50を過ぎると、まったく、体にガタがくる。特にテキメンなのは「歯」で、食事のたびに、よっぽどていねいに歯みがきし、さらに歯間ブラシまでしないとすぐに歯茎が腫れてくる。
同年代の友達や知り合いでも、前歯がゴソッと抜けてしまった奴は、何人もいる。
人間の体の耐用年数は、50年ということなのだ。ついこないだ、戦後すぐくらいまでは、日本人の平均余命は50年だったそうだ。
体が50年で耐用年数をむかえるなら、おれも、それに合わせてお亡くなりになりたいところだ。でも今は、医療や衛生技術が発達してしまったおかげで、なかなかそういうわけにもいかない。
それで仕方なく、毎食毎食歯ブラシし、歯間ブラシもしているのだ。
今も、歯茎が腫れている。これがまた厄介で、歯茎に挟まった食べ物カスが原因ではないのである。
おれは、右上の奥歯の歯根のあたりに、細菌を飼っている。これは以前やった歯の治療が不手際だったことが原因で、治療跡から侵入したものらしい。
普段はおとなしくしているのだが、風邪を引いたり、歯茎に食べ物カスが挟まったりすると、暴れだす。
免疫細胞がほかのことで忙しくなり、自分たちへの防御が手薄になると活動をはじめるわけで、まったく油断も隙もない奴らだ。
歯医者へ行けば、もちろん治療はしてくれる。でも以前、左上の奥歯の歯根がおなじ状態になったとき、治療をしたら、まず抗生物質を投与され、つぎに奥歯をガリガリと削って穴をあけ、消毒して、さらに歯に被せ物をするというので、2~3ヶ月の期間がかかった。
痛いし、カネはかかるしで、「これはやっていられない」と、もう右上のやつは、歯医者へは行かないことにした。
それで、細菌が暴れだすと、「てめえらナメんなよ」とドスを利かすことにしている。すると免疫細胞たちが張り切って、頑張ってくれるのだ。
免疫細胞の手にかかれば、歯医者で3ヶ月かけるまでもなく、炎症は3日ほどで、だいたい収まる。収まるのだが、どういうわけか、免疫細胞は、最後のトドメは刺さないのだ。
なので細菌は歯根部分に潜んだままで、防御が手薄になれば、また暴れ出す。
そのたびにドスを利かせて、免疫細胞を叱咤激励しないといけなくなるわけで、まったく面倒なことこの上ないのだが、まだお亡くなりになれない以上、仕方がないのである。
さてきのうは、買ってから2週間ほどがたち、いい具合に酸っぱくなった、コリアタウンのキムチがあった。そこでこれを、料理で使い切ることにした。
キムチは、買ってすぐのやつは、そのまま食べるのがもちろんウマイ。そして日がたって酸っぱくなったのは、炒めたり煮込んだりするのに適したものになるわけで、「2度おいしい」という企画なのだ。
キムチの汁もたっぷりとあったから、キムチ汁にすることにした。
具は、まずは豚肉。それにじゃがいもとニンジン、玉ねぎ、皿に厚揚げを入れ、「豚じゃがのキムチ汁」とシャレ込んだ。
豚じゃがや肉じゃがは、日本風に作ると、汁は飲むのに適していない。淡白な味のじゃがいもを煮るためには、だしは、薄くてもおでんだし程度には、甘みをつけないといけないからだ。
汁を飲むなら、やはり甘さ控えめの吸物。吸物に芋を入れるなら、ねっとりと甘い「里芋」という話になる。
そこで「キムチ」が登場するわけだ。汁に入れれば、しっかりとコクがありながら、甘みを抑えることができるキムチは、じゃがいもとは相性抜群。
キムチを使えば、「豚じゃがを汁物として楽しむ」ことができるのだ。
キムチを汁物の味つけとして使う場合、やはりまずは、キムチの量が必要。とくにキムチの「汁」が多いほどおいしくなるから、汁の多少は、キムチを選ぶ際の大きな目安だ。
キムチの汁の量が十分なら、調味料は、ほかには塩だけでいい。でもなかなか、それだけの汁が入ったキムチは手に入らないわけで、その場合には、調味料を足すことになる。
ここで注意が必要なのは、キムチ料理にコチュジャンは使わないこと。コチュジャンは味が強いから、ちょっと入れると、たちまちキムチではなく、コチュジャンの味になってしまう。
なのでキムチを使う料理には、入れる調味料は酒とみりん、淡口醤油またはみそ。
あくまで、「キムチをサポートする」と考えることが必要だ。
鍋に、
- ゴマ油 大さじ2~3
- 頭とわたを取った煮干し 1つまみ
- キムチとキムチの汁
を入れて、フタをして弱火にかけ、時々混ぜながら、10分ほど蒸し焼きにする。
キムチは、きのうは300g入りパック3分の1(100グラム)程度。そのかわり、キムチの汁は、ドバっと入れた。
キムチの汁がそれほどなければ、キムチをパック半分くらいは、入れてしまっていいはずだ。
キムチ料理には、キムチをケチらないことが肝心だ。
10分たったら、
- 3~4センチ大のゴロゴロに切ったじゃがいも 中2~3個
- 2~3センチ大のゴロゴロに切ったニンジン 2分の1本
- 横のうす切りにした玉ねぎ 2分の1個
を入れて炒める。
野菜に油が絡んだら、1~2センチ幅に切った厚揚げ・5センチ大ほどと、水・3カップをくわえる。
煮立ったら弱火にし、2~3分煮て味がなじんだところで、
- 塩 少々
- 酒 少々
- みりん 少々
- 淡口醤油 少々
で味つけする。
まず塩を入れて味をみて、コクが足りないようならば、ほかの調味料を少なめに足すようにする。
フタをして、弱火で20~30分、じゃがいもが煮くずれる寸前くらいまで煮る。
じゃがいもが十分煮えたら、豚肩ロースうす切り肉・200グラムを広げて入れる。弱火のまま火を通し、豚肉の色が変わったら火を止める。
豚うす切り肉は、最初に入れると硬くなってしまうから、最後に入れるのが大きなポイント。ゆっくりと火を通せば、そのあいだに十分豚のうまみは出るし、肉に煮汁の味もつく。
皿に盛り、好みで青ねぎと、ゴマをふる。
これは、ウマイ、、
キムチの味がほっくりとしみたじゃがいもと、モチモチの豚肉。
あまりにうま過ぎて、我ながらビビった。
あとは、白めし。
キムチ味には、たくわんが合う。
それに、焼酎水わり。
きのうも、言うまでもなく飲み過ぎる。歯茎が腫れているくらいでは、飲み過ぎないことはできないのだ。
免疫細胞に働かせるだけ働かせ、こちらは気ままに酒を飲むのは、申し訳ないと思わなくはないけれど、免疫細胞諸君には、悪い主人を持ったと思い、あきらめてもらうほかないのである。
「そのうち歯がなくなるよ。」
そうだよな。