゅう作っている「中華的料理」となる。
きのうは二日酔いで夜になっても気持ちが悪く、とにかくアッサリとしたものを食べたかった。しかし豚肉とニンニクは絶対に入れる必要があるわけで、それで作ったのが「豚肉うどん在日風」。
要は上のレシピと考え方として同じこと、関西風の豚肉うどんにニンニクとコショウを加えたもの。これがまた穏やかな味になり、実にウマイのだ。
関西風のうどんダシなら、かつお節をガツンと利かせる。でもニンニクを入れるとニンニクの風味が勝ってしまうことになるので、ここは手軽な煮干のだしで十分だ。
それから上のレシピでは、ニンニクはすり下ろすことになっているが、日本人がニンニクを使う場合、「すり下ろさない」のがポイントではないかと思う。
ニンニクをすり下ろして使った場合、ニンニクの味が日本人にとってはちょっと強くなり過ぎる。油を使うなら、みじん切りにしたのをよく炒めて焦がすようにし、まだ煮物に直接入れる場合は潰してだしの具材とするのが、味が穏やかになってちょうどいい。
入れる具材は、豚肉のほかには、きのうはタケノコと長ねぎ、あとはわかめ。わかめはきのうは火を通さずに、トッピングとして利用した。
作るのは、材料を順番に入れて煮るだけだから、至極簡単、時間も大してかからない。
鍋に、
- 水 2+2分の1カップ (2分の1カップは煮詰まる分)
- 煮干し 1つまみ (頭とワタをとり除く)
- ニンニク 1かけ (潰してうす皮を取る)
を入れて中火にかけ、煮立ったら弱火にして5分くらいコトコト煮出す。
- 酒 大さじ2
- みりん 小さじ2
- 薄口醤油 大さじ2
- コショウ 1~2振り
を加え、
- 長ねぎ 10センチくらい (斜め切り)
- タケノコ 4分の1本 (2ミリ厚さくらいの食べやすい大きさに切る)
を入れて、弱火で2~3分、長ねぎがしんなりとしてくるまで煮る。
- ゆでうどん 1玉
- 豚コマ肉 50~100グラム
を入れ、弱めの中火くらいで煮て、煮立ってきて豚肉に火が通ったら器によそう。
塩漬けなら水洗い、乾燥なら水で戻して食べやすい大きさに切ったわかめを盛り、好みで粗挽きコショウをかけて食べる。
これはマジで、体が温まりますよ。
夜になっても二日酔いで気持ちが悪いままだったのに、時間になれば、また飲むのである。
酒は休肝日など設けず、毎日規則正しく飲むことが、体には一番いい。
「早死にするよ。」
そうだよな。