冷凍してあったスズキを炊き込みご飯にした。
炊き込みご飯は和食の入門としていいのである。
初心者が「料理しよう」と思うと、「炒め物」になりがちなのは、ぼくもわかる。
段取りがすっきりと見通しやすく、手軽な印象があるだろう。
もちろんべつに炒め物が悪いわけではなく、ぼくも炒め物はよく作る。
ただ煮物など和食料理が炒め物とくらべて面倒だったり、難しかったりするのかといえば、必ずしもそうではないのだ。
煮物は魚を使ったものなら、煮時間は10分くらいなものである。
さらにそのあと味をしみさせる必要があったりはするが、煮ているあいだも味をしみさせるあいだも、炒め物のように手をかける必要がないから別の作業をすることができる。
調理時間も献立すべてを作ることを考えれば、メインが炒め物であるのと煮物であるのとで、それほど変わらないのではないかと思う。
それをなぜ、「煮物は面倒だ」と思うのかといえば、「火が通るまでの時間が長い」からではないだろうか。
炒め物は強い火で一瞬にして火を通す。
それが現代のスピード感覚に合っているということだろう。
それにたいして煮物は、いかにもモタモタしている。
この「モタモタ感」が、「面倒」という印象につながっているのではないか。
しかし煮物は、モタモタしているからこそ、あの味になる。
煮汁に材料から味がしみ出し、混ざり合い、それがまた材料へもどっていくというサイクルにより、複雑な味がかもし出される。
必要なのは、「手間」などではなく、このサイクルが完了するのを待つ「精神」ではないだろうか。
煮物が鍋のなかでどんな変化を起こしているのか、想像しながら煮えるのを待つのはなかなか楽しいものである。
現代社会のスピードは、加速する一途だろう。
しかし時間をかけないと成し得ないことがあるのを知るのも大切なことであるように思える。
さて煮物の入門として、ご飯物から肉のおかず、野菜のおかずまで一気に出来てしまう炊き込みご飯は、手軽でありながらしかもうまく、おすすめである。
ただしもちろん、作るのを楽しむためには、炊飯器ではなく、鍋でやる必要がある。
炊き込みご飯を作るには、手早くやれば、火にかけるまで15分、炊いて蒸し終わるまで20分というところとなる。
炊きはじめてからは作業が並行できるから、そのあいだに他のおかずを作っておけば、ご飯が炊ければ、食べはじめられるわけである。
ただし炊き込みご飯は、絶対に、鍋でやらないと面白くない。
火加減を自分で調整し、鍋のなかで何が起こっているのかが想像できるからこそ、「理解」に至ることができる。
炊き込みご飯を作るには、まずは魚の切り身を使うのがやりやすい。
きのうは冷凍庫にスズキが入っていたからそれを使ったが、鯛であろうと、サワラ、サバ、鮭であろうと何でもいい。
切り身を適当な大きさに切り、塩サバ、塩鮭ならいらないが、そうでなければ軽く塩をふって、中火にかけてよく温めたフライパンで、まず皮目、それからひっくり返して、こんがりと焼き色がつくまで焼く。
あとでさらに炊くのだから、きちんと火が通らなくても焼き色がつけばいい。
魚を焼く前に、米1カップを研ぎ、よく水を切って、5センチ角くらいのだし昆布を敷いた一人用の土鍋にいれておくのがいい。
あとは魚を焼いているあいだに、ゴボウ2分1本をナイロンたわしで洗って砂を落とし、ささがきにして水にさらしておく。
油あげ2分の1枚を、3ミリ幅くらいに細く刻む。
ちくわ1本を斜めにうすく切る。
米をいれた土鍋に、まずゴボウ、それから油あげ、ちくわを入れていき、さらにスズキを、高さが平らになるように中に埋め込む。
水1カップ、酒とみりん、うすくち醤油を大さじ1ずつ、塩小さじ2分の1をいれ、フタをして中火にかける。
湯気が勢いよくふき出してきたら弱火にし、10分炊く。
さらに火を止め、10分蒸らす。
炊き込みご飯はフタを開けるときが楽しみだ。
魚とゴボウの香りがぷんとする。
わさびを乗せて食べる。
魚とゴボウの味がしみたご飯がうまい。
さらに炊き込みご飯は、お湯をそそいで湯漬けにする。
これがまた、うまいのである。
あとは火を使わないものばかりにした。
春キャベツのサラダ。
せん切りにした春キャベツにツナと青ねぎをのせ、オリーブオイルとレモン汁(ポッカレモン100)、しょうゆをひと垂らし、それに一味を振る。
ナスの塩もみ。
3ミリ厚さくらいに切ったナスを一つまみの塩で揉み、5分くらい置いてから水で洗ってよく絞り、ちりめんじゃことおろしショウガをのせ、味ぽん酢をかける。
とろろ昆布の吸物。
すぐき。
酒は冷や酒。
ご飯があるから、1杯半で終了した。
「炒め物もおいしいよね。」
ぼくも好きだよ。
◎一人用土鍋
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