きのうはお世話になっている京都・大宮のバー「スピナーズ」の4周年記念パーティー。
「スピナーズ」は、会話一本で4周年をむかえる大した店なのだ。
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「スピナーズ」はぼくが「Kaju」につづいて、大宮で2番めに定着することができたバーで、通い始めたのはオープンして半年くらいたったころからではないかと思う。
京都の飲み屋は、東京育ちのぼくにとって、どう振る舞ったらいいのか初めのころはよく分からず、特に立飲み屋などの、店主の仕切りが全くなく、しかもお客さんが立ち位置を自由に変えるような、わりと混沌とした店は、完全にお手上げだったのだが、その点、「Kaju」や「スピナーズ」では、関東ほどではないにせよ、マスターがちょっと強めに仕切るので、居場所を見つけやすかったのだ。
「スピナーズ」では、お客同士で話す楽しみを、初めておぼえた。
店主の仕切りが弱いところでお客さん同士で話すというのは、もちろん話すこと自体は何もむずしくないのだが、「楽しく話す」にはそれなりの技術というか、間合いというか、そういうものが必要となる。要はこちらもあちらも、気心が知れなかったり、気分が乗らなかったりしたまま話しても、疲れるだけで楽しくはないからだ。
店主がまったく仕切らない店では、自分と相手の気持ちを合わせるところから、全て自分でやらないといけないのだが、スピナーズでは、そこをある程度、マスターが補助してくれる。どのお客さんとどのお客さんとを隣同士に座らせるかを、マスターはそうとは悟られない自然な形で、緻密に計算するからだ。
お客さんが入ってきたとき、その一人ひとりについて、マスターは「この人を誰の隣に座らせるか」を、おそらく考えていると思う。ただ空いている場所に座らせるというだけではなく、もし席が空いていなくても、「この人の隣に座らせたらいい」と思う場合は、3人か4人かをまとめて、横に移動させたりすることもある。
そうしてお客さんを順に入れながら、「会話が盛り上がるカウンター」を、マスターはつくり上げていくのである。
何しろスピナーズには、ツマミがほとんどない。
普通はバーでも、多少の料理を出すことで、客単価を上げると同時に、お客さんが手持ち無沙汰にならないように配慮する。とりあえず料理を食べれば、べつに誰とも話さなくても、居場所があることにはなるからだ。
スピナーズでも、一時はツマミをいくつか出そうとしていたが、この頃は、それはまたやめたみたいだ。そのやり方は、マスターの性に合わないのだろう。
ツマミを出さず、酒一本で店を成り立たせようとすれば、とにかくお客さんが楽しく会話してくれるしかない。人と会話してはじめて、お客さんは居場所が見つかることになるし、さらにお酒の杯も進んで、経営的にもプラスになる。
スピナーズのマスターは、そうして人と人とを自然に会話させることに、やはり才能があるのだと思う。
それでぼくも、スピナーズへ通い始めて、はじめて他のお客さんと自然に話せるようになった。顔見知りの常連さんも増え、きのうも、このごろはちょっとサボっているから、知らない、新しいお客さんも多かったが、以前からの常連さんは、ほとんどが「知り合い」ということになっている。
このような「会話一本」のやり方は、バーの経営方法としてはかなり「リスキー」だといえるだろう。経営は、何重にも、安全装置をしかけておくのが常道だ。
しかしそうして4年、スピナーズは堂々と続き、しかも新しいお客さんもどんどん増えているのだから、「大したもの」と言うしかない。
きのうもぼくが店に入ると、カウンターの一番端に案内された。
隣には、ぼくより年上、および年下の画家が2人ならんで座っていて、ぼくがその人たちと話すと盛り上がるのを、マスターは分かっているからだ。
ちなみにスピナーズは、1年前くらいから、若い女の子のアルバイトが入るようになっている。最低限マスターと、この女の子たちは話し相手になってくれるから、隣のお客さんとの話が万が一盛り上がらない場合でも、とりあえずは手持ち無沙汰にならない仕組みだ。
若い画家の男性は、ぼくは彼が描く絵も好きで、また芸術論も、ぼくが好きな話題の一つだ。さらに彼は、反原発運動にもかかわったりしているから、なおさら話が合って、ひとしきり話をした。
するとそのうち、美人の女子がいることに気がついた。見たことがない顔だったが、つい最近、来るようになったらしい。
それでぼくは、女子の隣がたまたま空いていたから、そちらへ移動。
しばらく話をさせてもらった。
しかし美人の女子がいると、そのまわりには、男性がワラワラと集まってくるものだ。そのうち揉みくちゃになり、女子もどこかへ行ってしまったから、ぼくもまた席を移った。
最後は近くのイタリアンバルのマスターがいたから、ぼくはその隣に座った。
マスターはいじめっ子の性格のようで、チェブ夫にかならず、変なポーズを取らせるのだ。
しかしイタリアンバルの従業員の女の子が、おしぼりの布団にチェブ夫を寝かせてくれ、事なきを得た。
イタリアンバルのマスターは、ぼくが大阪の中国居酒屋にハマっているのを知っているから、
「大阪ばかりじゃなく、ちゃんと大宮にも来てくださいよ」
と、念を押される。
ぼくも分かってはいるのだが、何しろハマっているから、仕方ないのだ。
そうこうするうちに、あっという間に午前2時を過ぎてしまった。まだお客さんはたくさんいて、ぼくももっといたい気もしたけれども、このまま残ってしまったら朝になるのは確実だから、家に帰ることにした。
マスターから、
「こんな、やりたいようにしかやらない奴ですけど、これからもよろしくお願いします」
と、お見送りされて、スピナーズを出た。
家に着き、小腹が空いていたから、うどんを食べることにした。
うどんをお湯であたためて、お湯ごとどんぶりに入れ、とろろ昆布と削りぶしをかけ、みりん・ほんの少々と淡口しょうゆで味付して、ネギをかけ、梅干しをのせる。
おとといに続いてきのうも深酒したのだが、それも仕方がないだろう。
やはり人間、義理を欠いてはダメなのだ。
「あしたは仕事もガンバってよ。」
そうだよな。
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