料理の初心者は、料理を難しく考えすぎてしまうところがあるのではないかと思う。
魚はどんなものでも塩焼きすれば、そして野菜は塩ゆですれば、まずは間違いなくうまいのである。
自炊をつづけるのは意外に難しいことだとぼくは思う。
自炊を始めてみたけれど、結局挫折したという人は、少なくないのではないだろうか。
自炊がつづけられないことにはいくつも理由があると思うけれども、まずは「モチベーション」の問題が大きいだろう。
結婚して専業主婦にでもなれば、料理は「仕事」のようなものになるから、「しなければいけない」という強制力が働くけれど、ひとり暮らしなら、料理はしないならしないで済んでしまうから、一旦やらなくなってしまうとそのままになってしまいがちだ。
それからひとり暮らしだと、「残り物」の問題も大きい。
このあいだ2回にわたって書いたけれど、店で売っている食材は、ひとりには量が多すぎるものがほとんどだから、それなりの工夫をしない限り、食材の残りが溜まっていってしまうことになる。
そのほかにも、自炊がつづきにくい理由は色々あると思うけれども、料理をやり始めた初心者は、
「料理を難しく考えすぎてしまう」
ことも、理由の一つなのではないかと思う。
頑張りすぎて疲れてしまい、おまけにやらなくても済むことだから、そのままやらなくなってしまうということだ。
「料理を始めよう」と思うと、まず初心者向けの料理本を買ってみたりすると思う。
そこには色々な料理が載っているから、それを取っかえ引っかえ作ってみるだろう。
もちろん、それを「悪い」と言っているのでは決してない。
どんなことでも思い立ち、努力してみるのは尊いことだ。
ただ、今日はとんかつ、明日は煮魚、その次は肉じゃが・・・、というのを本を見ながら作っていくのは、いかにも「やりすぎ」なのである。
そんなことを続けていたら、疲れてやめたくなってしまうのは、あたりきしゃりきのコンコンチキだ。
ベテラン主婦なら、とんかつにしても煮魚にしても、本を見ないで作れるから、毎日やるのもそれほど大変なことではない。
だから初心者も、たまには本を見て作ってみるのもいいけれど、まずは本を見ずに作れるものを、毎日のメニューのベースにしたらいいのではないかと思うのだ。
それには、「塩焼き」と「塩ゆで」なのである。
「塩」は最強の調味料なのだ。
魚にしても、肉にしても、まず間違いなく、塩だけふって焼けばかなりおいしく食べられる。
下手に色んな調味料を入れてしまうと、かえってまずくなることはあるが、塩だけなら、おいしいのである。
さらにここに、調味料を加えるなら、ポン酢醤油である。
「塩焼きしてポン酢醤油をかける」ことは、日本人にとっては最強の料理法なのだと思う。
野菜にも、まったく同じことが言える。
塩ゆでして、削り節でものせ、ポン酢醤油をかける。
生のほうがおいしいものは別として、これでおいしく食べられない野菜は、まず思い付かない。
この塩焼きや塩ゆでをベースにして、一品くらい、多少手のかかったものをメインに持ってくるように考えれば、料理もそれほど大変なことではないのではないだろうか。
ただそうは言っても、
「塩焼きや塩ゆでは料理ではない」
と思う人もいると思う。
たしかにそう言えないこともなく、
「料理ではないものばかり作っているのは虚しい」
と思う気持ちも分かる。
しかしこれは、「料理」という言葉が悪いのだ。
「料理」は本来、「食材を人間が食べられるように手を加えたもの」という意味であるはずだろう。
ところが「料理」は、実際にはそうなっていない。
たとえば「漬け物」は、それを作るのにどんなに手がかかっていたとしても、「料理」とは呼ばれないのではないか。
「料理」という言葉は、おそらくわりと最近、できたのではないかと思う。
まあ詳しいことは、まったく分からないのだが、少なくとも間違いないのは、「文字ができて以降」ということである。
そうすると、「料理」という言葉ができた時、新しい言葉だから、その当時流行していた料理法に対して、「料理」と呼ぶようになったのではないだろうか。
だからそれ以前からあった、塩焼きや塩ゆで、漬け物などのやり方は、「料理」とは呼ばれないことになったのではないかと思うのだ。
いずれにせよ、「料理」という言葉は、ある傾向を持ったものなのだから、自分の作る料理が「料理なのか、料理ではないのか」など、気にしなければいいのである。
特に自炊は、「自分がおいしく食べられればそれでいい」のだ。
それでそのうち、興味が湧いたら、あれこれと手を広げてみたらいい。
そうやって無理なく広がっていった世界こそが、自分の血となり、肉となっていくものなのだと、ぼくは思う。
というわけで、昨日はぼくも、サンマを塩焼きにした。
塩焼きは、サンマの最も簡単な、そして最もうまい、料理法の一つである。
昨日はさらに、魚屋の女将さんから、サンマ塩焼きのおいしい食べ方を教わった。
サンマ塩焼きの、4分の1尾分くらいなもので、一膳のご飯には十分なのだが、それをほぐして、薬味といっしょにご飯に混ぜこむ。
薬味は昨日は、細切りのショウガとみょうが、大葉、それに煎りゴマを入れたけれど、奥さんは、ショウガに青ネギ、タクワン、それに煎りゴマを入れると言っていた。
醤油をチロリとかけまわして食べるのである。
昨日はあとは、ピーマンとシメジの卵炒めを作った。
何でも炒めて、卵で閉じてしまうのは、簡単で、しかもうまい。
フライパンを中火にかけてバターを溶かし、細切りにしたピーマンと玉ねぎ、それにシメジをサッと炒める。
野菜がしんなりしてきたら、うすくち醤油で味をつける。
卵を入れ、あまりガチャガチャかき混ぜず、大きめにまとめる。
皿に盛り、黒コショウをふる。
とろろ昆布の温奴は、もう完全に定番になっている。
「一品足りない」と思ったときは、ナスの塩もみがオススメだ。
「鯛の塩焼きはうまいよね。」
あれはどの料理よりおいしいな。
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コメント
ホント、魚も肉も塩焼き+醤油系の調味料で呆れるくらい美味いですよね!