ひとことで言えば中華風のあんかけそばの、麺にうどんを使ったもの。手軽に使える袋入りのゆで麺は、ヘタな中華麺よりうどんの方がうまいからです。
ただしこの作り方を考える場合には、「関西風うす味うどんからの拡張」とすると理解しやすく、応用もしやすいです。
日本の料理は欠陥品
日本に生まれ育った以上、日本の料理に愛着を持っているのは筆者も例にもれませんが、この日本の料理、冷静に歴史をたどると権力の都合で非常に制限された、「欠陥品」ともいえるものだと考えられます。
日本ではまず奈良時代に肉食が、そして鎌倉時代ににんにくやニラなどの「五葷」が、当時の権力によって実質的に禁止されました。またにんにくの禁止により、にんにくを始めとする香味野菜を油で炒め、それを味のベースとする世界のグローバルスタンダード料理法も、ついぞ取り入れられませんでした。
肉を食べられなかったため、ビタミンB欠乏症である脚気が多く発生し、また代謝が低下して身体が冷えやすくなるので、身体を温めるために鍋料理や熱燗・風呂などにたよる文化が発達したと思います。
料理自体も味のベースが貧弱であるために、料理に重層的な構造を構築できず、少数の素材をもちいた料理が中心で、その単調さを補うため、旬や新鮮さ、色合いなどに過度にこだわるようになっているのではないでしょうか。
さらに戦後になると、魚ばかりで油の少ない、新鮮さにこだわるために価格が高い日本の料理は時代遅れとなってしまい、家庭や飲食店ではラーメンやカレーを代表とする、中華・インド・洋風・エスニック・韓国など外国の料理をたべることが主流となってしまっています。
この日本の料理の欠陥が、日本人がみずから選び取ったものならば、まだ尊重する価値はあります。
でもそうではなく、日本の料理はあくまで権力の都合によりこうなっているのだから、それを修正・改善し、より現代人の好みに合うガッツリとしたものにしていくことは、日本人にとって重要な課題であると、筆者はつねづね考えています。
日本の料理を拡張すれば応用がききやすい
肉やにんにく・油を使った料理として、いきなり外国の料理に飛びつけば、日本の料理は取り残されて、発展しなくなってしまいます。でも日本の料理も、そこから出発しながら拡張をすることで、世界標準のガッツリとした味に仕立てることができ、そう考えたほうが日本人にとっては応用がききやすいです。
例をとると、関西風うどん。これは味の構成は次のようになっています。
- ベース ……なし
- スープ ……かつおだし
- うまみ ……しょうゆ(うすくち)
- 甘み ……みりん
- 酸味 ……ゆずなど(好みでかける)
- 辛み ……一味や七味唐辛子( 〃 )
- トッピング ……青ねぎ
これを世界標準に拡張するには、最もシンプルにいえば「欠けているベースを補う」だけ。にんにくと唐辛子・肉を油で炒める工程をくわえます。
ただしこのベースは味の支配力が強く、また水と分離しやすいので、次のようにするとよりバランスのとれた味になります。
- スープの素材として、かつおだしよりも味が強いナンプラーを使う
- 唐辛子にはよりコクがある豆板醤をつかう
- 青ねぎはにんにくの代用品なので省く
- 唐辛子の量に見合った酢を入れる
- 油と水の分離を解消するため、片栗粉でとじる
- ゴマ油やコショウで風味をつける
上のように味つけを修正すると、できあがりは「中華風あんかけうどん」と呼ぶにふさわしい、中華・東南アジア的な趣きになりますが、これは実際に中国や東南アジアでつくられている料理とはちがいます。あくまで「関西風うどんを拡張したもの」で、筆者としてはこれを「TAKE BACK 日本料理」と呼びたいです。
「TAKE BACK」は「とりもどす」の意味で、「日本料理に肉とにんにくをとりもどす」の気持ちが込められています。
中華風あんかけうどんを作る際のコツ
中華風あんかけうどんは、フライパン1つで最初から最後まで作れ、致命的な失敗もあまり思い付きませんので、初心者でも手軽につくれる料理といえると思います。
作る際のコツは以下の通りです。
1.火加減は弱火~中火
中華というと「強火」と思う人も多いと思います。でも強火は訓練された職人だから扱えるもので、シロウトには向きません。
火加減は、弱火~中火が基本。火を弱くたもてば肉も固くなりにくいですし、火を使っているあいだに野菜などを切ったりする時間も確保でき、下準備も必要なくなります。
2.野菜によって火を通す時間を変える
野菜をシャッキリと仕上げるのは、おいしく作るための一つのポイントです。今回はたけのこと玉ねぎ・ピーマン・トマトを入れました。
