京都・烏丸七条の居酒屋「秀屋食堂」。
ここはめちゃくちゃディープで、超おすすめだ。
京都駅前の居酒屋を探索しているのだ。駅に近いところから始め、いくつかの良店を見つけてきたのだが、あと残すは烏丸七条。だいたいこのあたりまでが、「京都駅前」の範囲になる。
探しているのは、「ディープな店」だ。それこそが、次の時代を切り開くと思っているからだ。
居酒屋も商売である限り、他人から受け入れられなければ成り立たない。その考え方を単純に推し進めれば、マーケティングによって客層の好みを分析し、それに合ったものを提供するというところに至る。
現在の、特にチェーン展開の居酒屋などは、それを究極まで推し進めたものが多いのではないだろうか。
そうすれば、それなりに小洒落て一般ウケするものはできる。そういうものが好きな人は、もちろんそこへ行ったらいいだろう。
しかしそうしてマーケティングから出発した居酒屋は、全て似てくるわけである。相手が望むものなど誰が分析したっておなじだから、それは当然そうなるのだ。
そうやって似たようなチェーンの居酒屋ばかりが幅を利かせる繁華街、「それでいいのか」ということだ。
オレは、そんなとこへは行きたくない。
居酒屋へ行く楽しみがどこにあるのかといえば、やはり「出会い」なのである。まだ見ぬ新たな人間性に触れ、それを好きになる予感こそが、酒を飲み歩く醍醐味だ。
それは、お店についても全くおなじだ。お店の構えや料理、接客などを通し、店主の人格や個性に触れるからこそ、居心地よく寛げる。
人格や個性は、マーケティングとは対局にあるものだ。相手ではなく、あくまで自分の側から考え始めない限り、お店は人格を表現したものにはなり得ない。
といって商売だから、独りよがりでは成り立たないのも、また当然。そこに、世の中の奥深さがある。
この、あくまで自分の側からスタートしながら、独りよがりにならないギリギリのところで踏み留まっている状態、それを「ディープ」とオレは呼びたい。
マーケティング全盛の世の中にあり、街に一つでも多くのディープを見つけたいと、オレは思っているのである。
そのようなディープな店を、京都駅前にもいくつか見つけてきたのだが、あと一つ、「入ってみたい」と目星をつけていたところがあった。
それが、烏丸七条をちょっと西へ行き、路地を北に上がったところにある「秀屋食堂」だ。
何しろ、店構えがまずスゴイ。
建物の2階にある店舗なのだが、入り口には提灯に電球3つ、黒板と、さらに無数の張り紙。
またその張り紙が、すべて手書き。
左上、営業終了時刻を「午前2時くらい」と書かず、わざわざ「丑三つ時あたり」とするところなど、店主のこだわりを感じるだろう。
「ひでやん」という人が店主のようだ。
「笑顔で元気」が売り物らしい。
今どき、ここまで強烈に自分を主張する店もめずらしい。これは入ってみなければいけないだろう。
本当は、おととい来てみるつもりだったのだ。しかし「おふくろ」で、思わぬ長居をしたために、きのう出直したというわけだ。
ドアを開けると、階段がある。
踊場に立てかけられた札には、さらに「元気に」の文字があり、さすが期待を裏切らない。
お店に入る。
店内は、5~6人が座れるカウンター、それに4人がけのテーブル席が一つ。
言うまでもなく、壁という壁はすべて張り紙で埋まっている。
ビールを飲みながら、マスターとあれこれ話をした。
マスターは58歳、この店は3ヶ月前にオープンしたそうだ。
「3月14日にオープンしたので、毎月14日には開店記念でドリンクのサービスしたりしているんですよ。周年だと年に1回しかできないけど、『周月』なら、毎月できるからいいですよね」
とのこと、このひとことを聞いただけで、マスターが独自の世界を持っている人だということが分かる。
九州から関西へ来て、これまで5回、ラーメン店やら居酒屋やら、様々な飲食店を経営し、今回は6度目だとのこと。
「どんなに失敗しても、あきらめないんですよ。あきらめない限り、未来はありますからね」
それは全く、その通りである。
料理は、さすが飲食店の経営が長かっただけあり、ウマそうなものが色々ある。和風はもちろん抑えているのだが、ラーメン店の経験から来たものだろう、豚肉を扱ったものも多いし、それから特筆すべきは、スペイン風の料理が色々ある。
そこでまず頼んでみたのは、「蛸のガリシア風」500円。
オリーブオイルとにんにくに、和風の味付けが少し足されていて、かなりうまい。
それから、この店のおすすめ料理・筆頭に上がっている、「骨付ブタバラ肉」500円。
これもまた、うまかった。
まず肉が、ホロホロにやわらかく煮込まれている。
味付はしょうゆベースで、普通ならかなりの甘みを付けるところを、チャーシューのような感じで甘みが抑えられているのが、またさわやかだ。
酒は、グラスワイン・500円。
きのうはこれだけ食べて、1時間ほどでサックリ出たが、お勘定は品物の値段を足しただけ、チャージはなかった。
ここは、まだまだウマそうなものが色々ある。値段もどれも、抑えめになっている。
焼きうどんや丼ものなど、腹にたまるメニューもあるから、「食堂」の名の通り、ガッツリと食べに来るのもいいと思う。
もちろん、夜中の3時までやっていて、酒も各種とり揃えられているから、バーとしての利用もおすすめだ。
秀屋食堂
京都市下京区新シ町138
080-4766-2164
営業時間 午後6時~午前2時頃まで
定休日 とりあえず無休
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