香川県にやってきた。香川といえば、やはりうどん。昼飯は、讃岐うどんを食べに行った。
香川には、うどん店は山ほどある。好きな人は、1日に5軒も6軒も、うどん店をはしごするという話も聞く。
そのなかで、きのう行ったのは「なかむらうどん店」。
ここは今でこそ、繁盛して建物がふえたのだが、以前はほんとうに、畑のなかに掘っ立て小屋が一つあり、そこでうどんを出しているだけの店だった。農家がサイドビジネスとして始めたものだったと思う。
この店が繁盛したのは、伝説があったからだ。
農家が兼業でやっていたから、人手が足りない。それでネギが足りなくなると、お客が裏の畑に行って、自分でネギをひっこ抜き、洗って切って、自分のどんぶりに入れる……、というもの。
これはたしかに事実である。僕の大学時代の先輩が丸亀の人で、30年ほど前に、たしかにそれを体験している。
その話があまりに面白かったから、先輩の知り合いの作家が雑誌に書き、それでこのなかむらうどん店は、一躍全国に知られることとなった。でも今は、もうお客さんが増えすぎて、ネギも畑のだけでは足りなくなってしまったのだろう、カットネギになっていた。
お店の入り口を入ると、元からある掘っ立て小屋は、今は調理と、お客さんがゆで上がったうどんを受け取り、具や薬味を入れてお会計をするだけの場所になっている。
食べるのは、そのとなりに建てられた、もっと大きい建物でとなる。
うどんは、1玉の小、2玉の大、3玉の特大の3種類。
僕は普段なら、うどんは1日に2玉で十分足りる。しかし今回は、旅をするのに体力を使うし、しかもなかむらのうどんはここで食べなければ、次にいつ食べられるかわからない。
そこで、特大。
こうして毎日食べ過ぎてしまうから、旅をはじめてから、腹が出てきてしまったわけである。
げそ天とちくわ天、それに温泉卵と薬味を乗せて、お勘定は税込み650円ほどだ。
でありながら、もちろんウマさは、もし掘っ立て小屋の裏の畑がまだあれば、そこを30周は走りたくなるレベル。
強いコシがあり、モチモチとした絶品だ。
晩飯は、高松で食べた。
香川には、うどん以外にもう一つ名物がある。それは、骨付鶏。
元祖店は、戦後すぐに創業した「一鶴」だ。
丸亀が本店で、香川県内にも数店舗を展開し、さらに今では全国展開もはじめている。
僕がこれをはじめて食べたのは、30年くらい前、大学生のときで、「世の中にこんなにウマイものがあるのか」と感動した。
まあそのときは、まだ若くて物事を知らなかったということはあるけれど、今これを食べても、相変わらずうまくて、思わず涙が出そうになる(それはウソ)。
味つけは、たっぷりのニンニクとしょうゆがベースとなっていて、まずタレに漬け込むのだと思う。タレの味が、バッチリ中までしみている。
これはから揚げとおなじ味つけとなるわけで、骨付鶏の味をひとことでいえば、から揚げだ。
ただし骨付鶏がから揚げとちがうのは、骨付鶏は油で揚げるのではなくて、オープンで焼いていること。だから皮がパリパリで、その香ばさが大きな特徴。
ナマのキャベツと一緒に食べると、ビールが進むこと、進むこと、ジョッキを口に運ぶ手が疲れるほどだ(これもウソ)。
それからもう一つ、一鶴の骨付鶏には大きな特徴がある。それはメニューに「親鶏」があること。
普通、お店で売っている鶏肉のほとんどは「若鶏」だ。これは生後だいたい3ヶ月以内の鶏を指す。
それに対して親鶏は、年齢はそれ以上の、卵を産んだことがある鶏のことを指し、肉質は硬いのだが、それが快い歯ごたえとなり、さらに若鶏よりもうまみがある。これをシコシコと噛みながらビールを飲むと、しみじみと幸せを感じるのだ。
骨付鶏は、元々は一鶴のオリジナル料理なのだが、現在では他店も出すようになっている。
本当にうまくて、食べるとたぶん、180回くらいはため息が出るはずだと思うから、機会があれば、絶対に試してみたらいいと思う。
きのうの夜は、この骨付鳥でビールを飲んで、昼の特大うどんと合わせ、腹は一杯になってホテルにもどった。
この調子で食べつづけていたら、旅が終わるころには、僕の体重は300キロにはなっているのは確実なのだが、こううまいものばかりだと、それも仕方ないというものだ。