マーボーは、まずはそのピリ辛味が、特に夏にはバツグンにうまい上、バリエーションを色々つけて、さまざまな具材に応用できる。
おまけに安いと来ているわけで、きょうのこのマーボー豆腐など、豚ひき肉は100グラムで100円。それに豆腐は、1丁60円。
調味料の費用などを考えに入れたとしても200円、これで2食分だから、1食100円。
奥さん、いかがですかこれ、作らないわけにはいかないでしょう、というわけで、きょうもマーボー豆腐なのであった。
きょうのマーボー豆腐は、陳建民風のマーボー豆腐だ。
陳建民は、「マーボー豆腐の父」である。そしてもちろん、陳建一の父でもある。関係ない。
日本にはじめてマーボー豆腐を紹介したといわれていて、丸美屋が今日栄えているのも陳建民のおかげである。
ところがこの陳建民のマーボー豆腐、レシピをみると、いまどきの一般的なマーボー豆腐とは、ちょっとちがう。
まあ豆鼓(ドウチ)やら花椒(ホワジャオ)やらの、流行の調味料が加えられていないのはもちろんのこととして、水を加えていないのだ。たっぷりの油に、豆腐と液体調味料の水分だけで煮るようになっている。
いわば「炒め煮」というわけで、マーボー豆腐はもともと中国では、そういう料理なのだろう。今のようにスープを加えて煮るようになったのは、汁物好きの日本人に合わせたものとおもわれる。
何事も、歴史をひもとくのは大事なことだ、というわけで、これを以前つくってみたところ、大変うまい。べつに汁の入ったマーボーと、遜色はまったくない。
おまけに汁を入れない分、余計な手間や材料もいらないわけで、これはマーボー豆腐の作り方として、非常におすすめなのである。
ただし陳建民のレシピから、変更点もいくつかある。
まず油は、陳建民は、なんと「大さじ3」も使っているわけなのだが、ここまで使わなくても、十分おいしくできるから減らしてある。
中国人が、ここまで油を使っても問題ないのは、たぶん日本人のように、マーボーをご飯にかけないからではあるまいか。炒めものをご飯にかければ、油はすべてご飯にしみるのにたいし、皿に入れれば、油は皿に残るからだ。
それから陳建民は、豆板醤と甜麺醤の基本調味料のほかは、酒としょうゆ、コショウ少々だけなのだが、オイスターソースを少しと粗挽きコショウたっぷりをかけ、コクとアクセントを増すことにする。
あと陳建民は、豆腐を「1.5~2センチ角に切る」としているが、陳建民が家で作ったとされるれる、孫の建太郎のレシピによれば、豆腐はズブズブにくずした、おぼろ豆腐みたいになっている。
なのでもうはじめから、豆腐は切って入れないで、でかいままガツンと入れて、スプーンでくずしながら煮るようにした。
あと陳建民は「甜麺醤(テンメンジャン)」を使うのだが、これは八丁みそとみりん、ゴマ油で完全に代用できる。
へたに一緒になったものより、日本人にとっては、みそとみりん、ゴマ油と分かれていたほうが直感的にわかりやすいし、八丁みそは使い出がとてもあるから、常備するのはおすすめだ。
作るのは、弱めの火でじっくりとやるのがコツ。
中華料理屋が強火でやるのは、車でいえばプロのレーサーによるレースみたいなものであり、素人は、安全運転しないと事故るのがオチだ。
フライパンに、
- サラダ油 大さじ1
- 豚ひき肉 100グラム
を入れて弱めの中火にかけ、スプーンなどで押しつぶしてほぐしながら2~3分、ひき肉の水気が飛ぶまでじっくり炒める。
途中、ひき肉の水気がおよそ飛んだあたりのところで、酒・大さじ1を加えて風味をつけ、1~2分、焼色がついてくるくらいまでさらに炒める。
ひき肉に油が吸われているから、サラダ油・大さじ2分の1くらいを足し、
- 豆板醤 大さじ1
- 八丁赤だしみそ 大さじ1
- ニンニク 1かけ (みじん切り)
を加えて、弱火で2~3分じっくり炒め、味をひき出し、なじませる。
マーボーは、とにくもかくにも、ひき肉をよく炒めることがコツなのだ。
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- しょうゆ 大さじ1
- オイスターソース 小さじ1
- コショウ 少々
を加えてひと混ぜし、木綿豆腐・1丁を切らずにそのまま入れる。
スプーンなどで好みの大きさにくずしながら、10分くらい、コトコトと弱火で煮る。
細かく刻んだネギ(青でも白でも)を加えてひと混ぜし、
- 片栗粉 大さじ1
- 水 大さじ1
の水溶き片栗粉を、混ぜながらすこしずつ入れて、トロミをつける。
ゴマ油・小さじ1を加え、さらにひと混ぜして皿に盛る。
粗挽きコショウをたっぷりかける。
これは、ウマイ……。
調味料の原液による濃厚な味が、豆腐にしみまくっていて、確実に死ねる。
粗挽きコショウによるアクセントもきいていて、1食分100円とはとうてい思えない豪華な味だ。
そっしてこれがもちろん、これが酒に、合いすぎるくらい合うのである。
これで「飲むな」と言うのなら、「それを言っちゃあおしめえよ」というくらい、情け知らずというものだ。
「飲み過ぎるなと言ってるだけだよ。」
そうだよな。