このうちたけのこは、長く火を通してもクタクタになりませんので、じっくりと火を通して味をしみさせるようにします。それに対して玉ねぎ・ピーマン・トマトは、瞬間的に火が通りますので、いちばん最後に入れてひと煮立ちさせるだけにします。
3.麺は好きなものを使ってもOK
麺は袋入りのゆで麺を使うのが、圧倒的に手軽です。ゆで麺はヘタな中華麺よりうどんの方がうまいですが、もしお気に入りの中華麺があるなら、それを使うのでもちろんOK。
じつは筆者は、「沖縄そば麺」を使っています。これは非常にウマイので、もし手に入るようなら使ってみるのはおすすめです。
作り方
STEP1 にんにくと豚肉・豆板醤をじっくり炒める
フライパンに、
- サラダ油 大さじ1(オリーブオイルだとさらにウマイです)
- にんにく 1~2かけ(みじん切り)
- 豆板醤 小さじ1
- 豚こま切れ肉 50~100グラム(食べやすい大きさに切る)
を、豚肉は広げて入れ、
- 塩 小さじ8分の1(ほんの1つまみ)
を豚肉の上にパラパラかけます。
弱火をつけ、ジュージューいい出してから5分くらい、炒めるというよりは焼肉でも焼くようなつもりで、箸で豚肉をひっくり返し、豆板醤をなすりつけながらじっくり焼きます。
STEP2 調味料と水を加えて煮る
- 水煮たけのこ 4分の1本など(3ミリくらいの厚さに切る)
を加えて1分くらいさらに炒め、たけのこに味のでた油を絡ませたら、
- 酒 大さじ2
- みりん 小さじ2
- うすくち醤油 大さじ1
- ナンプラー 小さじ2
を加え、1~2分炒めて味をなじませます。
- 水 400cc
を入れ、フタをして中火にし、煮立ってきたら弱火にして10分くらいコトコト煮ます。
STEP3 野菜と麺をくわえて片栗粉でとじる
味をみて、たぶん塩気が足りないと思うので、
- 塩 少々
を加えたら、
- 玉ねぎ 4分の1個(1~2センチ幅のくし切り)
- ピーマン 2分の1個(1~2センチ幅の食べやすい大きさ)
- トマト 2分の1個(1~2センチ幅のくし切り)
- うどん 1人前
を入れ、フタをして中火にし、ひと煮立ちさせます。
弱火にもどして、
- 片栗粉 大さじ2
- 水 小さじ1
を混ぜながら少しずつくわえてトロミをつけ、
- ゴマ油 小さじ1
- 酢 小さじ1(酢の量は、豆板醤と同量)
- コショウ 少々
をかけて器によそいます。
ピリ辛味にトマトの酸味がさわやかで、またナンプラーがまたいい仕事をしていて、58,022回くらいは死ねます。
トロミがつけてあるので、汁が麺によく絡むのも、たまらないところです。
中華あんかけうどんの応用例
この中華風あんかけうどん、かなり広く応用がききます。応用例は次の通りです。
酸辣湯うどん
先日レシピをアップした酸辣湯うどんは、上のレシピとほぼ同じ。ちがいは豆板醤と酢が大幅に増量されているだけです。
青菜うどん
つくり方は同じでも、具をとり替えればまったくちがう料理になります。これは上のレシピでピーマン・トマトのかわりに小松菜としめじを使ったもの。
しめじと卵炒め
汁の量を減らせば炒めものにもなります。このしめじと卵炒めは、上のレシピから水と調味料の量を半分(豆板醤と片栗粉は変えない)にして、野菜はたけのこ・玉ねぎ・小松菜・しめじとし、あらかじめ油で炒めた卵を加えたものです。
その他の応用の可能性
カレーうどん
上のレシピで、炒める工程の最後にカレー粉・大さじ1を加えれば、そのままカレーうどんになります。
マーボー
上のレシピの水と調味料の量を半分にし(片栗粉は変えない)、豆板醤を大さじ1、コショウをたっぷりとすると、マーボーになります。
トマトソース
上のレシピで水のかわりに水煮トマト缶を使えば(ただしオリーブオイルをたっぷり使い、片栗粉は使わない)、トマトソースになります。
まとめ
以上のように日本料理である関西風うどんを「TAKE BACK」することにより、中華風から洋風のものまで、さまざまな料理に拡張することができます。つくり方はすべて、これまでなじみがある日本料理の延長にあるものですから、家庭でも、レトルトなどの調理素材を購入しなくても、自分で味を考えられるのではないでしょうか。
またTAKE BACK 日本料理は、海外の料理を理解する上でも役立ちます。
例えばマーボーには、通常のレシピでは「甜麺醤(テンメンジャン)」を使うことになっています。でも甜麺醤は成分をみると、
- 豆みそ(=八丁みそ)
- 砂糖
- ゴマ
- しょうゆ
が含まれているものであり、日本料理でふつうに使う調味料で完全に代用できます。
TAKE BACK 日本料理に通じることで、訳の分からない、一度使ったら二度と使わない調味料がひたすら棚に並んでいくのを避けることも可能です。