きのうは昼飯に、福岡で「元祖長浜屋」のラーメンを食べた。
ここはどの程度「元祖」なのかは知らないが、非常に老舗のラーメン店であることはまちがいない。
以前はもっと古ぼけた店舗だったのが、ビルの1階に移っていた。大変な繁盛店だから、儲かっているということだとは思う。
しかし、この店が儲かっているのも、もっともだ。何しろラーメンは、ほんとうにウマイ。
福岡で、もし一つしかラーメン店を選べないとしたら、ここであると僕は思う。
特徴は、スープがややしゃばっとしてることである。
ラーメンは、工夫の余地が山ほどある料理だから、たとえばスープのコクを出そうと思えば、いい材料を使い、時間をかけて煮込むことで、いくらでもおいしくなる。
そういう方向性は、もちろん貴重な試みであり、否定するものでは決してないし、ぼくもそういうラーメンも大好きなのだが、大前提として、ラーメンはやはり庶民の料理だ。
日本では、戦前は魚しか食べなかったから、陸軍などでは脚気が続出したりした。やはりスタミナをつけようとしたら肉、特にビタミンB1が豊富な豚肉なのであり、お金持ちは、銀座でステーキなどを食べたのだろうと思うけれども、それが庶民にとってはラーメンなのだ。
だからラーメンは、やはり安くなければいけないと思う。値段が安価で、しかもウマイのが、ラーメンの真骨頂だ。
その点、この元祖長浜屋のラーメンは、500円。しかもため息を100回はつくほどうまいのだから、ラーメン店としては超優等生だと思う。
安いのだから、化学調味料をたっぷり使うのは、ラーメンの場合、それでいい。凝ったダブルスープで750円を取るのなら、化学調味料を使っていながらうまいラーメンが500円のほうが、830倍はいいと、僕は思う。
この元祖長浜屋のラーメンにも、おそらく、化学調味料はたっぷりと使われている。化学調味料こそはラーメンの味なのだから、この元祖長浜屋のラーメンこそは、「正統なラーメン」ともいえる。
ところがその化学調味料の、いわば雲間に、満月のような濃厚な豚骨ダシが隠れているのだ。この奥ゆかしさこそが、ラーメンだ。
無化調だ、ダブルスープだ、などというのは、しゃらくさい。それはただ、ラーメンが戦後のドサクサのなかで、安価な食べ物として人気を博したという出自を、覆い隠そうとしているだけだ
ラーメンは、ラーメンでいいじゃないか……。
元祖長浜屋のラーメンは、そういう潔さを感じるのだ。
きのうから、ふさえもんと代わって、反差別カウンターにかかわる僕も以前からよく知っている男性と合流した。
彼は普段はラーメンはあまり食べないそうなのだが、この元祖長浜屋のラーメンは「うまい」といって、僕よりも早く完食していた。
夜は松山に到着した。到着後、ヘイトスピーチ対策法の成立を祝い、打ち上げをしようと居酒屋にでかけた。
男性は、僕よりも1年以上前から反差別カウンターに参加している。その男性がカウンターを始めたころは、ヘイトスピーチのデモは数百人、それに対してカウンターは数人、などというのが普通だったのだそうだ。
ネオナチの台頭を警戒するドイツをはじめとして、世界の先進国の多くは、ヘイトスピーチを法律で規制している。
ヘイトスピーチが非差別当事者にとって理不尽な暴力であるばかりでなく、社会の健全を大きく毀損し、被差別者の虐殺や、さらには戦争までに発展しかねない危険な行為であることが、過去のさまざまな経験から明らかになっているからだ。
ところが日本は、人種差別撤廃条約に加盟しているにもかかわらず、条約が求めている「ヘイトスピーチを罰する法律の設定」を怠ってきた。
反差別カウンターを3年半前に立ち上げた人たちは、10年か20年のうちには法律ができたらいいなと、かすかな希望を抱きながら、絶望的な敗北を毎回喫することになるカウンターに参加しつづけてきた。
しかしそのことが、社会を動かし、マスコミを動かし、政治家を動かして、社会運動としては稀にみる3年余という短い期間で、問題は色々残されてはいるものの、ついにヘイトスピーチ対策法が国会で成立することとなった。
カウンターがただ、徒手空拳で差別に対抗するのとくらべ、不完全であったとしても法律があることがどんなに強力であるのかは、すでに川崎市長がヘイトデモの集合場所として公園の利用を許可しないということを表明したことからも、明らかだ。
男性は、「自分たちが続けてきたことが、今回の法律制定によって、ほんとうに報われた気がする」と、しみじみ言う。
差別デモを、あれだけの努力をしながらも、法律がなかったために止めることができず、警察すらも差別デモの味方をするような状況がつづいてきたわけだから、それは本当にそうだと思う。
そこできのうは、その男性と、ささやかながら祝杯を上げることにしたのだ。
行ったのは、ごはんとお酒「なが坂」。
ここは宿泊したホテルの目と鼻の先にあり、フロントで「おすすめの居酒屋はありますか?」と尋ねたところ、指をさして「あそこの店がおいしいですよ」と教えてもらったところなのだ。
ところがここが、食べたものがすべて、鼻血が「ブー」と出るくらい、うまかった。
松山に来たときは、ぜひここに来るべきだと思う。
まずは、お造り。
お造りは、山陰や九州、瀬戸内海沿岸の居酒屋なら、まず大きく外れることはないのだが、ここは超弩級。どれもその朝水揚げされたものを使い、それをきちんと扱って仕上げているのがはっきりわかる。
一番上の赤いのがさわら、その下の左から、ブリ、鯛、タコ、レモンの後ろにあるのがスズキ。どれも「コリコリ」とした歯ごたえがあり、東京ではどんなにお金を払っても、食べるのは難しいというやつだ。
それから、炙り明太子。
炙り明太子は、僕ははじめて食べたのだが、明太子の辛さはそのままに、たらこのような食感となって、これがまた死ぬほど酒に合う。
白子の天ぷら。
トロットロだ。
それからシメがわりに頼んでみた、特製コロッケ。
これがまた、衣はサクサク、中は普通のじゃがいもなのだが、これがクリームコロッケかと思うくらいなめらかで、こんなコロッケはこれまで食べたことがない。
大して調べずに行った居酒屋で、これほど当たることは、ほんとうに珍しい。これは神様が、ヘイトスピーチ法案の成立を、ともに祝ってくれたとしか思えない。
そしてもちろん、これだけ肴がウマければ、酒は飲み過ぎるわけである。
ラストオーダーで、男性も僕もそれぞれ酒を2杯ずつ頼んでしまったため、閉店時間がきても飲み終われず、お店の人にちょっと迷惑をかけてしまったのは申し訳なかった。