きのうは京都駅前の居酒屋「おふくろ」へ行った。
ここは、一人でふらりと入ってみるには実におすすめの店なのだ。
最近、京都駅前を探索していて、きのうも2~3軒をまわってみるつもりでいた。手始めに、まずは「おふくろ」で、サックリと一杯飲んで次へ行こうと思っていたのだ。
おふくろは、京都駅前ヨドバシカメラの北側を東西に走る路地、それをヨドバシカメラからちょっと西へ行ったところにある。
赤い提灯に、デカデカと「おふくろ」と書いてあるから、すぐに見つけられるはずだ。
営業時間は午後5時~11時、定休日は土日祝日。でもお客さんがいなければ早く閉めたり、いれば多少遅くまでやっていたり、また女将さんが旅行へ行く時などは、一週間閉めたりすることもあるなど、アバウトにやっているらしい。
京都駅前の居酒屋だから、常連さんは北は北海道から南は沖縄まで、全国にいる。出張で京都へ来ると、この店へ立ち寄るそうだ。
女将さんは、見た目は60代にしか見えないが、もう78歳。今さらガツガツ商売するつもりはないが、「どうか続けて」と言ってくれる常連さんの顔を見るのを楽しみに店をやっているそうだ。
「色んな会社の専務だのの人が、一人でふらりと来るんですよ」
と、顔をほころばせながら言う。
それもそのはず、この女将さんは、まさに「おふくろ」と呼ぶのに相応しい人なのだ。
まずは、やさしい。お客さんの顔を見て、その人が何をしてほしいかを察する気持ちを持っている。
しかしただやさしいだけでは、「おふくろ」と呼ぶには足りないだろう。おふくろにはたくましさと、そして明るさが必要だ。
家族を励まし、元気にさせてくれる。家族の中心にあり、家族が仲良く平和でいられる駆動力となるのが「おふくろ」だ。
そんなおふくろに必要な要素をすべて兼ね備えたのが、この「おふくろ」の女将なのだ。
そういう女将を慕い、全国から京都駅前に人が集まるわけである。
きのうもビールを頼み、
盛り合わせを注文した。
盛り合わせは女将さんが作ったものや、各地で買ってきた名産品などを少しずつ盛ったもので、値段は内容により700円~1,200円。
きのうは切り干し大根に鴨のロースト、鯉の甘露煮、稚鮎甘露煮、ほうれん草のおひたしだった。
先客は、30歳くらいの男女3人連れ。話すともなくビールを飲んでいるうちに、外国人のカップルが入ってきた。
観光旅行で京都へ来たのだろう。日本語は全くできない。
でもその外国人を、女将さんはかまわず店に入れるのである。
女将さんが英語ができるのかといえば、これも全くできないのである。あとで聞くと、大抵そういう時は、お客さんの誰かが相手をしてくれるものだそうだ。
このアバウトさは、見上げたものだ。
そして実際きのうは、たまたま隣に座っていた、ちょっと英語が話せるオレが、彼らの相手をしたわけだ。
インドネシアから旅行で来て、明日朝の飛行機で帰るそうだ。彼らの食べたいものを女将さんに通訳し、その答えをまた通訳する。
イスラムだから豚肉が食べられないということで、汲み上げ湯葉やら鴨やら焼き魚やらは大喜び。オレは帰るに帰れなくなり、ビールをもう一本とチンゲンサイのキムチを注文した。
1時間ほどのあいだに5~6品を平らげて、
「日本での最後の夜を最高に満喫できた」
と喜んで、二人は店を出ていった。
その帰り際、「お礼に」と、オレにビールを一本奢っていくのだ。
すると言うまでもなく、それを飲むためにさらに長居になるわけだ。夜は更けていくのである。
先客の男女3人連れが帰ると、入れ替わりに20代前半の女性二人連れが入ってきた。さらに東京から出張できているというビジネスマン、近所で商売をしているという年配の男性が入ってくる。
インドネシア人が帰ったあとも、女将さんを中心としながら、カウンターで気の置けない話がつづいた。
店を出たのは11時半だったから、結局4時間もいたことになる。
きのうのお客さんは、インドネシア人を含めて半分近くは一見さん。それら一見さんを、女将さんはかまわず受け入れ、しかも自然に、話の輪に引き入れる。
それを何も、女将さんは計算してやっているのではないと思う。天性の明るさが、お客さんの心を溶かし、たがいにやり取りさせるのだ。
そういう意味では、この女将さん、居酒屋の女将は天職だろう。
ぜひこれからも、無理せず続けてほしいと思う。
おふくろ
京都府京都市下京区七条通新町東入東塩小路町590-9
075-351-1855
営業時間 17時~23時
定休日 土日祝日
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