豚肉の吸物は「肉吸い」の一種で、肉吸いは「肉」という以上関西では牛肉なのだが、豚肉や鶏肉で作られることもけっこうある。元々は大阪のうどん屋で、吉本のある芸人が「肉うどんのうどん抜き」を好んで食べたことが発祥だといわれていて、作り方をひとことで言ってしまえば「うどんダシで肉を煮たもの」だ。
関東だとうどんに肉を入れることはあまりないから「うどんだしに肉だと生臭くなるのでは?」と思うかもしれないけれど、そんなことは全くない。コッテリとした肉のうまみにカツオだしの風味がぷんとしてくるのは大変よく、酒の肴やご飯のおかずになることこの上ない。
この肉吸いにすり下ろしたニンニクとたっぷりの唐辛子を入れるとさらにうまいのを知ったのは、在日コリアンである「あらい商店」の大将に教えてもらったことがきっかけ。「カツオだしにニンニク」など日本人は決して合わせることがないわけで、それこそ水と油のような気がしたのだが、実際にやってみると実にうまい。味の奥行きが広がって、カツオだしだけの時よりバランスが良くなる。
だいたい肉とニンニクの相性のよさは知れたことだし、カツオもたたきにする時は、日本の料理には珍しくニンニクを薬味にする。だから本来、肉とカツオだし、それにニンニクは「黄金のトライアングル」と呼べるものであるわけで、それを単に日本人が頑なに拒否していただけかもしれない。
この「吸物にニンニクと唐辛子」の法則を知ってしまってから、僕はもうただの吸物を飲む気がしなくなってしまったのだから、困ったことだ。
さてきのうは、この豚肉のニンニク入り吸物にキムチを入れた。
唐辛子がうまいのだから、キムチもうまいのは知れた話。カツオだしにキムチのコクがつき、ちょっとコッテリ目の吸物になる。
作るのは異常に簡単で、ニンニクを加えた豚肉の吸物を作り、キムチをトッピングするというだけ。好みではじめはキムチを入れず、唐辛子だけにして、あとからキムチを加えるようにするのもいい。
日本人の固定観念をぶち壊す、衝撃的な味だから、ぜひ試してみるのがオススメだ。
この料理を作るには、まず最大のコツはカツオ節をしっかりと使うこと。水1カップにたいして5グラム、2.5グラム入りミニパックなら6袋分が目安であって、カツオ節も安いものではないけれど、ガツンと入れるようにする。
それから酒を、入れ過ぎないのもコツとなる。酒はうまみの素であると同時に、魚などの臭みを消す働きがある。なので酒を入れ過ぎると、カツオだしの風味が飛んでしまうのだ。
きのうは水3カップに大して大さじ1としたのだが、ニンニクも入るから全く入れなくてもいいかもしれない。
あとはうす切り肉を煮る場合、煮すぎないことも大きなコツ。しゃぶしゃぶやすき焼きなどでするように、色が変わったらすぐに食べるのが一番うまい。できる限りあとで加えるようにして、色が変わったらできるだけ早く火を止める。
野菜は好きなのを入れればよく、きのうは豆腐と長ねぎ・もやし・ニラとしたけれど、水菜や白菜などの菜っぱ系に油あげとかでも大変おいしい。
鍋に3+2分の1カップ(3カップのだしが取れる)の水を入れて火にかけ、沸騰したらザルを据え、15グラム(ミニパック6袋分)のカツオ節を入れる。
弱火にして30秒くらい煮出したら火を止めて、2~3分してからザルをとり出し、スプーンの裏などでだし殻を軽くしぼる。
取れた3カップのだしに、
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 薄口醤油 大さじ3
- ニンニク 1~2かけ (すり下ろす)
で味をつけ、食べやすい大きさに切った豆腐1丁を弱火で5分くらい煮る。
スができるので、火加減はまったく沸騰しないくらい弱くするのがオススメだ。
- 長ねぎ 1本 (斜め切り)
- もやし 2分の1袋
- 豚うす切り肉 200グラム (きのうはロース。食べやすい大きさに切る)
を加えて2~3分、やはりあまり大きく煮立たないように火加減を調整しながら煮、豚肉の色が変わったら、味をみて塩を足す。
最後にニラ・2分の1把(ざく切り)を加え、30秒くらい煮たら火を止める。
器によそい、キムチを乗せる。
これは死ぬ・・・・・・。
アッサリとしながらも、しっかりとコクがある。
豆腐とキムチの相性も、言うまでもなくまた最高。
あとは、白めし。
酒は、焼酎水わり。
こうも毎日、酒に合うものばかり作ってしまうから、どうしても飲み過ぎることになるのも仕方がないというものだ。
料理が上手くなるのも、そういう意味では考えものだ。
「料理の腕は飲み過ぎとは関係ないよ。」
そうだよな。