タケノコの小さめのを一本買い、焼きと若竹汁にした。
タケノコの季節なのである。
食い物がたのしいのは、やはり何といっても季節のものを食べることであり、移り変わっていくそれらを順に選んでいくだけで、献立などあれこれ苦心しなくても自動的に1年中、ちがうものが食べられることになる。
これは日本のよさであり、日本人はこれまで長い長い時間をかけ、そうして季節をたのしむ様々なやり方を編み出してきているのだから、それをありがたく頂戴し、自分のものにしないのは「遠慮がちにもほどがある」という話だろう。
季節は個人商店の八百屋や魚屋へ行くと一番わかる。
個人商店は売り場が狭く、何でもかんでも置くわけにいかないから、自然季節のものが売り場の手前にならぶ。
もし家の近くに商店街があるのなら、それは今時なかなかない、幸せなことと自覚して、せっせと通う手なのである。
商店の主人と仲よくなれば、食材のおいしいタイミングや料理法など、耳寄りな情報を教えてもらえるようになる。
会社に勤めている人は、平日昼間しか開いていない商店へ行くのは「むずかしい」と思うかもしれない。
しかし「食」は、人間にとって一番大事なものなのだから、週に一度くらい会社を早退してでも、通う価値があるのである。
さてその季節なのだが、いよいよ「タケノコ」が盛りとなった。
京都ではまさに「今」で、せいぜい来週まで、全国的にも似たようなものだろう。
一年に一度のことなのだから、これを逃す手は、絶対ない。
「今すぐお店へ走るべし」なのである。
タケノコは、すぐに水煮しないといけない。
生のタケノコは時間がたつにつれアクが出てくるからで、遅くともその日中にやってしまう必要がある。
自分でやるのも大してむずかしくもないが、面倒ならまずはお店が水煮したものを買うのがいい。
水煮したタケノコは、水に浸して冷蔵庫にいれておけば、数日は食べられる。
ぼくはきのう、八百屋に水煮したのがなかったから自分でやることにした。
八百屋で皮をむき、イボイボを落とす下処理をしてもらい、ヌカを一回分もらってくれば、あとは何のことはない。
鍋にタケノコとヌカをいれ、タケノコがかぶるまで水をいれる。
これを火にかけ、煮立ってきたら弱火にし、コトコト煮る。
煮時間はタケノコの大きさによってちがってくる。
小さいものなら20~30分、大きなものなら40~50分。
根元近くに竹串をさしてみて、スッと通れば火を止める。
ヌカをていねいに洗い落としてタテに切り、半分は水に浸して冷蔵庫にいれておく。
残り半分を食べるわけだが、ここで一番大切なのは、「皮をどこまでむくか」になる。
タケノコは、皮をすこし残して水煮する。
この皮の、外側は食べられないが、芯のあたりは「姫皮」とよばれ、やわらかくてうまいから、これを捨ててしまわないようにする必要がある。
半分に割ればわかりやすいのだが、皮が重なった中心あたりが黄色くなっている。
これが姫皮で、ここを残して皮をむく。
皮をむいたあとを切り口から見るとこのように・・・、
裏から見るとこのようになる。
姫皮は、プニプニとしてやわらかいからワカメと一緒に吸物にする。
残りをどうやって食べるかは、きのうずいぶん考えた。
しかしタケノコのもっともシンプルな食べ方といえば、やはり「焼きタケノコ」なのである。
季節のものを食べるには、野菜にせよ魚にせよ、まずは「焼く」のがまちがいない。
野菜はそのまま、魚なら塩をふり、焼いてポン酢でもかける。
タケノコも同様である。
焼き網で焼き、右の3つはポン酢に一味、左2つはちょっと小洒落て塩にオリーブオイルをかけてある。
焼くと素材のうまみをもっともダイレクトに味わえる。
歯応えあり、香ばしいタケノコがため息をつくほどうまいのは、知れた話だ。
それから季節のものの食べ方として、一つ「法則」がある。
これは「絶対」ともいえるもので、これを知っておくと、季節のものをより上手に味わえるようになる。
それは、
「季節の海のものと山のものは合う」
である。
「焼きサンマに大根おろし」「ブリ大根」「真鱈の子とフキの煮物」などがうまいのは、いずれもこの法則によっている。
山のものであるタケノコにも、おなじ季節の海の相棒がいる。
「生ワカメ」である。
乾燥や塩漬けのワカメは一年中あるが、生ワカメは今の季節だけとなる。
この生ワカメとタケノコをあわせた煮物は「若竹煮」とよばれ、タケノコ料理の定番だが、吸物にした「若竹汁」も、またうまい。
生ワカメは、ゆでた緑色のやつを買ってくれば、それを一口大に切るだけでいい。
黒いのは、サッとゆでてから一口大に切る。
ゆでたワカメは、冷凍するといくらでももつ。
乾燥や塩漬けワカメとは、味も食感もまったくちがうから、今の時期に多めに買って小分けして、冷凍しておくのがいい。
タケノコやワカメなど淡い味の吸物をつくるには、一番だしを取る。
鍋に吸物2杯分、2カップ半の水と、5センチ角くらいのだし昆布をいれ、中火にかける。
煮立つちょっと手前のあたりで昆布を取り出し、今度は削りぶし、ミニパックなら4袋分くらいをいれる。
出てくるアクを取り、煮立ったら火を止めて、そのまま2~3分おく。
削りぶしが沈んだら、ザルで濾しとる。
2カップのだしが取れることになるのだが、ここにうすくち醤油大さじ1強、塩少々を味を見ながらいれ、タケノコの姫皮を2~3分煮る。
火を止めて、そのまましばらくおいて冷まし、味をしみさせる。
20~30分おいたら再び火にかけ、煮立ったらワカメをいれて、火を止める。
お椀によそい、木の芽を浮かべると言うことないが、買い忘れた場合はなくてもいいのである。
あとはホタルイカのぬた。
今やはり旬のホタルイカの、「うまい食べ方」といえばやはりこれだ。
ゆでホタルイカを買い、水洗いして水気を拭きとる。
青ねぎはざく切りし、沸騰させて火を止めた熱湯でさっと湯通し、水で冷やして水気を拭きとる。
ホタルイカとねぎを混ぜ、西京みそと酢大さじ1ずつ、砂糖とからし少々のからし酢みそで和える。
それにわさび醤油の冷奴。
きのうはタケノコのお陰であまりに気分がよくなって、またに妄言を吐きちらしたわけである。
「春は食べるものがたくさんあって楽しみだね。」
ほんとだよな。
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コメント
ちょうど今週の頭にたけのこを買ってきて、半分は煮物に半分は炊き込みご飯に使ったところです。
そうか、焼くという手もあるのか。次は是非やってみよう。